第16話 ムーミニ SIDE

…私はエルフ王国の後継者として生まれた。

名前はバルセロナ・ムーミニ。

他の女王候補は、いない…はず。

…私は知らないだけでいたのかもしれないけど。


バルセロナ族の権力は昔から強かったの。

逆らう者なんて、明日にはエルフ王国から姿を消していた。

無理を通す、悪魔のような権力者。

その一員に私はいるの。


妹、弟、姉様、そして私。

私は二番目に生まれた妹。

普通は子供なんかに権限はないはず…。


だけど、これはエルフ王国の女王様である私の母様が産んだ財産。

「決して穢してはいけない高貴なる存在」

これが私達の立ち位置だった。

特段可愛いがってくれたの。

だから不自由なく育った。


…権利も必要以上に貰った。

そのせいかな?私達兄弟の関係が崩れたのは。

まさに狂気だった。

一番下の妹は100人という使用人を殺した。

弟は3つのエルフ王国直轄の田舎町を破滅させた。


何を考えているのか分からない。

ただ怖い。

権利を手にすると何かを失っちゃうんだろうな…。


でも、姉様は昔から変わらず優しかった。

誰にでも平等に接していつも笑顔が絶えない。

私の中での天使、それが姉様!


…でも、

姉はきっと耐えられなかったのかな?

ある日、姉はこの国から消えた。

そう、家出したの。

死ぬはずはないもん、だって強いから。


家から居なくなる前の日のこと。

姉様は諦めたような表情を窓の外へ向けていたのを覚えてる。

そして、

「私の人生に色を持たせるためには権威なんていらないの。ムーちゃんも理解してるよね。このバルセロナ族には悪魔が宿っているんだよ。」


私に忠告をして…そして…居なくなったの。

唯一、優しく純粋な心を持っていた姉が消えた。

その後は醜い兄弟だけが残った。


関係は最悪でいつも私は二人に睨まれながら日々を送っていた。


ほんっとに最悪。

誰も信じれない。

権力を持つエルフは私を貶めようとする。

権力を持たないものは報酬を異常に求めてくる。

私の存在なんて二の次。


怖い。

なんで、こんな世界に私を産んだの?


そんな状況に反比例するかのようにエルフ王国の権威は日毎に増していった。

潰れかけの村のへーごう。

人間の国とのぼーえき。


言葉の意味は分からないけど、怖い。

どんどんと飲まれてゆく感触がするの。


当然に私達、財産にも権利は回ってきた。

権利、力、兄弟はどんどん行動がエスカレートする。

だから私は一度も力を使ったことがなかった。


必要無いもん。

私は私のままでいたい。


その結果母様はそんな私を見て、異常なほどに気に入ってもらえたの。

「権力を手にしてでも、驕り高ぶることが無い…。バルセロナ族の鏡だわ…!」

…それまでは良かった。


でも、気に入られた私には弟たちの倍以上の力を貰った。

今の私だったら簡単に人間町を幾つも潰せるくらいの力。

母様が唯一、安心して権力を渡すことの出来る存在。

それが私の立ち位置になった。


権力なんて要らないのに。

権力は悪魔。姉様から教えてもらった言葉。

私ならその意味がわかる!

絶対にバルセロナ族に飲まれるものか!


私はそう誓ってた。

…でも、



「ギリギリ許しを貰った上で勝手な行動をされるとは…。流石に見逃せない行為ですよ。ムーミニ様。」


馬車に乗られながらそう言われた。

なんて私の使用人はケチなのかな…。

数少ない信じられる人だけど。


いまはロイロ・クラシから帰っている途中。


「箱庭に閉じ込める母様がいけないの」


もういないけど。

去年死去したの。

今はお父様が臨時で王の座を受け継いでいる。


「女王様の座を受け継ぐのは貴方様なんですよ。少しは自分の身を守る行動を…」


「女王様になんて!…、女王様になんてならないもん!!」


私は大きく叫んだ。

いつも言ってる言葉。でも…。


「今日のワガママには陰りがありましたけど、何かあったのですか?」


私の使用人も敏感に感じ取る。

…っ。

なんで私は濁らせたの?

分からない。

分からない、けど


「ヒューゴ様…」


頭にはあの人の顔が浮かんできた。

理由は知らない。けどあの人の顔は鮮明に思い出せるの。

思い出すたびに胸の中で疼きが起こる。


ヒューゴ様に握られていた手も熱い。


知らない感情。だけど…。


「あの街で変な事を囁かれたのですか?!」


使用人はムーミニの方を向いて肩を揺らした。

それ程までに使用人は取り乱していた。


次期女王様が下の身分の者に影響される。

決してあってはいけないことだった。


普段なら許されぬ行為、幸いなことに周囲にはムーミニしかいなかったので、

不問になる。


元々ムーミニも優しい性格の持ち主で誰に対しても寛容がある。

人見知りな部分が見え隠れしているが。

たとえムーミニを殺そうとした者にも彼女は慈悲があるだろう。

周囲が独走しているだけである。

ムーミニはまだ、悪魔に取り憑かれてはいなかった。


「変なことしてない」


「でしたら、盗まれたりなど…」


使用人の言葉でハッと気付く。

今まで違和感を持っていたこと。

……盗まれてない、取られてもない、

求められてもいない。


ヒューゴ様は何をしたかったの?私を助けたの?

どうして…、どうして

彼が否定されたときにこんなに怒ったの?


「…」


ムーミニは無言になる。

私は…なにも渡してない。

でも、ヒューゴ様は助けてくれた…。


利益のためじゃない。


私のために振るった暴力。

私のために我慢してくれた優しさ。

私のため、私のために。


見返りを求めない、人の為を思って行動できる【誠実な人】。


頭の中で止め処もなく感情が溢れた。

とても危険な感情が…。


私自身でもわかる、

これ以上、以上言ってしまったら戻れない。

考えてしまったら駄目。


ヒューゴ様のことを考えてしまったら…。


「わたし、は…」


胸の疼きが酷くなる。

これは、私が恐れていたはずの感情なのに。

ダメ!

私はあの時、誓ったはずなのに!


そんな私の抵抗も、意味がなかった。


「………私は、ヒューゴ様が欲しい…」


誰にも聞こえないように声を漏らした。

もう、戻れない。

バルセロナ族の呪い。

バルセロナ族の悪魔。


私は恐れていたはずなのに。


ヒューゴ様を手に入れたい。

なんとしてでも、

何を使っても、

たとえ権力に手を出しても…!


どす黒い感情が私を支配した。

普段なら吐いてしまう程の嫌な感情。

でも、今はとても気持ちがいいの。

ヒューゴ様が私の隣りにいてくれるのなら!


お姉様、ごめんなさい。

私は女王様になってみたいの…。

そして…あの方を、私の所有物にしたい。

そのために、私に好意を持って欲しい。


彼の誠実さは捕まえるだけでは私に向いてくれない!

もっと激しい感情が!!


ムーミニはヒョーゴに抱かれる妄想をして、心を奪わたような表情をする。

欲しい、そして彼にハジメテを奪われてみたい。


きっと彼は、より権力の強い人を好きになるに違いない!


だって、みんな権力は大好きだもの!

私のことをもっと好きになってくれる…!

私は…女王様になって沢山の権力を手に入れて…!!。


「…ねえ。王位継承はいつ行われるの?」


「…?今から六年後くらいですね。…まさか!」


手に入れるの、ヒューゴいや、ヒョーゴ様を。

私は女王様を受継ぐ。

兄弟には渡さない。



権力の悪魔に取り憑かれたムーミニは、

完全な勘違いを…

そして、ヒョーゴをただただ想うだけだった。








作者より

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