女神さまに頼まれて勇者パーティーで悪役を演じることになりました。精一杯演じているけど勇者以外にバレてる気がするんだが…?【20万PV感謝!】

九条 夏孤 🐧

王都までの三年間

第1話 女神さまに頼まれて…

頭痛がひどい、ここはどこだ?

感覚がまだフワフワしている。


「…はよ…ざい…す…」


頭の中で声が反響してるな、

でも、分からない、頭痛ですべての感覚がマヒしているみたいで…


「ゴッズ・ヒール」


透き通った声で僕に向かって何かを叫ぶ、

目の前で淡い光が僕を包んで…

とたんに意識が戻ってくる。


「おはようございます。」


仰向けに倒れている僕、

その状態で声の主は覆いかぶさるように顔を近づけた。


「ふぁ!!」


急な展開に僕は目を白黒させる。

はっきり視界にとらえたのは銀髪のとびっきりの美少女だった。

なんか金色のオーラもまとってるし…。

起き上がってあたりを見回す。


「えっと…誰ですか?」


第一声に僕はダイレクトに質問を投げかけた。

礼儀のくそもないが許してほしい。

そんな様子に美少女は少し微笑むと、透き通った声で自らの名前を告げた。


「女神のミュリエルです。」


なんと目の前に神様を名乗るものがいた。

ラノベで読んだぞえっと、これって僕死んでるパターンか?

異世界転生的な…?

フワフワしている感覚がさらに女神の存在を強く肯定させる。


「あなたは三村さんですよね?三村豹豪ひょうごう。」


さくっと名前を言い当てられた。

あー。なんかさっきまでの記憶が蘇ってくる…。

もうここでは前世の記憶といった方がいいのか…。


「三村さん。あなたはあの世界ではお亡くなりになりました。

死因は、隣の部屋でタバコが発火したことによる火事。」


そうなんだよな、最後に見た光景が布団越しに映った赤色の炎だ。

僕は寝ていて不幸に両親が仕事の都合上、家を出ていた。

つまり僕を起こす人はいなかった。

僕はちょうど高校二年生を満喫していたころだった。


「僕に次の人生はあるんですか?」


恐る恐る聞いてみる。

死んだからと言って転生を必ずさせてくれるとは限らない。

しかもこんな間抜けな死に方をしたのだ。

無くても当然といえば当然で…


「ありますよ。俗にいう異世界転生ですね」


できるんかーい。

勿論させてもらいます。

でもちょっと欲を言いたいなあ。


「元の世界に転生することはできるんですか?」


「…ごめんなさい。システムの都合上、できないことになっております」


「いやいや、こっちの勝手です」


女神は何か弱った顔をしている。

先ほどまでの微笑みが今では困ったような表情に変化している。

あれ?まさかこの話に続きがあるのか?


「転生していただく世界には魔物、魔王、勇者、魔法などファンタジーなものに満ち

溢れています。 そして頼みたいんですけど…」


なんか女神さまが手を合わせて目をつぶる…、

急にどうした?!

まさか無理難題を押し付けられるとかじゃないよね?


「勇者パーティーを育成して魔王を討伐させてもらえないでしょうか?」


…つまり、教育係ってことね。

言葉の使い方から察するに、僕自身は出向く必要がないと。

安心安心、


「その、勇者パーティーに加盟して…悪役を演じてもらえないでしょうか!!」


え?悪役?

乱暴、無慈悲、ヤリチンの?

偏見だけど、これぐらいしか例える言葉が思いつかない。


「悪役…?反面教師的な役ですか?」


「はい、それとパーティーの仲を纏め上げる為に必要なんです」


なんとなく察した。

これまでのネット小説の勇者パーティーになぜか悪役が最後あたりまで残ってた理由がここにあるのか…。

同じ敵を持つ者同士でさらにチームワークが深まる、そしてその敵が僕。


「パーティーを魔王が倒せるレベルまで育成してもらって追放を受ける、までが私の頼み事です」


ここまで女神様が頼み込んでいる。

そうとう向こうの世界での魔王が脅威なのかもしれない。

しかもそのあと女神に聞いたらしいが、僕はチートスキルをもらえないらしい。

ただ、普通に魔法を使えたり、剣を振れたりと戦う上での障害が無いって言ってたけど…。

まじかスキルなしって結構ハードモードかも。


「…」


後聞くとすればこれかな?


「…追放された後は自由に人生を送ってもいいんでしょうか?」


この質問に女神はまた微笑みを作って答えた。


「ええ。その後の人生はあなたのものでありますよ。」


良かった。

もともとなかったはずの人生をもらえただけで嬉しい。

その後の人生は何をしようか?

やっぱスローライフだな。

悪役で面目保ってないし、どこか遠い国の田舎でのんびり暮らしたいなあ。


「では、転生の魔方陣を構築するのでそこで待機願います。」


足元に紫色の淡い光が宿る。

そしたら、悪役で精神がすり減った分だけ魔獣をテイムしてもふもふかな?

音楽始めようかな?ギター始めたばっかだし。


「転生してからきっかり三年後に王都からの手紙が届きます。

そして勇者パーティーに入れるでしょう。シナリオは近いうちに渡しておきますね」


いっけねえ、スローライフのことの前に、約束を達成させなければ。


「僕よりも俺を使った方が断然悪役っぽいですよ…」


女神さまは最後まで僕…いや俺に話しかけてくれていた。


「あぁ、お前との約束、俺がきっちり片付けておいてやるよ」


不敬な態度を演じて手を振った。

その様子をただにこやかにミュリエルは見つめていた。


聖歴、3520年5月3日午前8:30、

俺は新たな世界に旅立った。

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