第2話 その時は突然やってきました。
「おばあちゃん、ただいま。」
「どうしたんだい?今日は元気がないねえ。」
「学校のうさぎが死んじゃったんだ。他のウサギ達がそのウサギのまわりでじっとしてるんだよ。その子のお墓を小屋の近くに先生と一緒に作ってあげてる間中、ずーっとこっちをみてるんだ。かわいそうだよ!」
「そうだね。それはさみしいねぇ。」
「・・・ねぇおばあちゃん、人間もいつかは死んじゃうの?」
「そうだよ。」
「おばあちゃんも?」
「そりゃそうさ。生きているものはみんな死んじゃうよ。」
「いやだ!おばあちゃんは死なないで!私が死ぬまで生きてて!約束して!」
「あっはっはっはっはー!あんたは本当におもしろい子だね!私は何歳まで生きなきゃならないんだい。そんなに生きたら疲れちゃうよ!あっはっはっはっはー!」
「ねぇおばあちゃん、死んだら人間は無くなっちゃうの?」
「いいや、心は残ったままだよ。魂って聞いたことあるかい?」
「うん、火の玉みたいなやつでしょ。」
「そうそう、魂にも故郷ってやつがあってね。死んだらそこに帰るのさ。天国とか極楽とかいうよね。」
「帰ったらなにをするの?」
「ゆっくり休むのさ。この世界はとてもエネルギーを使うから疲れちゃうんだ。ゆっくりゆっくり休んでエネルギーがたまったらまたこの世界に来るんだよ。」
「なんでまた来るの?」
「うーん、どうやって言ったらわかりやすいかねぇ。人間っていいも悪いも、とっても欲深い生き物でね、あのお菓子が食べたいってなったら、もっともっと欲しくなるだろ。遊んでいたらもっと遊びたい。朝眠いからもっと寝ていたい。
これが欲さ。こう言うと人間は欲まみれで嫌な生き物になってしまうけれど、良い方に働く欲もあるのさ。」
「良い方の欲ってなに?」
「向上心さ」
「向上心?」
「大きくなったら立派な先生になるために今から一生懸命勉強するとか、・・・ほらあんたがハルトに50メートル走で絶対に勝つと決めて、一生懸命に夜練習してただろ。あれも欲なんだよ。」
「あー、前よりももっと良くなりたいってことね。」
「そう。魂の故郷にいるととてもきれいな心になるんだ。そうするともっときれいな心になりたいって思いこの世界にやってくるんだ。この世界は修行の場なんだね。」
「へー、でも修業ってなんだか大袈裟だね。そんなに大変かなあ。結構楽しいけどなあ。」
「あっはっはっはっはー、あんたウサギのこと忘れてないかい!」
その時は突然やって来ました。
学校で給食を食べていると、先生に呼ばれました。
「お家が大変だからすぐに帰りなさい。」
急いで校門を出るとあきら叔父さんが待っていました。
「今から病院へ行くぞ」
と言われて
「なんで?」
とあきら叔父さんに聞いてもなにも返ってきません。嫌な予感しかしませんでした。車に乗っている間何があったのか知りたかったのですが、とても聞ける雰囲気ではありませんでした。
病院に着くと
「着いてこい。」
と言ってあきら叔父さんは走り出しました。私は怖くて怖くて仕方ありませんでした。足がガタガタ震えて思うように走れませんでした。病室に着くとベットを囲むように人が立っていました。その中にお母さんも青白い顔をして立っていました。私は恐る恐るベットをのぞきました。そこにはおばあちゃんがとても気持ちよさそうに寝ていました。今にも目を覚まして、おかえりと言いそうでした。
「おばあちゃん・・・。りんだよ。・・・・あははは、おばあちゃんやめてよドッキリでしょ・・・。もういいよ、起きて・・・」
お母さんの泣き声で私は我を忘れておばあちゃんを強く揺すりました。
「やだーー!うそ、うそでしょ!なんで、なんで死んじゃったんだよー!なにも言わないで死んじゃうなんてひどいよー!ねぇ起きてよ。起きてってば。起きてまた話しようよー。」
揺すっても揺すってもおばあちゃんは気持ちよさそうな顔をして動きませんでした。
その日からしばらく誰とも話すことができませんでした。
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