14日目: 引っ越しも何とか終わりがみえ・・・ない

 前回慌ててコンビニを飛び出してから、数分後。

 「ボク」は今、不動産やの中で入居手続きの書類を書いている。

 現在9時半を回ろうかというところ。

 不動産屋のおねぇさんに聞いたところ、新住はここから20分程度の距離らしい。

 引越屋がくると約束した10時には、、、ちょぉっと間に合わないんじゃないか?

 マジでヤバイ。早くしろ早くしろ早くしろ!と心の中で何度も念じているのだが、そんなことを知る由もないおねぇさんは、

 『 えーと、ただいま担当は少し席を外しておりまして、、、もう少々お待ちいただけますか?』

 と来たものだ。笑顔で心の中の焦燥を悟られないように必死にこらえながら、

 『 あーえーと、少々急いでおりまして、、、一応9時半にお伺いするとお約束していたはずのなのですが、、、』

 といってみる。まぁ、実際は、

 『 引越し屋さんの都合で、10時には新居に居なければならないそうなので、鍵だけでももらえませんか?』

 『 いやぁ、うちも契約前の段階で鍵は渡せないので…』

 『 じゃぁ、契約書送ってくださいよ』

 『 いや、色々とご説明しなければならないこともありますので、一度事務所の方で契約書のサインを頂きがてら、お時間を頂きたく、、、』

 『 じゃぁ、開店と同時に行きますので、何時か教えてください!』

 『 いやぁ、流石にそれだとこちらの準備も整っていませんので、10分ほどお時間いただければ、、、』

 『 わかりました、ではそのくらいの時間にお伺いします!』

 何てやり取りをしていたのだから、正直「ボク」が遅刻しているのは事実ではあるのだが。。。だが、まぁ、そこは振れないお約束。これぞカスタマーハラスメントというやつである。

 でもさ、遅れている事実はあれども、遅れた分だけ準備が進んでてもよくない?そう思う「ボク」のイライラを感じ取ったのか、おねぇさんが、

 『 でしたら、まずは先に契約内容について説明させて頂きますね。』

 と、一般事項的な説明を始めてくれる。のんびりと。

 あのさぁ、そんな一言一句読み上げる必要あります?ってくらい、正確に読み上げられるそれをただただ聞きながら、顔は笑顔でうなずき、心は阿修羅で話を聞いている。

 そして、その最中にようやっと担当が到着。

 『 いやーお待たせしてすみませんでした。ただいま、少し別件が入っておりまして。改めまして、私、○○です。』

 『 …あー、はい、よろしくお願いいたします。それで、すみませんが、急ぎ引き渡しを頂きたいので、早速契約手続きの方へ…』

 といった「ボク」だったが、

 『 あーいやすみませんが、契約担当は別になりますので。引き続き、こちらの△△(受付のおねぇさん)から一般事項の説明をさせて頂き、問題なければご契約、という流れになりますので。』

 といって、さっさといなくなる。

 え?担当とは?ってか、おねぇさんで良いなら、最初っから進めろよ!なんだよ最初の無駄な問答は?で、なんでお前出てきたんだよ?もういや、ほんっっといや、この無駄なたらいまわし感!こちとらいそいでいるんだよ!どうせこちとらサインして鍵貰わなければ、今日から家なき子という弱者なのだから、いい加減サインさせてくれ!

 などと考えていると、ようやっと説明が終わるらしい。

 『 ~の内容で問題なければこちらの書類にサインを・・・』

 と、おねぇさんが言い終わるか終わらないかのうちに、書類をひったくるようにして受け取り、マッハの速度でサインと捺印を済ませる。

もうホントどうでもいいから早くしてくれ!

 だが、書類はそこで終わらず、保険だのなんだのと、似たようなやり取りをその後書面3枚分もしただろうか?

 『 では、これにて契約はすべて完了となります。担当から鍵をお渡ししますので少々お待ちください。』

 とにこやかに去っていくおねぇさん。

 、、、って、まだ待つんかい!いや、ってか担当もういらんよ!おねぇさんで良いよ!っていうか、良く分からんのっぽのおっさんより、おねぇさんの方がまだいいよ!いや、そんなんもうどうでもいいから、まず鍵くれよ!

 と終始ツッコミを入れたくなる運びで、契約はなんとか完了となったのだった。

それから二分後くらいだろうか、奥から大儀そうに鍵を持ちやってきた担当から鍵を受け取った「ボク」は、挨拶もそこそこに一路新居へと出発するのだった。


 ナビに従い、知らぬ道を走る。正直、どこをどう走ったか記憶も定かではない。

だが、何とか新居にたどりついたのは10時10分を少し回った頃。もう完全に遅刻である。

 頑張った、「ボク」は本当に頑張った。だから責められるのはお門違いなんだ。

なんて自分を慰めながら、良く分からん工場の脇を抜け、左右を人家に囲まれた車一台分しか通れないような砂利道を抜けると、眼前にどうやら新居らしい建物の駐車場が見えてきた。トラックが来ている感じはない。

 ふぅ、間に合った。。。


 ・・・


 ・・・


 ここで、安堵と共に、言い知れぬ怒りがこみ上げてくる。

 っていうか引越し屋さんよぅ、時間厳守って言ったのオタクじゃなかったっけ?あ゛ぁん?人にはよう、やれ、トラックの時間はずらせないだの、間に合わなかった場合保管料が必要になるだの、後ろが使えているからびた一文動かせないだの、散々脅してくれておいて、結果時間に来てないってどぉいうことなんですかねぇ?もう、どうなってんだよ、全く。

 そんな一通りの怒りを駐車した車内で、

 『 あ゛ー、もうっ、ほんっっっと、あ゛――――――』

 とハンドルをげしげしやりながら発散した「ボク」は、気持ちを切り替えて、車から降り、新居の鍵をあけ放つ。

 新居は当然がらんとしており、人の気配はない。

 人一人分くらいの小さい片側開きドアを潜り、膝高で少し高めの玄関のたたきを上ると、これまた猫の額くらいの小さな土間があった。入ってすぐ左手はトイレ、その奥に洗面所と風呂、正面は10畳くらいの広い台所となっていた。台所の横にそれと同じ、洋間が一つと右手側にも小さな洋間、その洋間の左手に同じく小さな洋間がある3LDKというのだろうか?の作りになっている新居。カーテンも何もないので、南に面するであろう小洋間二つに降り注ぐ、日光が痛い。

 そんな間取りの確認を終え、広めの台所の流しにふと目をやると、ライフラインの契約関係の書類が置いてあった。まだ時間はありそうだったので、まずは電気、水、ガスの契約を済ませることにする。ほうぼう電話をかけまくった結果、ライフラインが正常に機能するのは午後かららしい。

 ってか、早っ。ここまで散々に待たされている「ボク」としては、これだよこれ、求めていたのはこのスピード感だよ!と思い、若干機嫌もよくなる。

 そんなこんなで、20分くらいは経ったろうか、ようやっと引越のトラックがやってきた。

 『 いやーお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。道が少し入り組んでいて、なかなかトラックが入れなかったもので。』

 とは、引越し業者談。

 いや、「ボク」が10分遅れて到着した時にはそんなトラックいませんでしたけど?とは言わず、

 『 そうですか、お疲れさまでした。』

 とだけ言う。「ボク」って、大人だね!

 『 それでは早速積み下ろしをさせて頂きますので、ご指示をお願いしますね。』

 といわれて、はたと気が付く。そう、「ボク」は大失敗をしてしまっていたのだ。何がって?それはまぁ、どの箱に何が入っているのか、書いていなかったのだよ。だから、どこに運べば?といわれても、そんなこと「ボク」にもわからない。

 一応書いているものもあるんだけど、結構やっつけで入れている物も多いので、正直ブラックボックス化してしまっている。なので、

 『 この箱はどこに運びましょうか?』

 と聞かれても、

 『 ここら辺?』

 と、疑問形でしか返せない始末。

 結果、収納という収納は全てよくわからない段ボールでうまり、入りきらなかったものは全て、台所の続きの大部屋にうずたかく積まれることとなった。もう、あれだね、この部屋は物置だったんだよ、うん。

 まぁ、でも、ベッドだとか大きい家電家具類はある程度の場所においてもらえたわけだから、これで当面生活はなんとかなりそうな感じにはなったので、結果オーライとしよう!ただまぁ、残念ながら、当分は実家暮らしすることにしたのだが(笑)。


 引っ越し屋さんが去ってからも、ボクの仕事は続く。

 続くんだが、まずはこの空腹を何とかせにゃならん。

 なんだかんだで、時刻は昼近く。ライフラインも食材もまだなため、ネットで探した近くのラーメン屋に行くことにする。結果は、まぁ、可もなく不可もなく。というか、ネットで有名なところは既に行列ができており、諦めて手近で並んでいないところをチョイスしたのだから、仕方がないだろう。行列店はまた後日行くとして。

で、お腹も膨れたし、まずはテレビの復旧から手を付ける。生きていくうえで、最低限娯楽だけは完備しなくては(←違う)。まぁ、これは難なくこなすことができ、その後順にPS4、PCと「ボク」のライフラインに直結するものたちのスタンバイも完了していく(←絶対順番違う)。それらはまぁ、勝手知ったるなんとやら、な訳で始めてから一時間も経たないうちに、「ボク」の生活基盤整いを見せたのだった(←日本語の意味を考えようって?いや、生活基盤の最上位は娯楽でしょ?)。

そして次に、本当のライフに繋がる台所に手をかける。

が、これが恐ろしく大変だった。

 食器はある程度分別できていたのだが、問題は調理器具。入るところに入るように入れていたため、てんでばらばら。当然探すのが一苦労。その上、該当しそうな段ボールは重量があるものが多かったため、一つ運んでは倒れ、開けては目的物ではないことに絶望し、また運ぶの繰り返し。そらぁ、気が付けば夕方になっているよね。本当に最近こんなんばっかりだ。だからな、「史たん」よ、まだ歩けてすらいない君にはまだわからないだろうが、「ボク」からの格言を一つ!腰は大事に!これ絶対!

 とまぁ、そんな現実逃避を挟みつつも、何とか台所が形になってきたのは17時になろうかという頃。春ではあるが、3月の終わりではまだこの時間になると夜の色合いが強くなってくる。

 周りが薄暗くなり始めて、はたと気がつく。

 あ、やべぇ、照明がねぇ!と。

 そこで慌てて、照明機材のセッティングをして、真っ暗になる前になんとか、事なきを得た。

 いやー最近の物件は電球の一つも残していってはくれないんだねぇ。危なかった。急速に迫る暗闇は潜在的な恐怖を感じるよね。

 そんな訳で、やっと人心地つける状況となった。

 あーもう一日終わりでいいや。

 このまま、ベッドにダイブしてしまいたくなる気持ちを押して、戸締りをして、今度は「ボク」の実家に向かわねばならない。何せ、今夜のお宿はここではないから。ここから、実家までは40分。それを思うと、哲也の疲れも相まってか、思わずソファに座り込んでしまう。

 と、そのタイミングで、スマホが鳴動し始める。

 こんなベストなタイミングは多分「おかたん」だろう。ホント、監視カメラ付いているのかってくらいベストなタイミングで来る電話である。そうでないことの方が多いが。

 受話ボタンを押して、直ぐに誰何する「ボク」

 『 誰~?』

 と、それに対して、

 『 「おかたん」です。』

 との返答。意地悪な「ボク」は

 『 あ、知らない人だ~じゃぁ、切るね~』

 と適当に返す。

 『 いやいや、知ってるだろ~あなたの奥さんですよ~』

 と、そんなほのぼのトークをすること暫し。ここまではいつもと変わらぬ会話だった。だが、次の瞬間、「おかたん」の口調が変わる。

 『 そんなことよりも、聞いて!あのね、「ふみたん」が大変なの!』

 え?大変?大変なのは「ボク」もですよ~眠いし腰痛いし。人生で今が一番大変なフィジカルではないかと思うのですよ~そんなでも、「ボク」は一人で引っ越し頑張っているのです。偉いのですよ?それに引越しでお金もいっぱい取られて、メンタル的にも大変だし。、もうどこを向いても大変なのですよ?大変大変ってみんな簡単に言うけど、本当に大変なのは誰だ???って話ですよ、

 なんて、愚痴を交えたウィットなジョークを飛ばそうと思っていたのもの束の間。続く言葉に本当に言葉を失うことになる。曰く、

 『 「史たん」インフルエンザにかかっちゃった。』


 「史たん」と「おかたん」がやってくるまであと3日。

 果たして、「ボク」は引越しをやりきれるだろうか?

 そして、「史たん」の運命やいかに?

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