妻の怨返し


「妻の怨返し……?」


 休日の昼下がり。

 この新居を建てる時、特にこだわった憧れの書斎のPCで何気なく見ていたTwitterの画面に、そんな広告記事が載っていた。

 URLをクリックして内容を確認すると、浮気されたり、暴力を受けたり……まぁ、とにかく酷い夫に何かしら復讐をしてくれるサービスのようだ。


 最近はなんでも仕事になる時代だなぁと感心していると、後ろにあるドアから妻の声がする。


「あなた、コーヒー淹れたけど飲む?」

「あぁ、飲む」

「わかったわ」


 今まで行って来た復讐の具体例が載っていたため、俺は気になってそれを読んでみる。


【夫は、私の料理が不味いと言って、箸もつけてくれないどころか、お皿ごとゴミ箱に……。そして自分だけ好きなものをUberで頼むんですよ。なので、その注文した商品に下剤を入れてもらいました。何度もトイレに駆け込む姿は最高に面白かったです】


【夫は、私が働いている間、会社の若い女とホテルに……。なので、部屋の内部に監視カメラを設置して、動画を撮ってもらいました。それを全社員に送りつけてもらいました。おかげで簡単に慰謝料もとれて、利用して良かったと思っています】


【主人は休日いつも書斎にこもって、子供の相手をしてくれません。平日も仕事を理由に何も手伝ってくれないですし……私がドア越しに話しかけても、そっけない返事ばかり。なので、いつも飲むお茶に少量の毒を入れてもらいました。少しづつ病気になるように専門の方が配合してくれました。自分の死期が近いと思い始めたのか、最近は少し優しくなりました】


【うちはもう、私の顔すら見てくれません。話しかけても、ずっとスマホやテレビの画面から目を離さなくて……】



 そこまで読んでいたところで、ドアが開く音がした。

 コーヒーのいい香りがする。

 妻がコーヒーを持って入って来たのだろう。


「あなた……」


 俺はPC画面から目を離さず、続きを読む。


【なので、私の代わりに妻になってもらいました。私は子供たちを連れて、その間実家に戻りました……】



「コーヒー、ここに置きますね」

「あぁ……」


 俺の背後から妻はスッと色の白い手を出し、コーヒーが並々注がれた白いマグカップをマウスパッドのすぐ横に置いた。


 あれ……?

 妻の手は、こんなに色が白かっただろうか……?

 男の俺の方が色が白いと、結婚前に羨ましがっていたはずだ。


「…………」


 あり得ない考えが頭を過ぎる。

 まだ背後に立っている妻の気配を感じ、背中に嫌な汗をかく。


 俺は振り返り、画面から視線を妻に移した。



【もうすぐ三ヶ月になりますが、何の連絡もありません。本当に、男って馬鹿ですよね】









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