27話 悪役は努力する 終
「ヒョーゴさん……」
真っ赤な顔をしたサリーさんが寂し気に口をゆがめる。
「なんだ?」
それに対して俺は淡々と聞いた。
あまり、良い雰囲気は感じなさそうな内容だけど予想する。
まあ、聞くしかないな。
そうしてサリーさんは言葉を発した。
ブラウンの瞳を大きく見開いて。
「ハッキリ言います。勇者を辞めませんか?ヒョーゴさん。
私は……これほどまでに、失う事に恐怖を抱いたことはありませんでした」
言葉を続ける。
「私は大切な人を、自分の行動によって……亡くして、
いや、結果的に殺してしまいました。だから、今回は、間違えたくないのです!!」
大切な人って、俺の母の事だよな。
あれま、そんなにサリーさんて日常的に執着を見せるタイプだったけ?
初めて会った時は、俺をゴミを見るような目……無感動すぎて、驚いたけど。
今の彼女は感情的すぎないか?!
流石に、『ざまあ』される、悪役に対してするべき行動じゃないんだが?!サリーさん!!
「何を失う恐怖だ?」
ここで俺、勘違いしてるのが一番恥ずかしい!
サリーさんが、俺に対して価値を見出している訳もあるはずないし、
もしかしたら、まったく関係が無かったら困るし。
一応、確認を取る…
「ヒョーゴさんに決まってるでしょ!!だって、私はヒョーゴさんから沢山喜びを貰ったんですもの………!!それ以外ありえないのです!!」
…………思い出した。
『そんな私は何も喜べることをさせてあげられなかった!…でも、これ、好きなんですよね?』
ヒョーゴは、酸欠だった時の記憶を思い起こした。
それは、『女神様の祝福』の儀式に向かう前の事。
サリーさんに抱擁された時、
ヒョーゴ自身、しっかり話を聞いていたつもりだったが、状況ばかりに混乱していたせいで頭の中でしっかりできていなかった。
いやいや、なに俺が忘れてたんだ!!
なんか、最近サリーさんがよく落ち込んでるなあって思ってたけど、
これが原因の可能性。
言い方恥ずかしいけど、
「あー。サリー……もしかして……酒が進んでる理由って、」
「ヒョーゴさんが居なくなりゅと寂しいからに決まるてますよ!!ヤケれす!!」
サリーさん~まだ俺、二年間ぐらいここにいますよ~。
そういう事じゃないか。
――――サリーさん?ちょっと待って!泣かないでくれ!
あーーー!涙がボロボロ……。
ダメだ……。
酔ってるせいで言葉が届いてないかも。
「はあ、………失うわけじゃねえし。俺も簡単に死ぬ気はない。」
とにかく安心させなければ。
サリーさんが悲しい理由は失う事への恐怖だよな。
別に俺だって、死ぬ気はない。
勇者パーティー育成が終わったら、辺境でぬくぬく生活したいし、自虐することに優越感を覚える変態でもない。
とにかく、俺だって生き残りたいのだ。
「その言葉が一っっっ番、安心できないんれす!!トールさん話聞いてましたかぁ?明らかなるフラグじゃないですか!ドアホですヒョーゴさん」
ド、ドアホ……。
まさか、形勢逆転二度目。
俺に悪口を言うなんて、サリーさんがこんなにも感情的になるなんて予想外すぎるぞ!
―――ちょっと、今度は掴みかかってきてるぅ!
ああもう! これは全部酒のせいにする。
さて、どうしたものか。
俺は頭を悩ませた。
俺に掴みかかってくるサリーさんの手をそっと握った。
「……え?」
そして、 サリーさんの目を見てはっきりと言った。
「大丈夫だ。絶対に死にはしない」
本当に、サリーさんと過ごす日々は発見がいっぱいだな。
時には辛いけど。マジで面白い。
だから、俺は捻くれながらも本当のことを言っていたつもりだ。
少なくとも、行動は彼女に寄り添ってた気がする…。
このセリフは嘘じゃないと信じてくれるだろうか?
本当にそう思う。
俺が死ぬ? あり得ないだろ。
だって………
「サリーに教わっている『鬼愕羅夢音』があるからだ」
サリーさんが教えてくれた、 技の名前を口に出す。
「……っ!だって、その技のせいで私は…!!」
サリーは狼狽えた。
俺の言葉を聞いて、目を丸くして。
はあ、まだ、トールさんの死を気にしているのか。
……俺も克服はできてないけど。
「これは世界最強の流儀だ。こんな技を持つ俺が負けるはずがない。そうだろ?」
自意識過剰。
それでいい。
てか、世界最強とか言っているくせに他の流儀知らん。
それでいい。
俺が言いたかったことは…。
「断じて、サリーは人殺しではない。……その、ありがとな。色々と」
俺を救ってくれてありがとうってね。
初手から死にそうな俺助けてくれたし()
そんな気持ちを込めて、感謝を伝えたかったんだ。
「ヒョーゴさん……」
緊張がほどけたのか、サリーさんは力が抜けてその場にへたり込んだ。
きっと酒が回って、体力的に限界だったんだろうな。
「おやすみ」
サリーさんが眠った後、 俺は彼女の体をベッドまで運んだ。
結構、体重軽かったぞ。
多分、年下の俺の方が重い。
「トールさん………むにゃむにゃ」
………トールさんね。
転生して、母の記憶が全くないが、やはり空虚感を感じる。
これは一生拭えないかもなあ。
~~~~~~~~~~~~
翌朝、
「うぅ……頭が痛いです。昨日の記憶が……全くないのです」
サリーさんが、頭痛に悩まされていた。
まあ、そりゃあそうだろうよ。
あんなに泥酔してたら、記憶も吹っ飛ぶわな。
「ヒョーゴさん!私、変なこと言ってませんでしたか?!」
「特には、なかったと思うが……」
「本当ですか?!」
「うん」
……サリーさんからしたら、嫌な事を思い出させるのもアレだしね。
「良かったです……安心しました。
それにしても、ヒョーゴさん?今日はいつもより早く起きてるのですね。何かあるのですか?」
ふふふ(* ̄▽ ̄)フフフッ♪
俺は昨日、ベッドの中で気付いてしまったのだ。
いや、別に変な事は妄想してないよ。
普通にまじめに今後について考えていた。
そして、考えた最高の案よ!
「もし、サリーに勇者パーティーに入る資格があったら……どうする?」
「………………どういうことですか?!」
サリーさんが驚いた顔でこちらを見る。
「勇者パーティーに入ったら、サリーには毎日会える。寂しさの解消につながると思うが……」
「………………」
あれ?返事が無いんだけど。
あ、やっぱ。昨日は酒が回ってたせいで変なことを口走った感じ?
恥ずかし。じゃあこの話は無かったことに……。
「入ります!!勇者パーティーに入りたいです!!」
「え?マジで?!」
即答かよ! こっちもびっくりしたわ!!
……まあ、確定じゃないけど。
不安なのは、この世界ではオーガ族は魔族判定っていうね。
もしかしたら無理かもしれん。
そうしたなら……俺はサリーさんと別れることになるわけで……。
―――あれ待てよ?
俺と別れた後のサリーさんって何すんの? え?ヤバいじゃん! 今更だけど! 俺、サリーさんの事全然考えて無かった! これって俺の責任じゃね?! ええ?どうしよ!!
「ヒョーゴさん?別に私は勇者パーティーに入りたいですけど、多分無理でしょう」
あ、理解していたのね。
サリーさんは、意外と賢いからな。
「でも、もし入ったら、私はヒョーゴさんと一緒に旅をしたいのです」
「……もし無理だったらどうするんだ?」
「その場合、【帝国公員】に応募します。これはオーガ族も弾圧されないと、規定に書いてありましたので……」
【帝国公員】……どうやら、前世で言う、国家公務員的なものらしい。
勇者パーティーは帝国直轄の組織で、こちらは帝国の行政機関に所属する。
つまり、離れ離れにならない。
サリーさんの知識おそるべし。昨日は酒のせいで頭が空回りしてたけど。
これは良い方向に話が向かいそうだ。
今後も定期的に話し合いをしよう。
「……なぁ、サリー」
さーて、先も見えない話は終わり!
今を楽しまなくちゃな。
「はい」
サリーさんは今日も銀色の髪をなびかせて、笑顔で答えた。
うん、可愛い。
「次、街に行くときに一緒に行かないか?手が足りないんだ」
「…っ!はい!喜んで!!」
次の買い出しは、初めての取引もあるからなあ。
俺は俺なりに頑張りながらも、サリーさんに頼りますか。
こうして離れていった、心がまた通う。
とても気持ちの良い朝だった。
~~~~~~~~
聖歴、3521年1月3日
「なあ、ブラックマターって知ってるか?」
「ぷっ!なんだそのダサい名前はw」
「はあ、これだから素人は困る。通称:ブラマ。魔族の暴走による災害のことを指すんだ」
「で、それがどうしたんだ?」
「先々週の事だが、ロイロ・クラシで大規模なブラマが起こった」
「えぇ?!あの発展してる街でか?!」
「そうそう、ちなみに勇者が二人も出た王国領だったな」
「勇者がいるのか?!二人も?!まあ、逆に安心だな……」
「いやそれでも、死者が大量に出ている。復興するのに数年はかかるな」
「はぁ!?勇者が二人なのに?」
「そうそう、帝国が発表した内容だと…………魔王幹部が居たそうだ」
「……幹部に……勝てる訳ねえよ…。…で?その勇者は生きてるのか?」
「さあ?それは知らんな。どうだろう?———まあ、幹部が出て来た時点で詰んだかもなw?」
作者より
さてさて、皆も夜更かしは止めて早く寝ましょう。
夜遅いコメントには。「早く寝なさーい」が付くのでご注意ください。
では、
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