第2話あたし、聖剣の所有者になってた

 チチチ……チチッ


「ん……」


 重い目蓋を擦り、酷い頭痛を感じつつ目を開ける。


「あれ?どこだここ?」


 いつもは石造の建物に地面、遮るものがなくダイレクトに見える青空になぜか肩を組んで一緒に眠っている知らないおっさんがいるのだが今日は違う。


 目に映る新緑の森に草原、遮るものがなくダイレクトに見える青空に右手には鈍く輝くロングソード。


「おかしい……ここはどこだ?いつものおっさんはどこへいったんだ?」


 右手に握りしめているロングソードを見つめ思案。


 昨日は久しぶりにゴブリン討伐クエストを達成したから上機嫌で飲んでいた。

 そこにいつものようにおっさんがやってきて「今日も1人酒か。しょうがない付き合ってやる」と言って知らないおっさんと飲んでいた。

 

「ドゥハハハ!今日はわしの奢りだあ!好きなだけ飲め!」


「うおっしゃ!飲むぞー!」


 酒樽を両手で持って……あれ?その先が思い出せない。

 ズキズキ痛みだすこめかみを抑えてとりあえず周辺の警戒。

 

「気配探知」


 私のジョブは盗賊。

 探索はお手のもの。


「……周辺に魔物らしき気配なし」


 それから気配探知では索敵し切れていない敵がいるかもしれないので周囲を目視確認

 時計回りに首を動か……ん?んん?なんか今……


「落ち着け。私は今酷い二日酔いで幻覚を見ただけだ。よし、私は幻覚を見ただけ」


 もう一度周囲の目視確認。

 首を時計回りに動か……おう……幻覚じゃなかった。

 フッ……と乾いた笑みを浮かべる私の視線の先では、


「これで各部位の解体は終わりましたね。これが料理分、残りをギルドに売ればなかなかの値段で売れそうですね。ふふふ」


 積み重なり山となっているオークの死体の前で純白のメイド服風のワンピースを着た白銀長髪美女が刃物片手に返り血を浴びた姿でお淑やかに笑っています。


「あ!目を覚まされたのですね!」


 女性は笑みを浮かべ私の方へ走ってくる。風に揺れる絹糸のようなサラサラ髪、可愛らしい垂れ目、時々返り血、片手には刃物……

 うん、これは……


「逃げるが勝ちィィ!」


 私は盗賊。逃げるのはお手のもの。逃げ足に関してはカーティスの街で1番の冒険者。私に追いつけるやつなんてこの辺に


「朝の運動ですかー」


 涼しい顔で1m後ろを着いてくる銀髪女性。

 ええ!な、なんで着いてこれるの!それにこっわ!手を伸ばせば届く距離をずっと並走してくる!刃物片手に!


「凄い速さです。スピードに関しては勇者を凌ぎますね」


「ぎゃああ!誰か助けてェェ!」


「すみません。あなたの実力を確かめさせて頂きます。ステータス強化(極)」


 白く淡い光が銀髪の女性を包み込む。


「自分自身に強化魔法をかけた?!そんな魔法使い聞いたこと無いんだけど!」


「いえ。これくらいの事誰でもできる事です」


「いや!誰にでもできないから!ていうかこれまで素のステータスで私に追いついてこれてたってこと?!」


「お恥ずかしい所です……本来ならば所有者と肩を並べて走れないといけないのですが……これから精進いたします」


 私を追い越していく女性。


「いや、この辺で私に追いついて来れる人いないんで充分だと思います。それにステータス強化のみで追い越していくし……」


「いえ。私なんてまだまだです。それでは少々実力を確かめさせて頂きます」


 言葉と同時に女性は重心を落とし後ろ足で地面を蹴り低い姿勢のまま私の懐へ。

 そのまま下からナタを私の首筋を狙って突き出してくる。


「速!?」


 予想以上に速い動きに鋭い突き。そして斜め下からの人間の認知が一瞬遅れる攻撃。


「く……」


 上体を逸らして避ける余裕はない。ナイフを蹴るのは遅すぎ、腕を犠牲……毒が塗られていたら終わる……ぐあああ!ダンジョンボスを倒す時以外はあんまり使いたくないんだけど仕方ない。

 

「縮地」


 スキル体術(上)と素早さの値が500を超えた時に取得できる高速移動スキルの一つ。

 相手が目で追うことができない速度で移動する。

 難点は瞬発的にかなりの筋力を使うので前衛職のような肉食獣でないと耐えられない。

 私みたいな草食動物は3回も使えば足が生まれたての子鹿のようになる。


「どうする?私的にもここで終わってくれた方がありがたいんだけど」


 女性の背後へ回り込んだあたしは白銀のロングソードの切先を背中に触れるか触れないかの距離で構える。

 本当にここで終わって欲しい!足がだるい!


「盗賊のジョブでありながらまさか剣士でも使える者は稀であるスキルをお持ちだとは、降参です」


 ナタをその場に落とし両手を上げる女性。

 ふぅ、よかった。




「こちらオーク肉の爽やか蒸しです。オーク肉を蒸すことで旨味である油を閉じ込めつつも焼きとは違いさっぱりした味を楽しんでいただけると思います。ソースはオリーブオイルと柑橘系果物の皮を分離しないように混ぜ合わせ塩胡椒で味を整えたソースとなっております。冷めないうちにお召し上がりください」


「ありがとう。えっと……エクスカリバーって長いな。略して呼んでもいい?」


「はい」


「なら、エックス!」


「流石にどこぞの容疑者のような名前はちょっと」


「じゃあ、白銀の女神!「ホワイトシルバーゴッデス」!」


「長いです。そして名前だけ仰々しくてここぞという時に瞬殺される戦士のような名前は嫌です」


「じゃあエクスカリバー!」


「元に戻っております」


 く!私のネーミングセンスは受付嬢から「へー可愛いですねー」って言ってもらえるほどいいはずなのに。


「じゃあ、もう頭文字を伸ばして「エーさん」で!」


「少々不服ですがわかりました。よろしくお願いします」


 名前がわかったところでエーさんの作ってくれたオーク肉のなんとかを頂く。


「ん!?」


「お口に合いませんでした?」


 私の反応に横に佇むエーさんが不安そうな顔になる。


「う、うまーい!」


 なにこれなにこれ!酒屋のおっちゃんが作る肉料理より10000倍美味しい!二日酔いで胃がむかむかしているはずなのに食べるたびに食欲が増して手が止まらない!

 

「は!夢中で気が付かなかったけどもうなくなってる!」


「ふふふ、大丈夫です。まだまだございます」


「おお!おかわり!」


 笑顔のエーさんはおかわりをたんまりと持ってきてくれる。

 そして持ってきてくれた料理を半分食べて半らお腹が膨れてきた所でエーさんについて聞いた。


「少々長くなりますがよろしいですか?」


「全然良いよ」


「それでは……」


 勇者クロードとの出会い、そこからのパーティーでのこと、そして捨てられたこと。

 たまに言葉に詰まりながらも全部話してくれた。


「バカだねぇそいつら。今までのエーさんの動きを見てればわかるよ。さっきのナイフ捌きと言いおそらくだけどエーさんが擬人化して前衛で敵の気を引きつつパーティーに強化魔法をかけて戦っていたんでしょ?」


「はい」


「うん。なら今頃そいつらはあんたが居なくなったことがどういうことか痛感してる頃だろうね。あんたがパーティーを支えていたってことを」

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