第9話 龍人はレアキャラ
国の中に入ると、そこは武装した人達で賑わっていて、獣人の他にもいろいろな種族が居たが、人間だけ見かけない。しかし、僕はそんな事よりも気になる事があった。
……女の人は? あ、あれ? エルフの……いや、あれは男だ。じゃあ、あの人……も男だ。
「(女の人がいない。なんで?)」
僕は父さんの毛を引っ張り、父さんに訊いてみると、父さんは僕をジッと見た後、またベチャと鼻を額にくっつけてきた。
『神のような事を言うな。この世界にオンナという種族は居ない。その存在を知ってるのは、他の世界を知っている神とジンのみ。他の者には言うな』
ひぇ……う、嘘。まさかの女の人が居ない!?
父さんは、僕がコクコクと頷いて、絶対に言わない、と訴えると、ペロンと顔を舐められ、尻尾で背中をポフポフとされる。
ジンっていうのが、いまだになんなのか分からないんだけど、取り敢えず神様達しか知らない知識が、少しでもあるっていうのは駄目だよね。うん、うん、ここは大人しくしておこう。
***************
~side妖獣~
「妖獣様だ……」
「本当だったんだな」
「それにしても、妖獣様に乗るなんて……あのちびっ子……ッ」
そんな話し声が聞こえてきてしまい、私は周りを威圧した。それはシリウスも同じだったようで、周りの者達を威圧していたが、雨瑠には聞こえていなかったようで、私の毛を引っ張り"オンナ"が居ない、などと言ってきた。
それがなんなのか私には分からないが、雨瑠の指文字を周りの者が理解できるようになった時、雨瑠が変な事を言えば、本格的に神かジンだと思われる。せめてジン達の花嫁になってからにしてくれ。どうせ雨瑠が抵抗しようが、絶対に雨瑠は花嫁にされる。主の場合は、私が育てている時点で興味をそそられるだろうが、一番は雨瑠の魔力だろう。水のように綺麗で、こんなに少ない魔力でも、私がすんなり干渉できるくらいだ。澄んだ魔力は染めたくなる。ジンだろうと、染めたくなる筈だ。
そんな事を考えながら、雨瑠の顔を舐め、尻尾で背中を撫でてやれば、周りの煩わしい獣人の声がなくなり、代わりに大人しく見ていた竜人やエルフが、静かに口を開いた。
「龍神様? 龍だ……龍の子供だ」
「まさか、新たなジンか?」
「あの美しい色の尾は、水神様との子か?」
「綺麗な尾だ……顔は隠されているようだが、きっと美しいのだろう」
「さっきまで、どっかの獣人が、あの子を悪く言ってなかったか?」
私の尻尾で撫でたのが良くなかったか。雨瑠のコートが捲れてしまったな。仕方ない……いずれ知られる事だ。龍神と水神の子ではないと、そのうち気づくだろう。
「雨瑠、綺麗な尻尾が見えてしまってる。直してあげよう」
「(本当だ、ありがとう。父様、尻尾見えても大丈夫だった?)」
『尻尾が見えても大丈夫だったかと言っている』
「大丈夫だよ。すぐに知られる事だからな。今日は混乱させない為に、隠してもらってただけだから」
シリウスがそう言って雨瑠の頭を撫でれば、フード越しでもツノの形が分かり、完全に龍だと気づいた者達は、喜びのあまり騒ぎだそうとしたが、シリウスの部下達が駆けつけ、騒ぎだす前に止められた。
『お前の部下達は知っているのか』
「いいえ、伝えたのは先程喋っていた犬獣人だけです」
『あの部下達は兵士なのか?』
「兵士ではないですね。私が騎士団にいた頃の部下達で、騎士団を辞めてまで私について来てくれました。今はシェスティア家の騎士として、全員雇っています。皆、それなりには戦えますよ」
それなり……謙遜しているようだが、獣人としてはトップクラスの者達だろ。
「キュキュンッ!(気にしなくていい!)」
私達が話していると、突然ホオヅキの声が聞こえ、振り返ってみれば、雨瑠が龍人が居ない事を気にしていた。
「(でも僕だけ違うと、父さんと父様が変な目で見られるかもしれない)」
「キュキュキュキュン!(そんな事ない!)」
ホオヅキでは、雨瑠の変な方向に向かった考え方は変えられないか。ならば……
シリウスに状況の説明と、雨瑠の一人で考える癖を話すと、シリウスは雨瑠を抱き上げた。
「ウルは私達が変な目で見られると思っているのかい?」
それに対して雨瑠がコクリと頷けば、シリウスは雨瑠に気づかれぬようプルプルと手に力を入れ、必死で悶えるのを抑えていた。涙目で頷く雨瑠が可愛すぎたのだろう。
「後から教えようと思ったけど、今教えようか……ウル、龍というのは創造神と同じで、今まで一度も龍人が生まれた事がないんだ。それに、ウルの黄金の瞳は、その龍神様の子であるジン達と同じものなんだ。ジンは妖獣様の主でもあるけど……まあ、その辺は後から説明しよう。取り敢えず、龍人であるウルが歓迎される事はあっても、ウルや私達を変な目で見る者は居ないから、安心していい」
「(本当に?)」
「ワフッ(本当だ)」
「(良かった……僕、嫌われない?)」
「ワフッ、ワフッ(大丈夫だ。安心しろ)」
そこで漸く雨瑠は安心したのか、私の背に戻り抱きつくようにうつ伏せになると、顔をスリスリとして深呼吸をし、そのまま昼寝に入ってしまった。
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