第13話 食べさせあいっこするお姉ちゃんと一人っ子

 私とお姉ちゃんがファミレスに入ると、店員さんはお姉ちゃんに釘付けになっていた。そうだよね。お姉ちゃんって、綺麗で可愛いもんね。


 自慢げに胸を張ってお姉ちゃんと一緒に席に向かった。私たちは隣り合わせで座る。お姉ちゃんは銀色の髪をかきあげながら、興味津々といった風にメニューをみつめていた。


 今日のお姉ちゃんはポニーテールじゃなくてロングヘアだ。ポニーテールなお姉ちゃんも最高だけど、さらさらと揺れる銀色の後ろ髪も深窓の令嬢感が出て魅力的だ。


「いっぱいメニューがあるんだね」

「みたいだね。私もファミレスは初めて」


 家族で外食をすることなんて、ほとんどなかったのだ。

 

「あ、このケチャップハンバーグとか美味しそうじゃない?」


 私が指をさすとお姉ちゃんは「それじゃあ一緒にこれ頼む?」と笑った。


 みんなからすると当たり前のことなのかもしれない。けれど大切な人と外食ができて、本当に幸せなのだ。幸せを我慢できなくて、私はお姉ちゃんの頬にキスをする。


 するとお姉ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、へにゃへにゃと嬉しそうにするのだ。お姉ちゃんも幸せを感じてくれてるみたいで、本当に良かった。


「好きだよ。お姉ちゃん」

「お姉ちゃんも大好きだよっ」


 そんなやり取りを通りがかった店員さんがうっとりとした表情でみている。視線を向けると「あ、続けてもらって結構です。というか続けてください!」と微笑んでいた。


 私たちは苦笑いをしながら、その店員さんにケチャップハンバーグを頼む。するとしばらくして、店員さんは満面の笑みでもってきてくれた。じゅうじゅうと肉の焼ける音が聞こえてくる。こんがりと焼けているハンバーグにケチャップがかかっていて美味しそうだ。


「それじゃあ、食べよっか」

「う、うん」


 どうしてかお姉ちゃんは私が握ったフォークをじっと見つめている。どうしたのだろう? 首をかしげていると、恥ずかしそうにこんなことをささやいた。


「あーんして欲しい、です……」


 私はニヤニヤしてお姉ちゃんをみつめる。へぇ。そっか。私に食べさせてもらいたいんだ?


「お姉ちゃんって本当に私のこと好きなんだねっ」

「好きだよ?」


 その真っすぐな言葉に、今度は私が赤くなる番だった。お互い顔を真っ赤にする私たちとそれをにやにやと見つめる店員さん。なんだか目がキラキラしているような……。


 まぁいいけどさ。あーんしてあげるくらいなら……。


 私はナイフとフォークでハンバーグを切り分けて、そのひと切れをお姉ちゃんに差し出してあげる。火傷するとだめだから、何度かふーふーしてあげた。


「あ、ありがとう。瑞希」


 お姉ちゃんは照れくさそうに、銀色の髪の毛を指先でくるくるしている。本当に可愛いなぁ。お姉ちゃん。


「はい。あーん」


 私が声をかけると、お姉ちゃんは口を開けた。その中にハンバーグを入れてあげると、お姉ちゃんは目を見開いて驚いていた。


「……こんなにおいしいんだ」


 お姉ちゃんは現実世界で何かを食べるのが初めてなのだ。その衝撃は凄まじいものらしく、信じられないとでもいった表情で鉄板の上のハンバーグをみつめている。


 この調子で、お姉ちゃんには私と一緒にたくさんの初めてを経験して欲しい。


「もしもっと食べたいならたくさん注文していいからね? お金はたくさんあるから」


 私が微笑むとお姉ちゃんは「瑞希と一緒に食べるから美味しいんだよ。量は問題じゃない」と私にキスをしてきた。ハンバーグの味がした。案の定、店員さんは顔を真っ赤にして興奮している。


 なんだか恥ずかしくなってきた私は「お姉ちゃんのばか」とささやいてそっぽを向く。あわあわとしているお姉ちゃんは可愛いけれど、なんだか可哀そうに思えてきた。我ながらちょろい妹だ。


 振り向いて、そっと唇を重ね合わせてあげる。するとその瞬間、お姉ちゃんは満面の笑みになった。店員さんもニコニコしている。


 お姉ちゃんはフォークとナイフを手に取ったかと思うと、今度は私の口元にハンバーグを持ってきた。もちろんふーふーと息を吹きかけて冷やしたあとだ。


「あーん」


 その声にこたえて、私はおずおずと口を開く。すると口の中にジューシーな肉汁が広がった。あれ? ハンバーグってこんなにおいしかったっけ? 家で食べてたハンバーグはこんなにおいしくなかった。


 もしかして、お姉ちゃんと二人で食べてるから美味しく感じるのかな。なんて、目の前でニコニコするお姉ちゃんをみつめながら思う。これまでモノクロだった世界が、鮮やかに色づいていくようだった。


「……お姉ちゃん。ずっと一緒にいてね」

「うん。ずっと一緒だよ!」


 そう、お姉ちゃんは元気に笑った。


 私たちは微笑み合いながら、ハンバーグを完食した。でもお姉ちゃんは小食らしく、苦しそうにしていた。私も苦しかったけれど、その苦しさすらも愛おしかった。


 笑顔の店員さんに見送られながら、私たちは店を出た。次に向かうのは人の多い場所、ショッピングモールだ。今日は休日だから、大勢が来ると思う。

 

 お姉ちゃんはずっと私の頭の中にいたから、他の人を見ることがほとんどなかったのだ。たくさん楽しんでほしいと思う。

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