第13話 悪役、街で暴れる。 5

※「町」ではなく「街」の表記の方が正しいと感じましたので、変更します。

(多分、前の話の途中で置き換わっていると思います)


「まろはエルフ王国の係属の土地を有する貴族でおじゃる!」


あぁ、今日は変な奴にしか絡まれねえな。

俺は謎の衝撃により体、特に肩の部分が痛い。

肩という部分は重要な神経も通っている。


そこを刺激されたため、

少々立つことが難しい。


だから、

俺がおっさんに対して屈する形になっている。

動かせるけど少し麻痺しているみたいだ。


「エルフ王国の…貴族…だと?」


そう聞こえた。

どうやら、どこぞの王国のお偉いさんらしい。

…エルフか。


確かに、おっさんの格好はモフモフとした服で一目で高価な物だと感じることができる。

あと、ネックレスを沢山身に着けてるな。


「ふん!小汚い者がこの道を歩く事が目障りでおじゃる」


周囲を見ると一台の馬車が目の前に止まっていた。

馬車…ということは。

この衝撃の原因これかあ。


ヒョーゴはこの貴族が乗っていた馬車に突き飛ばされたらしい。

馬車といえど、撥ねる威力を馬鹿にしてはいけない。

あまりの勢いに目も見張るほどの馬力と個人的な財産を守るための頑丈に作られた荷台。


それをぶつけたわけか。


本当に異世界には腐った貴族もいるんだな…。

やはり、俺は真っ白で綺麗な異世界を想像していてしまったみたいだ。


…はあ、帰りたい。


「ヒューゴをこんな奴にっ…!!」


なにかフード少年が喋ろうとする。

もちろん、これ以上話させるつもりはないけど。


俺は素早くフード少年の口を腕でふさぐ。

もごもごと口を動かしていたがやがて静まった。

ふう、とんだ問題児だ。


「ちびっ子、そろそろ行くか」


俺はフード少年に語りかけるとヨロヨロと立ち上がった。

肩辺りはマヒしている状態で、指の先っぽがジンジンする。

足も少し痛みが残る状態。


俺が取るべき行動。

それは立ち去ることだ。

権力に抗ったとしても後に弾圧されることは目に見えている。

しかも、俺だけでなく、サリーさんにも危害が及ぶ。

反抗なんて欠点しか見当たらない。


「まろに向かって背を向けるとは何事でおじゃるか!!」


背後からおっさんの怒鳴り声がする。

それだけなら無視することで済んだ。

しかし、この貴族は俺の背中を蹴ってきた。


蹴ってきただと?

まあ、大丈夫だろう。あのチンピラの攻撃でも痛くなかったし。

運動していないおっさんの攻撃なんて痛くも痒くも…。

そう思った時、違和感を感じた。


「…っ!」


突如、激痛が襲ってきた。

…は?

何だこの痛み、刺されるような痛み!!

背中辺りがじんじんと痛む。

馬車に突き飛ばされた肩と位置があまり変わっていなかったため、とんでもない痛みになる。

表面を叩かれる様な痛みではない。


…これは、

きっと、ハイヒールだ。


おっさんの上半身の服に目が行き過ぎていた。

足元を確認してみれば予想通り、ハイヒールを履いていた。


ハイヒールは痛ぇよ。

くっそ、盲点だった。

てか、この格好でハイヒールとかキモッ!


反撃もできないこの状況はどうしたものか?



「ははは!ブータ様、ヒョーゴっていうは街一番の嫌われ者ですよ!!」


また新しい声が聞こえる。

誰だ?

そこには馬の首から下げた手綱を握っていた男が居た。

どうやら、この馬車を運転していたやつみたいだ。


ブータ様…か。

この貴族の名前だな。

あー面倒臭いわあ。背中めっちゃ痛いし。

やり返したら弾圧されるし。


「…とにか…く、ちびっ子、落ち着け」


はあ、言葉も出ずらいー!

伝わったかな?

さっきから、フード少年も悩みの種なんだよね。

腕で抑えてるからいいけど…。

めっちゃ、ブータの方に向かって肩を震わせているんだよね。


さっきまで落ち着いていたけど、

俺が蹴られてから様子がおかしい。


拳を前に出してるし、やべえ。

なぜお前が怒るんだ?!


貴族の方はというと、


「両親が死んだぐらいで、捻じれた性格になってしまうなんて哀れでおじゃるね」


はあ、運転手の入れ知恵だな。

どれだけ広まれば気が済むのか…。

俺が嫌われている限りずっとネタにされそうだなあ。


「小さい子を拉致するほど、落ちぶれたのでしょうねえw」


今度は馬車の運転手からの罵倒。

迷子の子を助けてるっつうの。

まあ、俺を悪役として認知させる為には良いキッカケかもしれないが…。


「…」


いや、そんな事は今はどうでもいいわ。

これ以上、騒ぎを起こすようなことをしたら後の取り引きに影響が出る。

俺は作物や動物の肉とかを売って生計立ててるから、取引の影響は死活問題。


一つ一つの言動に注意しながら去らなければ。

何度も言っているが、チンピラ達はともかく、

身分の高い人に実力は通用しない。


ってことで、逃げますか!

逃げ腰が大事。

仕方ない。経済的に勝てないんだから…。

ほら、ちびっ子。行くで…、


「…ヒューゴさんだって、頑張ってるのに!!」


その時、フード少年は叫び声をあげる。

それは喉の奥から必死に絞り出したような悲痛な叫びであった。


あーちびっ子よ。

少し落ち着こうか?

…ん?

さっきから片腕で止めていたけど段々力強くなってない?

片腕だと抑えきれないんだが?!


ちょっと、反抗するのは駄目だって。

悪役のお兄さんが後でお菓子でも買ってあげるから、

落ち着いて?ね?


そんなヒョーゴの切実な願いを無視するかのようにフード少年は声を張り上げた。


「腐った人間にヒューゴさんの何が分かるの!!」


…お、おう。

遂に言ってしまったか…。


ブータという貴族は顔を真っ赤にして肩を震わせていた。

馬車の運転手さんもブータの顔色をめっちゃ窺っている。


あちゃ~。貴族に盾突いてしまった…。

マジで嫌な未来しか想像できないのだが?!


取り敢えず、悪役は必死に考える。

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