おばあちゃんとやなり
りんなのチャンネル
第1話 これは私が9歳だった頃の話です。
「あっはっはっはっはー、あんたは本当に真っ直ぐな子だねぇ」
これは私が9歳だった頃の話です。私の家は築100年以上の古民家です。家の前には小さな生き物がたくさん棲んでいる水の綺麗な小川が流れています。春にはザリガニが取り放題。家の裏手の山へ続く林道にはクヌギやコナラの木がたくさん生えていて、夏になるとカブトムシが取り放題。その林道を登って行くとあきら叔父さんが耕作放棄地を茶畑にした緑の茶畑の畝が広がっています。お茶は毎日飲放題。古い家なので、時々ミシミシ、ギシギシという音が屋根裏から聞こえてきます。
私はおばあちゃんと話をするのが大好きでした。家に帰るとすぐおばあちゃんに今日一日の出来事や気になる事、悩み事などを話しました。おばあちゃんはなんでも答えてくれました。
おばあちゃんの
「あっはっはっはっはー」
という笑い声がだいだいだい好き。いつも元気を貰いました。
私のお父さんは、単身赴任をしています。たまにしか帰ってこられないので帰ってくると、私にはめっぽう甘くてなんでも言うことを聞いてくれます。怒られたことは一度もありませんでした。
お母さんはあきら叔父さんの茶畑農場で働いていました。耕作放棄地を茶畑に再生することはとても大変で、朝早くから夜遅くまでずっと働いていました。でもさみしいなんて1ミリも思いませんでした。おばあちゃんがいるし、お母さんが家にいてもちょっとした事ですぐ言い合いになるし。農場から帰ってくるとまず一言目に
「宿題はおわったの?」
毎回同じ言葉にうんざりしながらこう言い返します。
「後でやるよ」
その言い方に腹を立てたお母さんがこう言います。
「後じゃない、今やりなさい」
「はいはい、わかりました」
「返事は一回」
「宿題なんていつやってもいいじゃん。」
「遅くなったら寝る時間が少なくなるでしょ。あなたの為に言ってる事だよ」
「はいっ出ました、伝家の宝刀あなたの為に!」
どちらも引かないので言い合いがとても長引きます。おばあちゃんはほんとあんたたちは似た者同士だねぇとよく言ってましたけど。
「おばあちゃん、ただいまー。あのね、今日ハルトに50メートル走勝ったんだよ!よっしゃー!」
「おーそうかい、よかったねー。ハルト君に負けてからあんた毎晩裏の林道走ってたもんねー。努力は裏切らないってことだね。」
「あの時はほんと悔しかったからね。絶対見返してやるって誓ったんだ!」
「そうそう、本当に悔しそうだったね。あんなに泣くほど。」
「げっ、、、なんで私が泣いたこと知ってるの?」
「あっはっはっはっはー!そりゃわかるわよ。あんなに目をはらしてたら。土偶かと思ったわよ。」
「土偶って、ひっどーい!」
ミシミシミシ、ギシギシギシ、ミシミシミシ、ギシギシギシ
「ねえおばあちゃん、この家・・・、たまにあんな音するよね。なんでかなあ?」
「あー、あれはやなりだよ。」
「やなり?」
「そう、やなり。古い家になると屋根裏に手のひらくらいの小鬼が住み着くのさ。」
「おにぃぃい?!ほんと?やばっ、大丈夫?」
「あっはっはっはっはー、大丈夫大丈夫!ちょっとイタズラ好きなだけでかわいいもんだよ。」
「かわいいって、おばあちゃんは見たことあるの?」
「ああ、あるよ。子供の頃にね。歳を重ねるうちにいつのまにか見えなくなるんだけどねえ。」
「イタズラってなにをするの?」
「ほら、ここに置いておいたえんぴつが朝になったら無くなってたり、避けたはずなのに足の小指をぶつけたり、後で食べようとしていたお菓子が減っていたりすることあるだろ?ありゃだいたいやなりの仕業さ。」
「へー、怖いけど見てみたい!ねえおばあちゃん、そいつ見つけたら捕まえてもいい?」
「あっはっはっはっはー、あんたほんとおもしろいねー」
ミシミシミシ、ギシギシギシ
私は毎日の日課のようにおばあちゃんと話しました。お母さんの昔のことは、だいたいおばあちゃんから聞きました。お母さんが小学生だった頃の事、いじめにあったと知ったおばあちゃんが、学校に乗り込んで行ったこと。いじめにあって以来空手を習い始めたこと。お母さんに殴られた男の子の家におばあちゃんが謝りに行ったこと。若い頃ちょっとだけ、テレビや映画に出ていたことまでなんでも。
「ただいまー、ねぇおばあちゃん、今日はハルトとザリガニとりにいったよ!」
「あれ、今日はみくちゃんとさきちゃんと遊ぶんじゃなかった?」
「そうだったけど、どーしてもザリガニとりたかったから。朝学校に行く途中でものすごく大きなザリガニを見つけたんだよ。」
「大丈夫かい、もう何日もそんなふうに断ってて。」
「大丈夫!私はその時やりたいことをやりたいの!だってしたくもないことをするのって全然楽しくないもん!それにミクやサキとお人形で遊ぶのは嫌いじゃないけど、お人形はパンチやキックはしないよって言うんだもん。」
「はー、・・あんたは本当に真っ直ぐな子だね。ちょっと心配だよ!」
おばあちゃんは、わたしのことを真っ直ぐな子だね、ちょっと心配だよ。とよく言ってました。
「真っ直ぐな子だとなんで心配なの?」
と聞くと、
「素直に真っ直ぐ生きることはとても大切なことなんだけどね、まわりが見えなくなっちゃうのはいけないねえ。まわりをみるってことは、まわりを思いやるってことなんだよ。つまり思いやりが欠けてるってことなんだよ。」
その時はあまりピンときませんでした。自分がやりたい事をすると、思いやりがないってなんかおかしいもの。
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