悪役令嬢の記憶

「思い出しましたわ! 思い出しました!」

 私の声が部屋のなかに響きます。こんな夜中に大声を出すなどはしたないとは思いますがそれでも抑えられませんでした。思い出してしまったのです。先生の顔を何処で見たことがあるのか。それは前世でした。

 今日、私は前世の夢を見ました。思い出してからというもの前世の夢事態はよく見ていたのですが今日のはいつもと少し違い前世でやりこんだこの世界のゲームの夢でした。

 第二部をやりおえ、そしてまだ見ぬ第三部に手を伸ばす。そうです。ゲーム『愛と魔法の物語』は前世ではかなりの人気があり続編まで出ているゲームなのです。だからこそ私は魔王が私と同じような存在であることを知っていたのです。第一部では封印されただけの魔王ですが、第二部では焦点があてられ攻略キャラにまでなっていましたから。そして第三部ですが、私第三部に関しては詳しくは知らないのです。

 丁度結婚詐欺師と付き合いだした頃に発売が発表されて、発売された後は余裕がなくて買えなかったのです。それでも広告を見たりしていたので多少の情報なら知っています。その広告のなかで見たのがあの先生の素顔でした。この人は一体とドキドキしたことがあるのを思い出しましたわ。確か煽り文句にも似たような言葉が書かれていたような……。

 しかもうろ覚えではありますが、先生も攻略キャラの一人だったような。それもかなりメインに近い……。

 そこまで考えて私は時計を見ました。今は深夜一時を過ぎた頃です。うら若き乙女が出掛けるような時間ではありません。ですが私は荷物を整えると構わず部屋を飛び出しました。屋敷の警備に見つからないよう隠れながら足早に家を出て、確実に見つからないところまで出ますと走り出してしまいました。

 行き先は一つ。

 学園。そこにいる先生のもとですわ。

 記憶を思い出して私はすぐにあの日の事を考えました。私が遅くまで学園に残ってしまい侵入者に襲われたあの日。助けてくれた先生はあの時侵入者は二組、追うもの以外にも追われるものがいたと話しましたが果たしてそれは本当だったのでしょうか。侵入者たちが誰かを探しているのは確かでした。その誰かはもしかしたらあの時少し考えた通り先生だったのでは。あの時は先生に狙われる理由などないだろうと思い深く考えませんでしたが、今はないとは言い切れません。

 むしろあると考えた方が自然ですわ。

 何せ第三部の攻略対象キャラ。しかもメイン。第一部からいての抜擢ですからこれは相当キャラ設定が盛られていますわよ。その証拠にあの魔法の腕。それがメインキャラだからという理由なら納得ですし、見た目だなんだ隠していた驚きの理由が秘められているはず

 狙われる理由の一つや二つなら持っているはずですわ。実は元貴族と言われても今の私なら驚きませんわよ。

 学園の前にたどり着いた私は何とか学園に侵入して先生を探します。

 先生を探すのはなにも先生の秘密が知りたいからではありませんわ。何度もルーシュリック様に言った通り先生が知られるのを嫌がっていることを無理矢理知りたいなどと思っていませんの。こんなことをして先生の迷惑になることは分かっています。でも先生が襲われているかも知れないことをわかって、ただ大人しくしているだなんて事は私にはできませんでしたの。

 大切な人が傷付いてるかもしれないのに待ってるなんて私の性にはあわないのでした。助けたいと思ってしまうのです。

 先生の小屋にはやはり先生はいませんでしたわ。校舎の中に入れば探していなかったのに例の侵入者たちが見つかりました。格好からして同じで間違いありません。

 奴等から離れて先生を探すための準備をすることにしました。この学園は広いですから一人闇雲に探したところで先生は見つからないでしょう。空間魔法の一つに周辺の状況を把握する魔法があります。それを使って探そうと思うのです。ただこの魔法はかなり難しく発動するのに時間が掛かってしまいます。その間侵入者に見つからないよう隠れる必要がありました。

 慎重に移動して一階の教室の一つに隠れましたわ。

 

「捉えましたわ」

 思わず声をあげてしまった私はすぐに自分の手で口許を抑えました。とは言え近くに人はいないので大丈夫だとは思うのですが。

 時間がかかりましたが魔法の発動に成功し先生がどこにいるのか知ることができました。四階の端の部屋。音楽室に身を潜めているようでした。そこまでの階にそれぞれ二人ずつ侵入者がいましたわ。見つからないよう移動しなければなりませんわね。この魔法は一度発動さえしてしまえばずっと発動させ続けることも可能です。確認しながら進めばいけるでしょう。

 え? どう言うことでしょうか。

 それぞれ上の階にいた侵入者達がこちらに向かってきています。

 見つかりましたわ。でもなんで。考えている暇はありません。逃げることは難しそうですしそれならば迎え撃つ準備をしなければなりません。

 一応もしものための準備はしているのです

 がらりとドアが開きました。その瞬間強風を叩き付けてやったのですが、残念なことに一人もかかりませんでしたわ。四人の侵入者が部屋の中に入ってきます。

「ああ? んだ、あの男じゃねえのかよ。糞が。いや、まあ、そうだとは思ってたけどよ。でも、お前とはな……」

 覚えのある声がしました。あの夜の男ですわ。きっと他の三人もそうなのでしょう。

「丁度いい今度こそお前を頂いてやるよ」

 嫌らしい声がするのを冷めた目で見つめました。

「おあいにく様。私一度負けた相手に二度も負けはしませんわ」

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