佐々木さんち

マツゲン(シアターペリカンズ)

第1話 佐々木家の朝

佐々木さんの家はいつも賑やかだ。


「パパ起きてー。遅刻するわよ。」


ママの声がする。


俺は佐々木清和。


45歳。


3人の子供の父親だ。


「あと5分だけ寝よう。」



「佐々木係長。お茶入れました。一服してください。」


事務の愛ちゃんだ。


愛ちゃんはうちの会社のアイドル的存在だ。


何も言わなくてもお茶を入れてくれるなんて気が利くな。


でもここでデレデレしてしまってはいけない。顔を引き締めろ、俺。


「うん。ありがとう。」


よし、決まった。


「佐々木係長。実はお話したいことが」


なんだろう。


相談事かな。


愛ちゃんが俺を頼ってくれるなんて、うれしいな。


「なんだい。言ってごらん。」


「ここでは言いにくいので屋上に来てもらえませんか。」


これは、もしかして告白。


待て待て、でも俺には妻も子どももいる。


くそ、許せ家族たちよ。


恋に走る父を許してくれ。


「佐々木係長、私佐々木係長のことが」


きたー。


愛ちゃんから告白される。


「ずっと前からワンワン」


ん?ワンワン?


「ワンワンワンワン」


犬?どうして会社の屋上に犬がいるんだ。


「ワンワンワンワン」


くそ、犬がうるさくて愛ちゃんの声が聞こえない。


「ワンワンワンワン」


頼む静かにしてくれー


「パパ、パパ、起きて、パパ。いい加減にして。本当に遅刻するわよ。」


「え、ママ。」


「寝ぼけてないで、早く顔洗ってきて。何度も起こしに来させないでよ。」


夢か。


「なにぼーっとしてるの。早く支度して。」


夢の中での浮気は無罪だよな。


うん。


無罪だな。


「パパ早くして」


はぁー。


今日も一日が始まるんだな。


「うん。わかった。」


佐々木さんちは今日も平和だ。

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