レプリカント

@09THIS

第1話

 プロローグ メランコリア

 僕はぼやける視界の中、手に人の体温を感じながらひたすら前に駆けた。後ろから銃声が聴こえてくる。

 なぜこんなことになったのか、混乱する意識の中で回想した。

 

「えーシャングリラは我々人類が最大多数の最大幸福を得る為に設計されている。理想郷シャングリラを創った方は誰かシュヴァルツ分かるか?」

「……エドワード様です」シュヴァルツは小鳥が鳴いたかの様なか細い声で答えた。

「正解、偉大なるエドワード様は第四次世界大戦後の荒廃した世界の中、理想郷シャングリラを創ったんだ」と先生は目を輝かせて教室の壁に立て掛けてある創始者の肖像画に目を向けた。その後、生徒達に真剣な眼差しを向け

「エドワード様は偉大な方だということを忘れないように」と先生は静かに言った。

 その後、授業の終わりを告げるベルが鳴り、生徒達は一斉に立ち上がり一礼をした。

「本日の授業はここまで、次回はエドワード様がシャングリラを創った過程を解説する。必ず予習しなさい」と先生は厳しい表情を生徒達に向けた後、教室から出ていった。


 「おいシュヴァルツ、放課後俺のとこに来い!」

リーはそう言い、素早く僕の本を取り上げた。

 「…………いやだ」僕は怒りを露わにし、リーを睨んだ。

「あん?俺が来いと言うんだから来るんだよ!!」

獅子が獲物を襲うかの様な形相を僕に向けながら、手に持っていた本を勢いよく床に叩きつけた。

「はあ……」僕は深くため息を吐きながら本を拾い丁寧に埃を払った後、憂鬱な気分を紛らわすために本の世界に戻っていった。

 講義資料や課題が一括管理されている情報端末の電源を切り、文庫本と一緒に鞄に入れた。そして、放課後の教室の喧騒を後に廊下を歩いていると、側面に気配を感じた。嫌な予感がした直後、横腹に鋭い痛みが走り息が詰まった。腹を抱え横を見ると、そこに怒気を帯びたリーがいた。

「まさか俺の約束忘れてないよな〜」拳を解き、僕の肩を荒っぽく叩いた。

「……忘れてないよ」と僕は答え、廊下を歩くリーの背中を追った。


 「お前、FPだろ」廊下で突然リーが言った。

「……そうだよ」


 親は、健康で勉強や運動能力が優れている子供が欲しいというパーフェクトベビー願望がある。だが、旧時代はデザイナーベビーが非合法であったので、生まれてくる子供をパーフェクトベビーにすることができなかった。しかし、富裕層がデザイナーベビー合法化運動を始め、世界中に広がった。

 この運動を受け世界中の政府は、デザイナーベビーを合法化にせざるを得なかった。

 その後、富裕層を中心にデザイナーベビーが普及したが、デザイナーベビーの中で、欠陥児が生まれてしまった。欠陥児は二万分の一の確率で生まれ、一部の容姿や能力の点で劣っていた。この子供達が生まれた原因はデザイナーベビーを設計するAIにあるとされている。この子供達はflawed person(欠陥がある人)だから、それぞれの頭文字を合わせてFPと呼ばれ、差別の対象とされた。

「俺達は完璧な人間だからお前は劣等人種なんだよぉ」

「……」

「だから俺に尽くすのは当たり前ぇ、財布出せ」

リーは僕の鞄を奪い財布を強奪すると、五千ゼニー札を盗り財布と鞄を投げ捨てた。

「…………」

黙ったまま僕は鞄と財布を拾い上げ、リーをあとにガラス張りの廊下を走った。すると、白色の卵型浮遊移動体が幾つも整列しているステーションに着いた。しばらく歩いた後、その移動体の一つに学生証を当てた。すると、移動体から「学籍番号VC5296シュヴァルツ様、地上まで快適な空の旅をお楽しみ下さい」と穏やかな女性の声でアナウンスされた。

 疲れ果てた体を移動体の椅子に預け、天井窓に目を向けると、雲まで伸びる超高層ビル《アルカディア》の上層部に僕が所属してる巨大なドーナツ型の学校が浮かんでいるのが見えた。

 アルカディアの一階、大広間についた。大広間の中心には理想郷シャングリラの全エネルギーを担う柱の様な紅いエネルギー体が見えた。このエネルギー体は成層圏まで天を貫いており、触れたものを蒸発させる能力を有している。その為、厳重な警備体制が敷かれており、警備型ロボットが立ち入るものがいないか赤眼を鋭く光らせ警戒している。

大広間は歩くには骨が折れるほど広いため、瞬間移動装置が至る所に配置されている。その装置を利用することで直ぐに外に移動することが可能だ。

僕は最寄りの瞬間移動装置まで移動し、外に出た。その後、黒のフルフェイスのヘルメットを頭に被り、ポケットからカウンターのような物を取り出して、ボタンを押して道路に投げるとそこに漆黒の豹の様な荒々しいフォルムをもつバイクが現れた。

バイクに跨がり、少しスロットルを回しながらセルモーターのスイッチを押すとドルルルッとエンジン音がした。その後、スロットルを思い切り回し、爆音を響かせ電光石火のような疾さでアスファルトを駆けた。

理想郷シャングリラは地球温暖化や二つの世界大戦を生き延びた人類が荒廃した世界を再生しようとした複合都市である。

この複合都市は旧時代のソ連ほどの土地を有しており、反重力エネルギーを利用して宙に浮かんでいる。しかし、地表は捨てることができても格差は無くすことはできてない為、大半の貧しい者達は未だに地表で生活を営んでいる。また、貧しい者達はアルム《Arm》と呼ばれており、シャングリラS民とArmはお互いに忌み嫌っているため接触することがない。シャングリラ世界政府SWGは、Arm接触禁止令を発令し、特別な許可が下りない限り地表に降りることができない様にしている。その為、シャングリラの構造上どの移動体を利用しても地表に降りることができない。

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