第31話 学校で無双する

 

「……お前ら。揃いもそろって一体何の用だ? 俺のサプライズ誕生日会か?」


 俺はとぼけてみせた。

 すると、取り囲んでいる奴らは俺がどうにか言い訳をして逃げようとしていると思ったのだろう。

 クスクスとあざ笑う。


「めっちゃ強がってるw」

「堂島が怖くて来んの遅れたんだろ?w」

「山城が捕まえて連れてきたのか。良くやった」


 丁度、俺と一緒にここに来る形になった山城は見当違いな意見で堂島に褒められる。

 こいつは俺に「逃げろ」って言ってきたんだけどな。


「悪いが俺は忙しいんだ、お前らになんか構ってられねーな」


 俺が無視して行こうとすると、堂島は下駄箱を蹴って俺の行く手をふさぐ。


「おっと、もう逃げられねーぜ? このまま屋上に来い」

「行かないとどうなる?」

「ぶん殴って連れて行くだけだ」


 堂島は大きな身体を揺らして下品に笑う。


 ちなみに、俺がとぼけた理由は正当防衛にするためだ。

 ここで喧嘩を吹っ掛けられて俺が承諾したら決闘罪になるからな。

 そんなことは考えもしない堂島はこんだけ動画が撮られてる前で堂々と俺を脅してるが。


 堂島は動画さえ流出しなければ大丈夫だと思っているようだ。

 確かに大丈夫だろうな。

 何かの拍子に動画がしなければ……だが。


「分かった。屋上に行ってやるよ」

「最初からそう言やぁいいんだよ。二度と生意気な口をきけねぇようにしてやる」


 俺は堂島たちの後をついて行って屋上に向かった。


       ◇◇◇


 屋上に着くと、俺はスクールバッグを足元に置いて堂島と向かい合う。


 そして、その周囲を取り囲むようにクラスメート、2年1組の生徒たちが全員ニタニタと笑いながら俺がやられることを期待してスマホで動画を撮り続けている。


 そんな中、山城が飛び出して堂島に言った。


「ね、ねぇ……伏見は色々と酷いことをしたけど。もう勘弁してあげてもいいんじゃないかな?」

「はぁ? テメェが一番の被害者だろうが」

「た、確かに伏見は私にセクハラまがいのメッセージを送ってきたし、クラスの女子の下着とか服とかサイフとか盗んだりしたけど……もう反省してると思うしさ」


 言うまでもなく、全部濡れ衣だ。

 山城へのセクハラRINEがクラス中に晒されたのをキッカケに伏見甚太は面白おかしく様々な罪を被せられてきた。

 無くなったサイフも女子の下着や服も伏見甚太のカバンの中から見つかった。

 一度、『そういう人間』に仕立て上げられるとどうしようもない。

 伏見甚太は女の敵であり、伏見を殴ることは正義なのだから。


「反省してねぇから俺にこんな舐めた態度取れるんだろうが、いいからテメェは下がってろ」


 堂島は山城を突き飛ばして俺を睨む。

 今の様子を見るに、山城だけは裏で俺がハメられている事を知らないのかもな。


「伏見、土下座して必死に許しを請えば――」

「あ~はいはい。いいからさっさと用事を済ませろ」


 前置きが長すぎてすでに面倒臭くなっている俺が煽ると、堂島は学ランを脱ぎ捨てた。


「――死ねコラァァ!!」


 額に血管を浮き上がらせた堂島は俺に殴りかかってきた。

 激高した堂島を前に俺は考える。

 シャルの奴、今日の面談ちゃんとできんのかな……と


「おらぁ! おらぁ!」


 そして、ボクシングジムにいた青島よりも遥かにノロいパンチを避ける。

 当たり前だが、堂島の方がアイツよりも明らかに格下である。

 ジャブですらないので、遅すぎてあくびが出そうだ。


 周囲は笑いながら戦いの様子を動画で撮る。


「ほらほら伏見~、逃げ回ってんじゃねぇよ~w」

「あはは! あんだけ強がってたのにやっぱり手も足も出てないじゃんw」

「堂島も遊んでないでそろそろ当てちまえよ~w」


 陰キャのイジメられっ子が避けて逃げ回る、さぞかし満足のいく映像が撮れていることだろう。

 俺もわざと臆病に逃げ回るように動いてるしな。

 しかし、堂島はパンチが当たらず何かがおかしいことに気が付き始めている。


(……こんだけ演技すりゃー、もう正当防衛は成立するな)


 そんな風に考えた俺は反撃を開始することにした。

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