80話 従獣士よ父であれ

 ホルンフローレン近隣の草原エリアに出てきた俺とかぼす。


 俺は牧場からゲッコウを連れ出し、かぼすには子トカゲのカボスを連れてきてもらった。



「クラスを従獣士に切り替えた状態でステータスタブを開くと、テイムモンスターのリストタブが追加されてるのが分かりますか?」


「はいっ、ありますねっ!」


「ではそこからカボスを【召喚】してみましょう」


「【召喚】……っと。おーっ! 出てきましたっ!」


「きゅいーっ!」



 かぼすの右肩の上にカボスが現れた。


 やはりくりくりのつぶらな瞳が可愛らしい。


 同じように【召喚】したゲッコウはというと……ああもう太々ふてぶてしい表情だこと。



「その状態で、牧場で世話メニューを開いた時みたいに、モンスターの近くを軽くタップしてみてください」


「えーっと……なんか円形のメニューみたいなのが出てきましたっ!」


「はい。そこからマップ上での行動を命令できます。戦闘タブを選んで、「同じ目標を攻撃」を選択してください」


「ふむふむ」


「するとですね……今、ゲッコウも同じ命令になってます。ちょっと見ててください」



 言って、その辺に落ちている石を拾い上げて近くを歩いていたブルースライムに投げつけた。


 その行動によってブルースライムが敵対状態になる。



「ガウォオオォオオォオオッ!」



 途端に、ゲッコウがブルースライムに襲い掛かった。


 鋭い爪で引っ掻き攻撃を行うと、一瞬でブルースライムは光の粒子になって霧散した。



「このように、テイム親が攻撃行動を行うとモンスターも戦闘に参加してくれるようになります。戦闘職のクラスを上げていなくても、攻撃行動と判定される行動をするだけで戦ってくれるので、メインが生産職のユーザーでも戦えるというワケですね」


「なるほどーっ! これは頼もしいですっ!」


「じゃあ早速試してみましょうか」


「わっかりましたーっ! えっと、石ころ拾って……カボス、戦える?」


「きゅいきゅーいっ!」


「よーっし、いっけーっ!」



 今度はかぼすがブルースライムに石を投げつけた。


 ブルースライムがかぼすと敵対状態になり、かぼす本人にヘイトが向く。



「きゅいーっ!」


「がんばれカボスーっ!」



 カボスの小さな身体がブルースライムに襲い掛かる。


 爬虫類種ということは、攻撃方法は噛みつきか属性付きのブレスとかだろうが……。



「きゅぅぅぅぅぅい……きゅいぁーっ! きゅいっきゅいっ…………きゅい?」


「カボスは何をしよるんですかね?」


「さあ……ピョンピョンしてますね、威嚇でしょうか」



 明らかに攻撃手段とは思えない謎のジャンプを繰り返すカボス。


 その隙に、ブルースライムのヘイトがカボスに向いた。



「ぷにゃーっ!」



 ブルースライムはその場で高速回転を始め、勢いよくカボスに体当たりをかました。



「カボスーっ!?」


「きゅ、きゅぅい……」


「かかかカボスが倒されちゃいましたぁーっ!?」


「おかしいですね、孵化したてでもこの程度のモンスターにはそう簡単に負けないはずなんですが……」


「ぷにゃっ、ぷにゃっ!」


「「「ぷにゃっ!」」」


「くまさん先輩っ! 仲間を呼ばれちゃいましたけどーっ!?」


「産まれたてが余りにも弱いというのも、何かの特性なのか……? 逆に育て上げたら滅茶苦茶強くなる、とか……」


「くまさん先輩っ!? こっち向かってきてますけどーっ!?」


「爬虫類種の成体で強いモンスターといえば……いや、思い返してもそう居ないよな。そもそも救世クエストが進むにつれて敵モンスターは人型や巨大モンスター、最近だと機械の身体だったりもするし……」


「いーやぁーっ! こっちんでよーっ!」


「はっ! 悪い癖がァ!」



 いかんいかん、どんな状況でも不可解な事が見つかると考察をしてしまう……。


 5匹前後のブルースライムがかぼすを追いかけ回している。


 この程度の敵なら……。



「ゲッコウ、行って来い!」



 と、かぼすを追いかけるブルースライムの1匹に向かって石ころを投げつけた。



「グゥ」



 ゲッコウは俺の指示を無視して、その場で眠り始めた。



「何やってんだゲッコウお前! 何の為にお前を連れてきたと思ってんだよ!」


「ガウゥ~?」


「ンだテメェ、飼い主様に逆らいやがって……」


「たっ、助けてくださいぃ~~~~~っ!」



 助けを求めるかぼすの声。


 その叫びに、応える者が居た。



「きゅ、きゅぅ……きゅい~っ!」


「「カボスっ!?」」



 瞬殺されたかと思っていたカボスが立ち上がり、勇猛果敢にブルースライムの群れに立ち向かった。


 衝突する直前で飛び上がり、空中から小さな身体いっぱいに飛び掛かる。



「まさかアイツ、テイム親がピンチになると覚醒するのか!?」


「かっ、カボス~~~っ!」



 いけ、カボス!


 漢を見せろッ!



「ぷにゅっ」


「きゅ~い~~~~~っ!」



 が、いとも簡単に返り討ちになった。


 ダメだ、あいつ本当に戦闘できないのかもしれない……。



「ぷにゅぷにゅ」


「ぷにゅゥ……!」


「ぷにゃっ!」



 今のカボスの攻撃によって、よりにもよってブルースライム達のヘイトがカボスに向いてしまった。


 地面に落ちて倒れ込んでいるカボスをブルースライムの群れが取り囲んでいる。


 マズいなこれ、かぼすの従獣士としての初戦闘が悲惨な結末を迎えようとしてるぞ……。



「どっ、どうしようカボスがっ! 助けてあげんとっ!」


「落ち着いてください。戦闘職を取ってないかぼすさんではモンスターと戦うのは無謀です」


「でっ、でもっ!」


「任せてください。俺がやります」



 俺は瞬時に剣士装備に切り替え、ブルースライムの群れに襲い掛かる。



「はいはい、弱い者いじめはダメですよ……っと!」



 さほど戦闘職を進めていない俺でも、この程度の相手であればプレイヤースキルだけで制圧できた。



「ふぅ……これもの務め、ってか?」


「カボス~~~っ! 大丈夫、カボスっ!?」


「きゅ、きゅぅ……」


「かなりダメージを受けてますね。牧場に戻せば時間経過で回復します。それか回復アイテムを使っても良いですけど」


「かっ、回復させますっ!」



 と、かぼすはインベントリから“ポーション”を取り出しカボスに使用した。


 見る見るうちにカボスの身体から傷が消え、元気を取り戻した。



「きゅい~」


「ふへへっ、良かったぁ……ありがとうね、カボス」


「きゅ、きゅぃ……」


「もう、そんなコトないってカボスっ! ウチはな、カボスがウチを守ろうと勇気を出してくれたのが嬉しいんやけんっ!」


「えっ」


「きゅいっ、きゅいきゅーいっ!」


「うんっ、その意気やなっ! よーっし、ウチも頑張って立派な従獣士になるぞーっ!」


「あ、あの、かぼす……さん…………?」


「あっ、ごめんなさいくまさん先輩っ! カボスを助けてくれてありがとうございましたっ!」


「ああいや、それは良いんだけど。もしかして、かぼすって……カボスと、話せてる?」


「えっ、はい、話してます、けど……くまさん先輩には聞こえちょらんのですか?」


「俺には「きゅいきゅい」としか聞こえないんだけど……」


「うーん、不思議やなー。カボス、なんか喋ってみて?」


「きゅいきゅっきゅい」


「「きゅいきゅっきゅい」って聞こえました」


「「腹減った」って言ったんですよ」


「…………ほう」



 なんだこれ。


 なんだこれ?


 従獣士実装のアップデート以降、欠かさずユーザー間で交わされる情報共有はチェックしてきた。


 が、モンスターの言葉が理解できるなんて話は聞いたことが無い。


 これは例えば、俺やLionel.incが生産アイテムに必ずADPアディショナルパワーが付くというような乱数テーブルどうこうの問題ではない。


 故に、かぼす側に特別な設定や内部情報があるというワケではないだろう。


 だとすれば、これはカボス側に何か秘密があるのか?


 そのうち2匹目のモンスターをテイムさせてみて、そいつの声が聞こえるかどうかで謎は解けそうだな。


 追々、謎を解いてみよう。



「とりあえず、かぼすとカボスが最高のパートナーだからってコトにしておきましょうか。……さて、最低限の説明は済んだことだし帰りましょうか」


「はいっ! 教えてくれてありがとうございましたっ!」


「ふぅ、想定外の事態にはなったけど……ま、この辺りの初心者向けエリアなら大事には至らなかっ────」



 その時だった。










『緊急レイド発生のお知らせ。

 ホルンフローレン近隣草原エリアにボスモンスターが出現しました。

 半径30メートルに入ると自動参加となります。』










「は? 緊急レイドがこんな所で?」


「なんですか、これ?」


「まずいな、どの程度のモンスターかにもよるけど、今のかぼすをボスレイドに巻き込むのは危険だぞ……」


「あれ、なんでしょうあれ。やけにおっきいブルースライムがる……」


「それがきっと緊急レイドの討伐対象ですね。どのあたりに居ました? 近寄らないようにしましょう」


「え、っとぉ……」


「どうかしましたか?」



 かぼすは青ざめた表情で、俺の背後の少し上あたりを指差して言った。



「くまさん先輩の、後ろに……」


「はぇ?」



 振り返るとそこには、くまさん3人分はあるだろう巨大なブルースライムが睨みを利かせて佇んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る