第7話 弱音

朝からのバタバタはいつもの事。


子供を送り出したら、急いで職場に出かける。

職場はこの都市の中心部にあった。

ナミコは結婚していた時にはかまわなかった

自分を取り戻していた。

高い物ではないけど、メイクをして自分の好きなデニムを履いてシャツの胸元を開けて

袖をわざと雑に捲し上げる。


地下鉄でも、男性の視線を感じるようになった。

久しぶりだわ。この感覚。

ナミコは若い頃から容姿を褒められる事が多く

男性に声をかけられるなんて日常だった。


結婚して子育てとパートの仕事で、何だか自分らしく無い気がしていたけど、今は誰に遠慮もいらない。

ふふふ、まだまだ魅力ありそうね。

年齢を言うとみんなが真剣に驚くのも

自尊心がくすぐられた。


バカみたいな事を考えながら、仕事に入れば子供の事もすっかり忘れて、のめり込んでいた。


その日も急変した利用者さんがいて、その

対応の悪さにイラつきを感じながら

帰途に着いた。


「疲れた、、。」

思わず、そんな弱音が口から漏れ出した。

明日も明後日もこんな風に、毎日が

過ぎていくだけなんだろうか?


再婚なんて考えられない。

子供達の事を考えたら絶対に嫌。

でも、少し弱音を吐きたい、そんな気持ちになった。


つい、先生へメールしてみたくなった。


(お忙しいところすいません。

実は私、看護師なんです。今日、患者さんが

急変して落ち込んでいます。

もっと早く対応できなかったのかと、、。)


メールを送信してから後悔が襲って来た。

こんな事をよく知りもしない人に

話すなんて、恥ずかしい。

何だか、落ち込んできた時、メールが

返信されてきた。


(看護師さんだったんだね。僕も研修医の頃からしばらくは市民病院の口腔外科にいたんだよ。

貴方の気持ち、良くわかるよ。仕方ない事なんだけど、責任を感じるんだよね。)


ナミコは胸が熱くなった。

涙が出た。

弱音を吐けないたちのナミコにとって

それは安全基地を見つけたような気がした。


それからは、メールでその日会った嬉しい事も辛かった事も話すようになっていった。


いつのまにかメールがナミコの支えになったのだった。


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