第35話 バカにしてた奴らを見返す
金髪美少女転入生の登場に堂島とその取り巻き達はザワザワと話し出す。
「……あ、あれが伏見の彼女?」
「嘘だろ……外国人かよ」
「し、しかもすげー可愛い!」
「天使みてぇだ……マジで本物の人間だよな?」
そんな教室内の困惑した雰囲気に対して、担任の琴音先生は出欠簿をバシンッと教卓に叩きつけた。
「お前ら、気持ちは分かるがザワつくな! 彼女は日本語こそ流暢だが来日して間もないんだ。怖がるだろうがっ! ぶち転がすぞ、クソガキどもっ!」
アンタが一番怖ぇーよ。
見た目こそ凛として美しい琴音先生だが、いつもジャージを着ているし強者の圧のようなモノが凄いので堂島以上に恐れられている。
恫喝を子守歌にスラム街で野犬に育てられたのかというくらい言葉遣いが絶望的に悪いし、激務のせいか目が死んでいる。
これでも国語教師というから驚きだ。
琴音先生の一喝によって少し落ち着いた教室内だが、生徒たちはまだヒソヒソと話をしていた。
「あれが伏見の彼女って本当か?」
「いやいや、流石に陰キャの伏見となんてないだろ~」
「ねぇあの声って、展示会前で聞いたのと同じじゃない?」
「ってことは、あの根暗女とマジで同一人物っ!?」
戸惑っている様子のギャル3人――神崎、見田、芹沢に対してシャルはにっこりと微笑む。
「貴方たちのアドバイスを聞いて、前髪を短くしてみたの。どう? 『ブスの根暗女』でも少しはマシになったかしら?」
シャルもこのギャル3人に負けず劣らずの性悪っぷりだ。
呆気に取られているギャルたちの隣を颯爽と歩き、シャルは俺の隣に用意された席に座った。
「さて、じゃあ出席を取っていくぞー」
そして1人生徒が増えた教室内で琴音先生が出欠をとっていく。
数人の生徒はシャルの姿に見とれて自分の名前を呼ばれたことに気が付かず、欠席扱いになっていた。
ずさんな出欠確認を終えると、琴音先生は出欠簿を閉じて小脇に抱える。
「さて、本来はこのまま1時限目の私のスペシャルな授業なんだが……実は今朝シャルロットを職員室で面談した直後にパソコンの調子が悪くなってな。そういうわけで自習だ、教室で大人しくしてろ」
当然、偶然なワケがないだろう。
職員室のパソコンにシャルが何らかのサイバー攻撃を仕掛けたのは明白だった。
頭をガシガシとかきながら教室を出ていく琴音先生をシャルは悪びれもせずに自分の席で微笑みながら優雅に手を振って見送る。
琴音先生が遠ざかる事が分かると、教室はワッと盛り上がりシャルの席へと男女問わずに駆け寄った。
その隣が俺の席なので、俺の視界も360度が高校生たちで埋まる。
「フランスから来たって本当!?」
「日本語凄く上手だね!」
「もしかして、モデルさんとかっ!?」
「てかイソスタやってる?」
興味津々なクラスメートたちの質問が同時にシャルに襲い掛かる。
聖徳太子でもブチ切れるレベルだ。
しかし、そんなスズメたちのさえずりを吹き飛ばすような怒号が廊下側の席から聞こえた。
「テメーら! そんなことより一番聞かなくちゃなんねーことがあんだろ!」
そう言って自分の席を立ったのは堂島だ。
こいつが気になっていることといえば当然――
「伏見がお前と付き合ってるとか言ってたが噓だよな? こんな奴と付き合うハズねーよな?」
ちなみに俺は一度も自分からシャルと付き合っているなんて言っていない。
勝手にギャルたちがそう決めつけただけである。
とはいえ、もちろん口裏を合わせているシャルは当然かのように答える。
「えぇ、甚太と付き合っているわ」
「「えぇ~!?」」
絶叫と形容するにふさわしい生徒たち全員の声が教室に響いた。
しかし、散々イジメてきた陰キャにこんな彼女が居るなんて認めたくないのだろう。
男子生徒たち数人が震える声で呟く。
「つ、付き合ってるって言ってもちょっとデートしたとかそれくらいだろ?」
「な、なんだ~。そうだよな~」
シャルは小悪魔のような妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふっ、甚太とは愛し合っているのよ? 当然、やることは全てやっているわ」
シャルはそんなことを言いながら、隣の席の俺の手を掴むと貝殻でも合わせるように指を絡ませた。
そして、矢継ぎ早に俺との仲を周囲にアピールする。
――ツッコミどころ満載の嘘で。
「甚太とは愛のささやきが飛び交う夜を何度も共に過ごしたわ」
(……実際に飛び交ってたのは銃弾だけどな)
「胸に耳を当てて、爆発しそうな心臓の鼓動をお互いに何度も確かめ合ったの」
(……実際に爆発させてたのは敵の基地とかだけどな)
「何度も何度も抱かれたわ。甚太ったら激しく動くから大変なのよ」
(……確かに何度も抱いたな、戦場で抱きかかえただけだけど。そのまま戦闘もしてたから激しく動いたとも言える)
ザラメ砂糖を膨らませて綿菓子を作るかのようにシャルは俺との関係を甘く大げさに言ってみせた。
周囲の女生徒は顔を赤らめてキャーキャーと興奮し、男子生徒たちは血の涙でも流しそうな勢いで俺を睨みつけていた。
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