不安になる悪役令嬢
「で、なんのようですの。セラフィード様」
私は少し不機嫌になって目の前のセラフィード様に問い掛けました。茶室の中、私とセラフィード様、さやかさんの三人がいます。
さやかさんからセラフィード様がどうしても話したいことがあるらしくてと頼み込まれてこのような形でお茶会をすることに。といってもお茶は飲んでいませんが
三人だけで話すことができる茶室を借りたにすぎませんわ。セラフィード様が人目がつかないところが言いというので。
少しアウトかなと思いながら今日だけは許しました。
「えっと……」
セラフィード様が困ったように私を見つめそれから左右を見つめます。
「その前になにか機嫌が悪くないかトレーフルブラン」
「いえ、そんなことはありませんが気のせいでは」
いや、気のせいではないと思うがと呟くセラフィード様の横ではさやかさんが苦笑していました。仕方ないよ。気にせず本題を話そうとセラフィード様に告げる彼女は私が何故機嫌が悪いのか理由が予測できているようで少し恥ずかしくなってしまいました。なにせ私の機嫌が悪い理由なんて先生に会いに行く時間を潰されたと言うようなものなのですから。
時間の一番長いお昼休みをセラフィード様に取られて悲しいのです。ですが希望は捨てていませんわ。早くこの話を終わらせて先生に会いに行きましょう。
そのためにで、といいました。
「その用件なんだが」
セラフィード様の顔が真剣なものになりました。じっと真っ直ぐな目で私を見てきます。
「ブランリッシュのことなんだ」
「ブランリッシュの」
彼からその名前を聞くことがあるとは思わずに私は驚いてしまいました。そして何かありましたのと早口で聞いてしまいます。
目をセラフィード様は大きく見開いてから伏せました。
「いや、……何かあった訳ではないんだが、この前久しぶりにあいつを見たから。その時とても酷い顔をしていたから気になってな。
……あいつがどんな様子なのかお前に聞こうと思ったんだ」
「あ、そうなのですか」
良かったと胸を撫で下ろしながらも私は緩く笑いました。さやかさんの手前言い辛くはありましたが本当のことを口にいたします。
「生憎ブランリッシュのことについては私何一つ分かりませんの。もう何週間も彼の姿を見ていなくて」
さやかさんが驚いた顔をしましたが、セラフィード様はあっさりとそうかと口にしました。彼は多少は私の家庭の状況を知っているので予想はしていたのでしょう。
「仲な……、いや、仲良くはまだなれていないのだろう」
「ええ……」
「……家は今どんな感じなんだ」
「まあ、特には変わり……なかったとはいえませんね。色々とあってそのせいかしら」
ないですと言いそうになって止めたのは私なんかよりもずっとセラフィード様の方がはブランリッシュのことを知っていると思ったからです。セラフィード様はなるほどと頷いて考え込んでくれます。
「何があったのかとかは聞かないが、ブランリッシュのことはしばらく俺が様子を見てみよう。あいつは俺の弟分みたいなものだ。最近は話すことがなくなってしまったがこれでも気にしていたんだ」
「お願いしますわ」
「ああ」
「私もできることがあったらやるからね」
「ありがとうございます。さやかさん」
良かったと胸を撫で下ろしました。二人が見てくれるなら少しは安心できます。
私ではどうにもできないからブランリッシュのことはお二人にお任せしましょうと考えることができていたのは少しの間でした。
そんな考えはすぐに吹き飛んでしまいました。
ルーシュリック様のせいで。
「そういやブランリッシュの奴危ないところに出入りしてるって聞いたけど大丈夫なのか?」
「へ? 何のはなしですか?」
セラフィード様と話した翌日の昼。先生の部屋から一緒に教室へ戻るときにルーシュリック様が聞いてきたのですが、何のことか分からず首をかしげてしまいました。そんな私にえっと声をあげます。
「セラフィードの奴から聞いてねえの。あいつがブランリッシュの奴がなんか危ないところに出入りしてるって話してたんだけど。トレーフルブランにも相談してみるって話だったけど……」
まだ話してなかったのか。でもきのうさやかもいれて三人であってたよなと言う声が何処か遠くから聞こえてきました。首を左右に降りました。
「聞いていませんでしたわ。そんな話は」
出てきた声はとても弱々しいものでした。
昨日のセラフィード様を思い出します。確かに最初彼は何処か言いづらそうにしていました。言葉も歯切れ悪く悩むような様子が見受けられていた。最後の方も視線を泳がしていて、目が合うことがありませんでした。
あれは本当のことを言えなかったからなのだと今気付きました。
きっと言えば私が心を痛めるのではないかと心配して言わないでくれたのでしょう。でも……、私のなかでは何で言ってくれなかったのかと強い怒りが沸き上がりました。兄弟だからあのこのことには私が責任があるのに。
「ルーシュリック様。その話もっと詳しく教えてくれませんか」
「え、いや、詳しくって言われてもごめん。俺そんなにちゃんとは話聞いてないんだ」
「そうなんですね。……でしたら今から、は授業がありますから無理ですけど放課後一緒にセラフィード様に会いに行ってくださいませんか。詳しく知りたいんです」
「ああ、それなら全然いいけど、でもあいつ捕まえられるのか。最近他の二人も連れてセラフィードの奴ブランリッシュのこといろいろ調べてるらしくて放課後すぐにいなくなるぞ」
「え……そうだったのですか」
……そういえばここしばらく教室からすぐにセラフィード様の姿が消えていたように思います。何かあるのだろうかとは思っていましたがまさかこんなことだったとは。
「セラフィード様なら私が捕まえておきますわ。同じクラスですから抑えておくことなど簡単です。なのでブランリッシュ様はセラフィード様を呼びに来てください。そのついでに私も誘っていただければ」
「了解!」
じとめでちらちら見つめてくる気配を感じながらも私は帰り支度を進めます。
「セラフィード! 遊びに来たぜ!」
明るい声をあげて扉からルーシュリック様が顔を覗かせました。片足だけを廊下において全身を乗りだし両手をふるルーシュリック様を見てぎょっとした顔をセラフィード様はいたしました。その後私を見てあちゃーと言う顔でルーシュリック様を見ます。ルーシュリック様に話したのが悪いのですよと思いました。話す相手は選ばなくては。
「ああ」
考え込んだ後セラフィード様が頷くのを見て私は足止めしていた魔法を解きました。
「茶室を押さえといたからさそこで話そうぜ。あ、トレーフルブランもどうだ。さやかとかもいるぜ」
ざわりと周りの空気が揺れます。えーーと言う顔でルーシュリック様を見ますのにまあ、そうなりますわよねと思いながらいいですわよと答えました。
三人で茶会の部屋に行きます。中には誰もおらずそれぞれ椅子に座ります。
「さやかは」
「いませんわよ。私とセラフィード様、ルーシュリック様。三人のお茶会だなんて何を噂されるか分からないでしょう。それを回避するための嘘です。まあ、さやかさんを入れた四人でも色々微妙なのですが。どうやら最近早く帰るらしいセラフィード様を引き留めるには仕方ないかと思いまして。
ああ、あとさやかさんは別のところでミルシェリー様たちと勉強会をしていますのでばれる心配はありませんわ。ちゃんと私とルーシュリック様の魔法で周りには幻影を見せてカモフラージュしていますから。大丈夫です」
ですのでゆっくりと昨日言わなかったことを話してくださいませ。
告げるとセラフィード様はうっと声をつまらせました。じとめでルーシュリック様を見つめます。
「言うなと言っておいただろう」
「いや、だってさ自分でトレーフルブランには話すからって話だっただろう。話した後ならいいのかなって思って」
「ああ、それはしょうがありませんわ。セラフィード様のミスですわね」
ああ、と頭を抑えて苦悩の声をだすセラフィード様の姿にどくどくと胸が痛みました。目をそらしてしまいそうになる己を叱咤してセラフィード様をみます。
「それでブランリッシュの件なのですが、危ない奴等と関わっていると言うのはどういうことですか」
問いかければセラフィード様は呻くのをやめじっと私を見ます。そのすぐあとに視線をはずした彼は深いため息を吐いてから話し出しました。
「俺も気づいたのは最近なんだがどうもブランリッシュの奴あまり言い噂の聞かない奴とばかり関わっているようでな。気にしてみていたらその……軍に目をつけられているような奴と関わっていたり、犯罪組織などとも関わっているようで」
「そんな……。そういえばこないだ国外れでブランリッシュに似た姿を見ましたけど、もしかしてあれは本人だったのかしら……」
「ああ国外れなら犯罪組織の拠点がひとつあるようだが……て、なんでお前がそんな場所でブランリッシュをみるんだ。お前がそんなところで何をしているんだ」
「私のことは今はいいのですわ。それよりブランリッシュのことです。何故私にちゃんと話してくれなかったのです。
私はあのこの姉なのですよ」
どうでもいいことを気にしてくるのを切り捨てて私は一番言いたかったことをセラフィード様に言いました。どうして私に言ってくれなかったのかと詰め寄ります。うっと言葉をつまらせたセラフィード様、それはと言うのにさらに言葉を重ねました。
「心配してくださるのは分かりますが、それでも私は知っておきたかったのです。あのこのことなら私がどうにかしなければいけませんから」
セラフィード様が顔を歪めてそれからじっと見つめてきました。
「言ってどうする」
苦しそうに彼は聞きました。私はえっとセラフィード様を見ました。
「どうにかしなければならんというかお前にそれができるのか。ブランリッシュの奴になにがしてやれる」
「それは、」
「止めるだけならできるだろう。でもそれで問題が解決する訳じゃない。お前だって分かるだろう。あいつがどうしてこんなことをするのかその話を聞いてやらんといかん
お前にそれができるのか」
問われたことに私はなにも言えませんでした。ブランリッシュにかける言葉など私はひとつも持っていないのです。ずっと何を言えばいいのかわからないままで……
「ブランリッシュのことは、俺に任せてくれ。まだ俺の方があいつには何か言ってやれるんだ」
反論できるはずもありませんでした
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