2章

悪役令嬢の新しい日々

「いいあなたはまだぺーぺーのぺーなんです。そんなものでは調子に乗ってはいけませんわ」

「えーーでも二十位だよ。凄くない」

「全然。全然ですわ。そんなもので誇らしげにするなど愚かしいです」

「えーー」

「仮にもトレーフルブラン様に師事してもらう身であるのなら十位以内に入りなさいな。そうじゃないとトレーフルブラン様の弟子だなど認めませんわ」

「十位以内……。それはちょっと厳しいかも。……いや、でもそうだよね。それくらいにはならないと……。頑張らなきゃな」

 二人の少女の声がかしましく聞こえます。よくやることと思いながら私はお茶を飲む。あ、美味しい。

「このお茶は何処のなのかしら」

「はい。そちらはオーロラ国のブルー地方のものですね。爽やかな甘味があって最近評判の品なんですよ。お口に合いましたか」

「ええ、とても美味しいわ」

「トレーフルブラン様。このお菓子などそのお茶に合うと思うのですがいかがです」

「おひとつ頂こうかしら」

「なーー、トレーフルブラン。これも飲まねぇ。さっき作った薬草魔法薬。一口飲めば気力回復集中力アップ、魔法の力増大。いいことづ「飲みません!

 トレーフルブラン様を貴方の実験に付き合わせないでくださいと何度言えば分かるんですか、ルーシュリック様」

「えーーいいじゃん」

 あらあら。こちらも此方で騒がしくなってきましたわ。まあ、いつもの事ですから嫌いではないのですけれどね。みんなの声が飛び交うのにニコニコ笑みが浮かびます。お茶を飲んでお菓子も食べて幸せですわ。

 魔王の一件があってからもう三か月余り。この三か月は飛ぶように早く過ぎ去りました。セラフィード様との婚約破棄について周りから色々聞かれたり、私の中にいる魔王について様々な方が説明や検査を求めたりしてきて……。

 落ち着くことができたのは一週間前のこと。

 そしてここ一週間は毎日のようにお茶会を開いて優雅な日々を送っています。

 まあ、優雅なというには些か騒がしいですけどね。

 私のお茶会の傍ではさやかさんが立派な令嬢になるためお勉強に励まれていますし、その近くではルーシュリック様が魔法の研究に勤しんでおられます。私に協力も求めてこられるのですが、それは四人娘の一人ベロニカ様が止めてくれます。さやか様の勉強は私が見なくともミルシェリー様が見てくださり、ルイジェリア様はお茶会に必要なお茶やお菓子を手配してくれます。ティーラ様は三人と二人を纏め上げて場が混沌とならないように調整してくれます。

 私のやることは何一つないのです。

 何て平和でしょうか。セラフィード様の婚約者だった時はセラフィード様や四人の行動に注意を向け、何かあればフォローをし、教師や生徒に良い印象を与えるようにと色々手を回してきたのですが今やそれもありませんし……。王城や下町に行ってこの国の現状把握をする必要も前よりありません。

 正直ここまでやることがありませんと何をしていいかわかりませんわ。

 今まで次期王妃として支えるためだけの生き方をしてきたので悩んでしまいます。時間もそうあるわけではありませんしそろそろ何かをしなければならないのですが……。

 取り敢えず今日は、

「だから違いますと言っているでしょう」

「分かっているよ。今考えてるの」

「この程度の問題にそんなにかかっていては十位以内なんて無理でしてよ」

「うう……」

「ちょっと! ここであんまり変なことしないでくださいませ」

「簡単な魔法しただけじゃん」

「変だと思ってない所が変なのよ。こんなに土煙を上げてお茶に入ったらどうするんです」「え、別に魔法で取ればいいじゃん」

「そう云う問題ではないんです。この魔法馬鹿!」

「あ、二人ともそれ以上は近寄ってこないでくださいね。トレーフルブラン様の邪魔になりますから」

「次はこのお茶なんてどうですか」

「いいですわね」

 この騒がしい声達をBGMにお茶を楽しみましょう。

 何かをするのは明日から、って……これは駄目な人の良い訳でしたかしら。


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