先生の秘密と悪役令嬢
「びっくりしましたわ!」
「私後一歩でとんでもない声を出してしまいそうなところでしたわ」
「私もですわ。出さなかったのが不思議に思えるほどです」
「私は「貴方はあげかけていましたよね。咄嗟に抑えなければ先生に不審がられるところでしたわ」
「いや、あれ不審がられたかと思うけど。それに仕方なくない」
「仕方ないですけど」
何とか先生から魔法の教えを受けての帰り道。四人娘とさやかさんが騒がしく話し続けています。私は参加こそしないものの心の中は何度も何度も頷いてしまっていました。それについていけないのがルーシュリック様でした。彼は首をかしげながら歩いています。
「何そんなに興奮してんだ? 先生が魔法凄いの何て前から分かってる話だろ」
「「「誰もそんな話しはしていません」」」
一斉にツッコミが入りました。ちなみに私も口にはしませんでしたが思ってしまいました。
「魔法ではなく顔ですわよ、顔」
「え? 先生の顔なんかあったか?」
「あった所の騒ぎではありませんわ。ルーシュリック様は氷の中にいたので分からなかったかもしれませんが、眼鏡を外して髪を掻き分けた先生の姿はそりゃあもう美しいほどでは現せないほどで……」
「とても格好良かったですわ」
「顔だけで惚れてしまいそうになってしまいましたもの。あ、勿論惚れていませんわよ」
「私もあの顔にはちょっとときめいてしまいましたわ」
次々と口にされる言葉に複雑な思いになりながらも頷きます。そして一度開けばとんでもないことを口走りそうで開かないでいた口を開いてしまいます。
「本当に、……とてつもないほどの格好良さでしたわ。私……顔で好きになった訳ではありませんでしたけど、一気に胸がときめいてしまいましたもの。余計好きになってしまったような……」
格好良かったですと聞いていて恥ずかしくなる声が言いました。自分の声だとは信じたくないような蕩けそうな声。それにそうですわよねとみなさんの声が被ってきましたが、相変わらずルーシュリック様は分からないようでした。
「かお?? そりゃあ先生の顔はいいほうだけど……。んなんまえからだし、今さら言うことか」
「先生の顔がいいなんて今日初めて知りましたわよ」
「え?」
「だって先生いつも前髪で顔を隠していますし、眼鏡もとても分厚いものを使っている上に汚れているでしょう。格好も綺麗とは言えませんでしたし、……だから」
「格好よくとも気付きませんわよね」
うんうんと頷く。本当にその通りだと思います。よくみていた筈ですが、先生が実は格好良いとは気付きませんでしたわ。どうやらルーシュリック様は前から知っているようですが、それが羨ましく思ってしまいます。私ももっと早く知っておきたかった。いえ知った所で先生が鑑賞させてくれるとは思わないのですがそれでも……、知っておきたかったですわ。本当格好良かったですわ。
「でも勿体ないですわよね。あんなに美しいのにお隠しになってしまうなんて」
「そうですわよね。せめて眼鏡だけでも変えたら変わりそうなんですけど。先生の目ってそんなに終わるいんのでしょうか……。もうちょっと薄目の眼鏡とかではダメなんでしょうか?」
「ん、いや先生別に目なんて悪くないけど」
「へ?」
「眼鏡してんの確かこっちの方が落ち着くからとかで目は悪くなかったと思うぞ」
「「「はい!」」」
少女たちの声が響きます。私も思わず叫びそうになって何とか堪えましたが
「何ですの。その理由はもったいない」
「今からでも先生に眼鏡外して生活してくれないかしら」
「私も頼んでみたいですわ」
聞こえてきた言葉に私は待ったを掛けました。
「あまり先生に迷惑をかけてはいきませんよ。それにそんなことをして、先生に人気がでもしたら困るじゃないですか」
言いながら頬が熱くなってしまいましたわ。私今真っ赤になっているのでは。みんなの視線が集まるのが分かって余計に……。やはりいうんじゃありませんでしたわ
「そ、そうですよね!」
「トレーフルブランさん可愛い!!」
「ちょ、抱きつかないでくださいませ!」
「えーー、だって」
「さやかさん! トレーフルブラン様に何をしていらっしゃるのですか! 迷惑でしょう!」
「可愛いんだもん」
「確かに可愛いですけども、迷惑をかけるのは許しません。離れてください」
「そうですわよ。嫌がらてるではないですか」
「早く離れてくださいませ」
ええーーとさやかさんの声が聞こえてくるのに脱力してしまいますわ。ルーシュリック様といいさやかさんといいどうしてこうみんなに睨まれても平気でいるのかしら。四人娘があんなに睨んで……あら?
四人娘を見つめているとふと異変に気づいてしまいました。さやかさんをにらんでいるのは三人だけで、一人ルイジェリア様だけは何かを考え込むように俯いているのでした。
「どうしたのです? ルイジェリア様?」
私が声をかけたらみなさんもそちらにみて異変に気づいたようでした。みなさんもそれぞれ声をかけ出します。ハッとルイジェリア様が顔をあげました。
「あ、すみません。ちょっと気になることがありまして」
「気になることですか」
「ええ、そのちょっとしたことなのですが先生のお顔を何処かで見たような気がして」
「何処かで、ですか」
「ええ、それがどこかは思い出せないのですが。多分幼い頃。美しいお顔でしたし記憶違いと言うことはないと思うのですが」
んーーと悩むルイジェリア様でしたがその途中であっと声をあげました。その視線はさやかさんに向いています。
「さやかさんは何をしているのですか。トレーフルブラン様に抱きつくなど」
「あ、そうですわよ、さやかさん。離れてくださいと言っているでしょう」
うるさくなる声をBGMにそう言えば私もと思いました。私も何処かで……あの顔を見たように……
そのつぎの日ルイジェリア様が酷く興奮した様子で思い出したんですとお茶会の開始早々に言い放ちました。はい? という顔をする私達。ルイジェリア様の興奮は収まらずそんな私達に声を弓のように投げてきます。
「思い出したんですよ、先生! 先生の顔を何処で見たか昨夜家でずっと考えていたら思い出したんです。それで確認したんですがスゴいんですよ」
いつもの彼女らしくなく早口で捲し立ててくる。顔は赤く染まってその目はキラキラと輝いています。
「何と東の国ドランシスで描かれた絵画にうつっていたんですの!」
「東の国ドランシス!」
「嘘でしょう」
「嘘だ!ってまじ!!」
全員が一斉に叫びました。私も叫んでしまいました。ルーシュリック様は驚きのあまり立ち上がっていました。そうなんですとルイジェリア様がいいます。
「先生ってドランシスの人だったのか。いや、先生秘密主義だとは思ってたけどまさかな……」
「え、でもドランシスってほぼ閉鎖状況の国で人でも物でもまず外に出ることはないのでは……。よくありましたわね」
「ええ、父でも手に入れるのは苦労したそうですが、今の先生より幼い九歳ぐらいの姿でしたが、でも間違いありませんわ」
「へぇーー、マジか」
「先生が……」
みんなが呆然としたように声をだします。私も呆然として暫く動けずにいました。
その日の夜私は眠っていたところを飛び起きました。
「思い出したわ!!」
暗い部屋の中に私の声が響きました。
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