攻略組に飽きたので生産職で大富豪を目指します。~爆乳師匠と美少女生産職たちに囲まれてマーケットを掌握する~

雅ルミ

第1部

第1話 引退

「オレァ寂しいけどよ、がそうと決めたなら止めやしねェよ!」



 キンピカのローブを身に纏う妖精エルフィアの大男──頭上には『どんぐり亭』と表示されているキンピカのネームプレートが浮かんでいる──が、キンピカの飲み物の入った大グラスを木製のテーブルに叩きつけた。



「羨ましいよ、ニセモンで酔っぱらえるなんて」



 対して俺は、ブドウのような香りがほのかに香る飲み物をひとくち煽り、グラスを静かにテーブルに置く。


 ────バタン!



「ちょっとどういうことッスかベアー先輩!」


「聞いてませんわこんな話っ!」



 酒場に駆け込んできた二人のユーザー。


 一人は男モノの着物を着崩し、腰には二本の日本刀を差しており、衣装とはアンバランスな星型のサングラスを装備している、如何にも軽そうな態度の人間ヒュマニの青年。


 頭の上には『GrandSamurai』という名前が表示されたシルバーのネームプレートが浮かんでいる。


 もう一人は、重そうな全身鎧に身を包み、特大サイズの巨斧を背負っている、ネコミミ金髪縦ロールの獣人ビストレアの女の子。


 こっちの頭上には『ヤマダヤマ』という名前が表示された、同じくシルバーのネームプレートが。


 その二人が酒場に入ってきた途端、他の客たちがザワつき始めた。



「お、おいアレって……!」


「間違いねえ、攻略クラン『The Knights古参の会』のエースパーティーじゃねえか!」


「一点モノの黒く光る魔導狙撃銃、アイツがあの『Spring*Bear』か!」


「スプベアってそういうことか!」



 ……いつまで経っても落ち着かないな、この反応。


 だけど慣れはしている。


 俺は腰から魔導狙撃銃を抜き、頭上に向け、【花火弾】を撃ち出した。



「きゃあ~~~~~~~~~~~~~~!」


「うっひょ~~~~~~~~~~~~~~~!」


「ぅおっ、びっくりした」


「スプベア最高ォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」



 酒場内に広がるカラフルな花火、これはただのエフェクトだから、木製の内装に燃え移る事は無い。


 これまで何度披露してきたか分からない、お得意のファンサである。


 これさえやっておけばみんな喜んでくれるし、声を掛けられることはない。


 ついでに酒場の客達の注文が増えるということで、店主も喜んでくれる。



「さあベアー様、ご説明くださいましっ!」


「そうだぜそうだぜ! どんなワケがあって引退するのかをよ!」



 詰め寄ってくる侍と女重騎士。


 ストップストップ、レベルキャップ最大の近接職二人は圧が強いって。



「まあ落ち着けや、グラ助にヤマ子よォ……スプベアだって考えに考えた結果の選択なんだ。オレとスプベアの二人はサービス開始からずっと最前線に居たんだ。その喜びと苦しさは、五周年記念の大型アプデから入ったお前らにゃ分からんのさ」


「それを言われちゃあな……」


「いいえ、いいえ! だからって、わたくし達に何の相談もなく引退して良いことにはなりませんわっ! 無理に引き止めはしませんけれど、せめて! せめて納得のいく説明を求めますわベアー様っ!」


「ウムぅ……ヤマ子の言い分も一理あるが……スプベア、どうする?」


「話すよ。というか、別に黙って消えるつもりもなかったしな。どんぐりがコイツらにチャット送らなきゃ、ちゃんと明日にでも話そうと思ってたし」


「なんとォ、オレのせいか! 店主マスター、ビーロ追加だァ!」


「潰れても知らねえぞ……。店主マスター、俺にもワイネを一つ。グラ助とヤマ子は? 先輩からの最後の奢りだ、好きなモン頼めよ」


「「とりあえずビーロで!」」



 まずは立ちっぱなしで落ち着かない後輩二人を席に座らせた。


 注文したドリンクがテーブルに出現するのを待ってから────この俺、最前線攻略組のエース『Spring*Bear』が引退することとなった理由を語り始めた。



「簡単に言えば、燃え尽きたんだ。サービス開始からもう十年が経ったが、俺はずっと最前線で戦い続けてきた。ストーリー第一部のラスボスを倒した時なんてもう、どんぐりと一緒にワンワン泣いたさ。それ以降もな、アップデートがある度にどんぐりと徹夜で攻略。五周年の大型アップデートでお前達が入ってきた時はまあ、ちょっと新鮮だったな。丁度中弛み期に入ってた俺だったが、後輩にカッコいいとこ見せようと思ってモチベも取り戻せた。それから五年、『The Knights古参の会』のクランメンバーも増えに増えて今や総勢八十人の大所帯。おかげで大型レイドの攻略はやり易くなったよな。しかしだ、十年もずぅ───っと最前線に居るとよ、疲れちまうんだ。別にお前達のせいじゃないぞ。むしろ感謝してる。リアルではうだつの上がらないサラリーマンな俺が、ここじゃみんな慕ってくれる。むしろこっちこそが俺のリアルってもんだ。それにさ、この間の十周年記念の大型アプデで追加されたクラスあるだろ、魔銃士の上位互換みたいなやつ。そん時ゃクラスチェンジも考えたが、さすがに今からじゃ頭も身体も追い付かねえ。幸いにも、クラン内にそのクラスにチェンジしてる奴も居るしよ。エースパーティーの中遠距離火力役は引き継げるワケで。

 だからな────」


「だから、『The Knights Ⅻ Online』辞めちまうんスか……?」


「そんなっ! お待ちくださいまし! わたくし、ベアー様に憧れてこのゲームを始めたんですのよ!? ベアー様の居ないホルンフィア大陸など、カツの無いカツ丼ですわっ!!!」


「いや、辞めねえよ?」


「「えっ?」」


「俺、生産職やるから」


「「生産職?」」


「ヌ? オレ言ってなかった?」


「聞いてねえよバカどんぐり!」


「そうですわ! ただ「【悲報】スプベア、引退するらしい」としか聞いてませんわ!?」


「す、すまぬゥ……」



 どんぐり亭の悪いクセが出ていたらしい。


 だからか、やけに後輩二人が必死だったのは。



「じゃ、じゃあ! ベアー先輩にはまた会えるんスね!」


「とっ、トーゼンですわ~~~! あの生粋の『The Nights』オタクのベアー様ですものね~~~!!!」


「いや、もう会えはしないな」


「「えっ」」


「セカンドキャラ作るんだ」


「せっかく有名人なのにッスか!?」


「せっかくイケメンなキャラクリまで出来てますのに!?」


「それマジでどうでも良い要素だな。……確かに俺はどんぐりとかお前達に支えられて最強とは呼ばれてるけどさ、その名声が却って邪魔になると思うんだ。最強のクセに生産物の品質しょうもないな! とか言われそうだろ?」


「むしろスプベア印のアイテムって触れ込みでマーケット価格上がりそうだがなァ!」


「んなワケないだろ……まあ今のも理由の一つだな。とにかく、リセットして一から新しいこと始めてみたくなったんだよ。それに、目標も決めてるしな」


「目標ッスか?」


「ああ。俺、碌に使ってもいないマイハウスあるだろ?」


「サイジェン島の豪邸ですわね。わたくしのリアルハウスにも匹敵する大きさですわよね」


「こらヤマ子、個人情報」


「ベアー様になら身バレされたいくらいですわ!」


「他のユーザーも周りに居るから。で、あの家な、実は権利をマーケットに出品したんだ」


「マジッスか!? ……ちなみに、おいくらッスかね……?」


「9,999,999,999ゼル」


「「「カンストォ!?」」」


「それなら誰も買えないだろうと思ってな。で、俺は生産職で金を稼いで、あの家を買うんだ」


「ス、スプベア……いくらなんでもそれは…………ウゥム」



 どんぐり亭の反応もごもっともだ。


 何せ9,999,999,999ゼルなんつー大金は、俺達最前線攻略組のエースパーティー四人の貯金を合わせたって足りない。


 いや、足りないどころか半分にも満たないだろうからな。


 だけど────。



「だがしかし……」


「だけどよ……」


「ですが……」


「俺らしい、だろ?」


「だな。そんなイカれた目標は、ウム! まさにオレの知るスプベアだァ!」


「くぅ~~~! さっすがベアー先輩だぜ!」


「それでこそベアー様ですわっ!」


「ま、俺はそんな感じで生産職頑張るからさ。お前達は攻略、頑張ってくれよ」


「そうだな! スプベアがあの豪邸を買えたあかつきには、変わらず最前線攻略組として招待してもらおうではないかァ! ガハハハハッ!」


「じゃあさじゃあさ! ベアー先輩の最強の座、俺が引き継げるよう頑張るッス!」


「でしたら! ベアー様が生産職の最前線に着たあかつきには、わたくしの専属生産者になっていただきますわっ!」


「ははっ、そうだな。俺もそうなれるよう頑張ってみるよ」



 こうして、『Spring*Bear』として最後の夜を過ごし、攻略クラン『The Knights古参の会』から正式に脱退した。


 生産職としての一からのリスタートは不安だらけだが、それ以上に期待感が俺の胸を膨らませていた。


 ……それはそうと、どんぐり亭から借りてた多大な借金は返さなくても良かったんだろうか?

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