第298話 同郷3人組5。怪しい男。


[まえがき]

今話以降、制度的ないし法規的なことが出てきますが、適当ですからご容赦ください。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 応接室に入っていくと、ソファーに高校生たち3人が並んで座っていた。俺が部屋に入ってきたところで3人がソファーから立ち上がった。3人に楽にしてくれと言って、テーブルを挟んだ向かいに座った。第三迷宮都市での借家などの整理は終わったようだ。


「3人とも、待ったかな?」

「いえ、それほどでもありません」

 これはある程度待ったって事か。そこは仕方ない。

「整理は終わったようだな?」

「「はい」」

「先に、転移板を回収してしまおう。転移室から行けば向こうの転移板の上に出られるから、そこで回収してここに戻ってくる。そんなに時間はかからないから、少し待っていてくれ」

「「はい」」


 転移室に転移して、第三迷宮都市でユウたち3人が借りていた借家に続く転移板の上に立ち、向こう側に転移した。


 転移板から下りて、その転移板を回収し、再度館の転移室に転移した。そこで行先プレートを外して先ほど外した転移板と対になった目の前の転移板をアイテムボックスに回収した。


 作業を終えて、ユウたちが待つ応接室に転移した。作業時間は1分もかかっていない。

「もう終わったんですか!?」

「向こうの転移板も館に置いていた転移板も回収終わった」

「すごい」「驚きです」


「こういうのは慣れだから。これで3人をいつでも日本に帰せるんだが、どういう形で帰そうかと考えてるんだ」そう言いながら元の席に座った。


「どういう形というと?」

「先日も言ったが、君たちの仲間が二人亡くなっているだろ?」

「はい、そうです」

「日本では君たちが失踪してまだ2週間ほどしか経っていないから、このまま帰ってしまうと君たち自身、周囲への説明が難しい」

「そう思います。でも仲間が亡くなったことを説明することは僕たち、いえ僕の義務ですから」

「ユウ、あたしもちゃんと説明するよ!」「わたしも説明します」

「まあまあ。

 この世界のことを日本政府に打ち明けたほうが話が早いと思うんだ。君たちからも亡くなった二人のご両親に説明するにしても、政府からも説明があったほうが、先方も受け入れやすいだろ?」

「そうかもしれませんが、どうやって政府を信じさせるんですか?」

「行方不明だった君たちが帰還したことは、それなりに大きな出来事だろう? そのうえで魔法でも使って見せればある程度信じると思っている。君たちだって魔法が使えるだろ?」

「すみません、あたしだけ魔法は使えません」

「魔法は使えなくても、身体能力はオリンピック選手を軽く越えてるんじゃないか?」

「そうかもしれません」

「そこも君たちがこの世界にいたことを証明する、十分インパクトがある証拠になる」

「そう思います」

「それでは、それでいいかな?」

「「はい」」


「話は少しずれるが、俺はこの世界を少しずつ近代化したいと思ってるんだ。つまり日本の技術や物品の輸入だ。それには先立つものが必要だ」

 3人が頷いた。

「つまり交易だ。幸い、こっちにはポーションという謎の薬品がある。この価値は向こうでは計り知れない」

「分かります」


「隠れて交易することも可能かもしれないが、それでは将来性がないから、君たちを向こうに連れていく際に日本と正式に国交を結ぼうと思っている。国交といってもこのアルス領と日本という形だ。よその連中はそもそも無関係だしな。

 そういうことなので、君たちを連れていく先は日本政府の中枢の首相官邸だ。そこからは、さっきの話の続きで君たちのことを利用させてもらい、異世界の存在を明かし、国交樹立交渉を行う。交渉カードは魔法の存在と、ポーション。どうだろう?」

「僕は異存はありません」「あたしも」「わたしもです」

「今日の午後にでも段取りを済ませるから、明日、君たちを日本に連れていく。

 今日はここに泊まってくれればいいから。

 食事はみんなと一緒だからそのつもりで。さっそくだが、昼12時になったら昼食を食べに出るから、下の玄関ホールに集合。

 それじゃあ、君たちを客室に案内しよう。その前に君たちの日本の住所と名前を自筆で書いてくれるか? 君たちを届ける前に、予告として君たちの直筆を首相官邸に届ければ真実味が上がるうえに、日本政府も受け入れ態勢を整えられると思うんだ」

 その場で、アイテムボックスからアルスで仕入れた便箋と筆記用具を出して3人に住所と名前を書いてもらった。


 3人を客室に案内して自由に使うように言ってから、昼になったら昼食に行くため玄関ホールに集まることを念を押して、俺はクレアの待つ執務室に戻った。


 執務机に向かい、さきほどの便箋を置き、彼らの名前と住所の下に、いわゆる異世界に拉致されていた彼らを保護したことを書き記した。

 続けて明日の午前10時に首相官邸前の広場に彼らを連れて現れるので、彼らの身柄を預けることと、詳しい説明とこちらの要望を伝えるためしかるべき人物と会談したい、と書き加えた。


 署名はこちらの文字でアルス辺境伯ゲンタロウ・オオヤマだ。その下に日本語でアビシカン王国アルス辺境伯大山源太郎と付け加えた。それを封筒に入れ封蝋で閉じて最後に大山印の封印を押しておいた。

 首相官邸前に突然不審者おれが現れれば、おそらく警備員が俺を捕まえようと押し寄せてくると思うが、そこで手紙を残して転移すれば、手紙はしかるべき人物に届けられるだろう。



 昼の時間になったので、玄関ホールに移動して、そこでカレン、フィリア、ミリア、ソフィア、そしてクレアの5人のほか、高校生たち3人を連れ、白ユリ亭に転移した。


 総勢9人だったので4人席を3つつなげることになった。いい加減白ユリ亭でも2人席を用意すればいいのにとは思う。


 俺と、ミリアとソフィア、それにフィリアは昼前に軽食を食べていたので、単品で軽いものと飲み物を頼んだ。ほかのみんなは定食と飲み物だ。


「3人を明日、故郷に連れ帰ろうと思っているんだ。

 3人は今まで住んでいたところを引き払った関係で、今日館で一泊することになっている。今日の夕食は3人の送別会ということで、これから予約するが、6時から牡鹿亭を考えている。みんなそのつもりで6時になったら館の玄関ホールに集合してくれ。人数はこの9名に加えてガーベラとトルーラン。合わせて11名だな。

 クレアは牡鹿亭に行って11人で予約しておいてくれ。料理と飲み物もついでに頼む」

 送別会だから、いつものようにその場で頼むのはちょっと違うからな。

「承知しました」


「牡鹿亭は王都の宿屋だが、オーナーは俺だし、ベーサイヤ神殿がどうこうできるところじゃないから安心してくれ。それでも、もし誰かがやってくるようなことがあればそれ相応の対応するがな」

 王都には近づきたくないだろう3人を安心させるため、一言付け加えておいた。


「俺自身にちょっかい出してくるようなら、神殿の中にいる連中を皆殺しにすることも簡単だし、神殿そのものを粉みじんに破壊してもいいし」

 もう一言付け加えたら、うちの連中はみんな頷いていたのに、3人は少し引いたようだ。


 昼食を終え、みんなを館に連れ帰った俺は、自室で礼服に着替えた。

 例の封筒は上着の内ポケットの中に入れている。

 この礼服、それっぽいといえばそれっぽいが、少々野暮ったいので、日本で売っている服とはとても思えない。真実味が少しは増えるはずだがどうだろう?




 時刻は午後1時。

 俺は首相官邸の前庭に転移した。そこから、ゆっくり玄関に向かって歩いていったところ、すぐに制服を着た警備員たちが駆けよってきた。


 あと数メートルで警備員たちの手が届きそうになったところで、懐に手を入れた。

 この動作で、彼らの動きは一瞬止まってしまった。日本の警備陣の限界を見た俺だが、構わず懐から封筒を取り出し、彼らによく見えるよう右手で掲げ「この手紙をしかるべき人に渡してくれ」と言って、封筒から手を放して転移した。転移先はさいたま事務所にしておいた。


 事務所に置いた椅子に座ってスマホと充電器を取り出し、ニュースを見ながらスマホに充電した。思い出したからよかったが、充電のインジケーターが赤くなる寸前だった。


 ニュースを見ていたら転入届を出すことを思いだしたので、スマホから電子転入届を出しておいた。俺が病院のベッドに寝ている間に世の中便利になったものだ。


 それから1時間ほどニュースを見ていたのだが、首相官邸での怪しい男の出現の話は流れなかったので、マスコミは怪しい男の件を察知してないと思っておこう。明日、高校生たちを連れていった時、マスコミがいたらかわいそうだし。

 そう考えると、俺の格好はとてもじゃないが未成年には見えないが、顔かたちだけなら未成年に見えない事もない。つまり、そういった配慮をしてもらえる可能性がある? さすがにそれはないか。


 時刻はまだ2時だったが、スマホでのニュースの追っかけはそこまでにして、いったん館に帰った。


 執務室に戻って、クレアから牡鹿亭の予約を済ませたことと、トルーランに今日の夕食を王都で摂ることを伝えたと報告を受けた。

 礼を言って、それからクレアが淹れてくれたお茶を飲んで一服した。


 少し早かったが今日の業務はそれくらいにして、俺は客室に向かい、ユウを誘って温泉に行った。女子二人にも入浴を勧めておいた。彼らはまだ入浴の質が劇的に向上したことを知らないはずだから、ビックリするはずだ。


 そのあと、そのことを黙っているのも大人げないと思い直して、入浴セットを置いていることをちゃんと話しておいた。ついでにバスタオルと普通のタオルを渡しておいた。

 これが異世界での最後の風呂になるのかどうか分からないが、その可能性があるからじっくり入ってもらいたいところだ。



 ユウと連れ立って、温泉に転移した。女子たちは俺が連れていくわけにはいかないので館の転移室に置いた温泉直行の転移板経由だ。


「ユウ。これが最後の温泉になるかもしれないからゆっくりしてくれ」

「はい。いままでありがとうございました」

「挨拶は明日でいいから」

「そうでした」


 二人で裸になって浴場に入り、体を軽く流して湯に浸かった。


 ふー。生き返る。


 隣で、ユウもゆっくり体を伸ばして寛いでいる。

 日本ではまだ5月の初旬だ。帰ってすぐはそれなりに大変だろうが、学校の方も遅れることはないだろう。1年ちょっと貴重な経験をしたわけだ。まあ、仲間を亡くしたことは残念だったろうが、それは彼らのせいではない。


 さて明日はどうなるか? 問題など起きるはずはないので、国交交渉のことを考えておくか。そうだ! 白銀のヘルメットをかぶれば、日本語は話せはしないが聞くことはできるわけだから、明日はフィリアを連れていってみるか。フィリアの意見は貴重だし、何かの役に立つだろう。

 日本政府と交渉するときには紹介することになるから、フィリアの役職はアルス辺境伯特別秘書官とでもしておくか。あながち嘘ではないし。


 ユウが先に浴槽から出て、体を洗った。ボディーソープは泡立ちが違うからな。

 シャンプーとリンスも気持ちいだろう。日本に帰る前日に身も心もリフレッシュだ。

 明日3人と別れるときには、レストアコンディションをかけて、餞別として完全な健康体にしてやろう。


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