第3話 見えない協力者

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 オレたちの間に空前のプレゼント企画ブームが到来して3日目。

 今日の2限はマーケティング論。

 大教室で行われるマーケティング論は80人〜100人が受講しており、初めの60分が座学、残りの40分がレポート作成となっている。


 座学は板書をノートに写していればあっという間に終わるのだが、学生を苦しめているのはレポートだ。

 毎回、2000文字〜3000文字のレポートを作成して提出しなくてはならない。

 当然、授業中に終わらせることができないので放課後居残りをすることになる。


 文字数を稼ぐ為にネット上から資料を引っ張ってくる生徒も多いが、個人のブログや情報元が怪しかったりすると教授から厳しい指摘を受けてしまう。

 書いては消してを繰り返すこの時間が1週間で1番辛い時間とも言える。


「大河、テーマ決まった?」


「今回はお菓子メーカーについて掘り下げようかなと思って色々検索掛けてる。雄太は?」


「出版業界の予定。レーベルによってメインターゲット層が違うからグラフとか作って比較していけば面白くなりそう」


 雄太はパソコンで複数のファイルを開き、必要な資料をピックアップしていた。

 一方の正輝はというと雄太の隣の席で眠そうに欠伸を噛み殺していた。手も止まっているから完全に戦意喪失したみたいだ。

 恐らく夜中までゲームでもしていたのだろう。


 作業が始まって15分が経過。

 時刻は11時55分。新しいプレゼント企画の問題が投稿されるまで5分を切った。

 教授は前方の教卓で学生からの質問に答えている。

 パソコンが教授の視線を遮ってくれるからスマホを操作してもバレることはないだろう。


「そういえば正輝、昨日のプレゼント企画って結局当選したのか?」


 スマホを片手に背筋を伸ばしていた正輝に小声で声を掛ける。


「ああ、夜にダイレクトメッセージに当選通知がきたわ。当選した1万でまた新しいゲームソフトでも買おうかな」


「ゲームばっかりやってると馬鹿になるぞ」


 雄太の辛辣な言葉が飛んでくる。

 もちろん冗談だけど。


「雄太だってゲーセンに通ってるだろ?」


「俺のは息抜きだから」


「だったら俺もゲームは息抜きでやってるから問題ないな」


 なんてやり取りが行われていると12時を迎えた。

 更新される投稿。

 雄太も正輝もスマホの画面を見つめたまま黙っている。

 少しして雄太が「ダメだ」と言い、スマホをポケットにしまった。


「なんだよ。誰なんだよこいつは。何がしたいんだ? どこまで知ってる? いや、絶対にバレるはずがない。なんなんだよ……」


「正輝?」


 正輝はボソボソ独り言を呟いていてこちらの声が聞こえないみたいだ。

 スマホを凝視して画面の拡大と縮小を繰り返している。

 頭を掻きむしり、時折舌打ちをしていることから冷静でないことは明らかだ。


「おい正輝、大丈夫か?」


「あ、ああ、大丈夫大丈夫。これ昨日より難しいな。絶対答えさせる気ないだろ」


 正輝は何度目かの呼び掛けに反応し、スマホの画面を机に伏せて置いた。

 今日投稿された問題は昨日と同様1枚の写真だった。

 風景はほとんど昨日と変わらず、写真の右奥に誰かが写り込んでいた。

 距離が遠いせいかぼやけていてくっきりと顔が見える訳ではない。

 だが、投稿者が意図的にモザイクを掛けている訳ではなさそうだ。


 それを決定づけたのは投稿に添えられた文章。


『【拡散希望】

写真に写っているのは誰? (犯人?)

※今回に限り正解者、先着1名に10万円分のギフトをプレゼント!』


 先着5名のところが先着1名に変更され、金額が跳ね上がっている。

 【拡散希望】という言葉まで追加され、みるみる投稿が拡散されていく。

 写り込んでいるのは有名人なのか、それとも一般人なのか。

 一般人だとしたら素人のオレたちには特定できるはずがない。

 そもそもぼやけている画像を綺麗にする技術がない。


「そうか。やっぱりそうだったんだな」


 プレゼント企画の問題が投稿されて講義が終わるまでの20分間、マナーモードにしているオレのスマホはSNSの通知を受信し続けた。

 1秒に1回以上のペースでスマホのロック画面に通知が更新されていく。

 その全てがオレの協力者からの連絡だ。

 顔も名前も知らない姿も見えない複数の協力者からの。


「正輝、ちょっと話がある」


「どうした?」


「いいからついて来い」


「なんだよ大河そんなに怖い顔して」


 有無を言わせぬ圧を掛け、正輝を呼び出した。


「悪い雄太、オレと正輝は午後の講義欠席するわ」


「う、うん。分かった」


 空気を察して雄太が頷く。

 オレと正輝は人気の無い部室棟の影に向かった。

 その間もスマホの通知が止まることはなかった。

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