第15話 悪役、街で暴れる 終

「貴族?うぜえんだよ!とっとと帰りやがれ!」


ふう、やっと言いたいこと言えた。

後先も気にせずに放った言葉気持ちー。

うざかったからね。

一度くらい殴っても俺としては赤字だ。

お釣り出るまで殴らせろ!ってな。


「っ!ブータ様!大丈夫でしょうか!!」


俺がブータ貴族を殴ったあと、すぐに馬車の運転手は駆け寄った。

自分の利益が減ることを恐れてるように見えるけど…。

まあ、気にかけて貰える雇い人がいるだけで嬉しいと思ってろ!


俺なんて罵倒されるだけだし、

…あー。フード少年ね。

確かに庇ってくれた気はしたけど…。

事の原因は君だから!


「よくもブータ様に!」


俺がフード少年の事を考えている間にも、馬車の運転手さんは怒っている様子だ。

俺を怒らせる言動は棚に上げたか…。


ってかフード少年を暴れさせた原因め!


「あ? お前一人で何が出来る?」


俺はフード少年に手を出されることにキレた。

だから殴ったまで。

後は厄介事になる前に帰りたいだけ。


そこそこの威圧を向ける。

すると、運転手さんは怯えた顔をした。

ふん!悪役顔を舐めるな!


その後はプレッシャーの掛け合い合戦だ。

立ち位置のないモブと本物の悪役。


もちろん、勝者は俺だけど(⌒▽⌒)。


これで、全てが丸く収まる。

さあ、そろそろ本当にお帰願おうか。


「これ以上絡んできたら…ただで済まねえぞ?」


そして俺は声を張り上げた。

…緊張したけど。


ブータの奴は俺に殴られて吹っ飛ばされてるし、俺を貶してくる運転手さんは威圧で動けない。


俺の勝ちだあ。


「もう絡むな、ちびっ子。お前面倒くさいから早く届けるわ。ついて来い」


迷子のフード少年の手をまた握り、ここの場所から離れようとする。

周囲の目はもちろん冷たいもので、みんな俺のことを哀れんだ目で見ている。


「小さい子を拉致してるなんて…」

「貴族に楯突いたぞ。アイツはもう破滅だな」

「親不孝め」


はいはい、慣れてます。

破滅…可能性はある。

でも、俺は3年後には勇者パーティーの一員となっている。

勇者パーティーといえば国の直轄であるイメージもあるし、報酬は沢山出るだろう。


多分、弾圧を死ぬまで恐れる必要はない。


「ん、んん!」


なんか、フード少年うるさいんだけど。

可愛らしいうめき声だしてる。

この子平気かな?病院行ったほうが良いんじゃない?


俺が手を握っていることが原因か!

うわあ、拒絶反応ってやつ?傷つくわあ。


「もし嫌なら…」


手を離そうか?

流石に心配になって挙動不審なちびっ子に

俺は問おうとした。


しかし、奇妙な気配に俺の直感が反応した事で言葉が止まる。

何だこのゾワゾワしたような感触は?


ま、まさか!


俺は嫌な予感がして振り返る。

…。

またかよコイツ!

懲りないというか怖い!

そこには手綱を持ったブータ貴族がいた。


俺らの方を睨んで屈辱に顔が歪んでいた。

額にはいくつもの青筋が浮かび上がっおり、正気ではないことが分かる。


「許さないでおじゃる!許さないでおじゃる!」


手綱を伸ばしたり縮めたりしながら

威嚇をする。

戦いというものは冷静に分析して行うものだ。


今の彼だったら誰にも屈しない程の馬鹿げた量のアドレナリンが流れているのに違いない。

それは勇気ではなく正気失ったという一種の諦め。

正気を失う事は自ら降伏するのと同じことをしている。

怖いうえ限りないけど!


「…許さないでおじゃるう!!」


しかしブータ貴族は気付いていた。

絶対にヒョーゴ相手には勝てないことを。

…そして自分自身の事すら守れない哀れな存在、フード少年がいることを。


「…っ! ちびっ子!!」


進行方向が俺じゃない!

まさか攻撃が外れたとか?それはありがたい…

ってえ?なんか計画通りみたいな顔やめてよ!おっさん!


えー?

ブータのおっさんは何をしようとしてるん?

進行方向、進行方向。手が向かっている方向は…

…ちびっ子だ!!気付かなかった…。


「…きゃ!」


突然の行動に唖然としていた俺だが次第に状況が飲み込めてくる。

…この攻撃は俺を狙うための攻撃じゃない。

フード少年を狙ってる!

弱いもの狙いは卑怯すぎる!!


俺はそれに勘付くと直ぐにちびっ子の腕を思いっきり自分の方に寄せる。

それと同時に俺とちびっ子は密着する。

なんか、柔らかいし、温かいし、いい匂いがするんだが…?

ってそんなことを考えている暇ではない!


俺は覚悟を決めてブータ貴族を殴る体制に入った。

貴族を殴るのは大問題だけど、これも正当防衛だろ!!

さあ、こい!…


「喧嘩、だめ!」

「?」

「ん?」


その時、一人の小さな悲鳴が聞こえる。

悲鳴というか仲裁の声?

透き通ったようでとても柔らかい声だった。


声の主を探して、

俺は唖然とする。

ちびっ子を近くに寄せたときの衝撃でフードが外れたのだ。

そして今、俺は素顔を凝視していた…。


「…なぬ!」


ブータ貴族も小さなうめき声を鳴らす。

大きなフードで見えなかった顔。

…それは水色の髪と赤い瞳、頬はまだふっくらとしていて、唇にはまだ子供のあどけなさが残る。

そして特徴的な長い耳。


そう、フード少年は少年ではなく「エルフの少女だった」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…ありがとうございます。助かりました」


うーん。

少年じゃないんだ…。

エルフの少女、まじかあ。


俺はフード少年、改めてフード少女の顔を見てため息をついていた。


あの後、貴族は相手がエルフだと分かってすぐに帰っていった。

人によって態度をコロコロ変えやがるな!

そう、あのブータは一目散に馬車に逃げ込んでいった。


多分、あいつはエルフの国から保護を受けているらしいから、エルフ族を攻撃した事実が公にされることを恐れたんだろう。


まあ、もう終わったことだし。

いいよ。

別にあの貴族には恨みはあるけど、復讐するほど俺だって暇じゃないし。

ただ、今後一切干渉してほしくない。

あのキモい顔見たくないもん。


アドレナリンがドバドバ分泌されてた顔を見たか?

めっちゃ気持ち悪かった。


「…」


まあ、気持ち悪いと言ったら俺もだけど。

一つ

・見ず知らずの少女の手を握っていた件

一つ

・抱き寄せてしまった件

一つ

・勝手に男性だと思ってドストレートに質問をしまくっていた件


実はあの貴族に会う前に幾つかぶっきらぼうに質問を投げていた。

全く、少女だと気付かずにデリケートな質問を普通にぶつけてた気がするわ!

これ、セクハラに該当しますかね?


転生しょっぱなから捕まるとか嫌なんだけど!

悪役、迷子を助けて捕まる。

かっこ悪すぎだっつーの。


過去の自分の行動が俺を不安にさせる。

そんなことを考えていると、道が開けてきた。

悶々とした空気と一変。


目の前に広がった光景にはたくさんの出店、

馬車、人、冒険者などが盛んに行き行きしていた。


「目的地…。ここがクロス・トニーか…」


この街の主要な道がすべて集まる場所。

クロス・トニー。

相変らず、異世界感が漂ってますね~。


「おいちびっ子、ここがお前の言ってた場所だろ?」


「…そう」


「それなら案内は終わりだ。じゃあな、」


小さな会話を交わして俺は去ろうとする。

結構時間がかかってしまった。

暗くなる前には山を登りたい。

暗いと何も見えないんだよ…。


「ヒューゴ、待って!」


突然、名前を呼ばれて振り返る。

そこにはさっき外れたはずのフードをまた、少しだけ被っているエルフの少女の姿があった。

少し被っているので俺からは顔のほとんどが見えるが、周囲の人からは見えていない。

どした?ヒューゴに、さん付けないのか?


テキトーな事を考えながらフード少女の次の言葉を待つ。

彼女は必死そうだったから何となく無視することは止めておいた。


「私の名前はバルセロナ・ムーミニ!」


おう!そうか名前ね。

おっけ理解した覚えた。

…で?


俺は戸惑いながら少女の顔を見つめる。

全く、意思が伝わらない。

名前を言うだけ?

必死そうだし…、名前を言うのが無礼な文化とかあるのかなあ?


「私の名前はバルセロナ・ムーミニ!!」


知っとるわ。ムーミニでしょ?

覚えました覚えました!


「はあ、くだらん。じゃあな」


困惑を隠しながら俺はここを去る。

ここで俺はまだ、言い訳をしていないことに気付く。


あの貴族からあの少女を守った言い訳を。

まあ、どうにかなるだろ。

もともと俺は悪人顔だし悪い方に補正されやすい。


あのムーミニちゃんが頭の中で勘違いしてくれるだろう。

ふう、とにかく買い物しますかあ。

今日は散々町で暴れました。

もう、こんな事は懲り懲りだ!!!


俺は自分自身に二度と街で目立たなくすることを誓った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「やっと見つけましたよ。ムーミニ様」


ムーミニと呼ばれたエルフの横にはメイド服を着た一人の女性が立っていた。


「もう、危なっかしい散歩は満足されましたか?」


すこしどすの利いた声でフード少女を問い詰める。

ムーミニは申し訳なさそうな顔をしながらゆっくり目を逸らす。


「はあ、エルフ王国を継承する者がこのような場所で危険にさらされることを見ていられないんですよ…」


メイドは空に向かって愚痴を吐く。


「王位継承をする自覚を持ってくださいね。

王家の血を引くバルセロナ族、ムーミニ様」




作者から

次回、ムーミニちゃんSIDE

街編終わった!

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