風紀委員長のふとした横顔

風紀委員長のふとした横顔

作者 御厨カイト

https://kakuyomu.jp/works/16817330661487371520


 やりたくてやっているわけではないといって校則検査をする風紀委員長の鷹宮楓の耳に赤いピアスを見つけてときめいた俺の話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあけるは気にしない。

 恋に落ちるふとした瞬間を丁寧に描いたような作品。

 高校生の何気ない日々を上手く描いているところが良い。


 主人公は、男子高校二年生。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプに沿って書かれている。

 とある夏の登校時。校則検査の日、服装の乱れやスマホを手に持っている生徒に対して、主人公のクラスメイトの鷹宮楓が怒鳴り声を上げているのは風紀委員長だから。

 教室に入り自分お席に座ると、友人の蓮が検査に引っかかってスマホを没収されたと話しかけてくる。絶対に逃さない意思は、校則破ったことのない主人公にも伝わったといえば、ちょいちょいマウント取ってくるのやめろよといわれ、軽く笑ってごめんと返す。

 蓮は仁王像、主人公は鬼に喩えてはなしていると、「誰が仁王像ですって?」鷹宮楓が自分の席だといって現れる。蓮は去っていき、「君もだよ! 私の事を鬼だとかなんとか言ってたみたいだけど」といわれたのでちゃんと謝る。

 ため息を付いて、好きで仕事しているわけじゃない、選挙で選ばれただけと割り切っている、やるからにはちゃんとやらないとと答える彼女。意外と思い、本当かなとも思うが、「別にこんな所で嘘ついたってしょうがないでしょ」といわれる。

 エアコンのない教室の授業。窓を開けていいかと聞く生徒に教師が許可してあけると風が舞い込みプリントが飛ば荒れる。床に落ちて拾うとき、彼女の耳に赤いピアスがついているのを見た気がした。本人に見たか聞かれ、見たと答えると主人公の口元に「しーっ」と人差し指を当ててくる。その指を今度は自分の口元へと持っていき、「だから言ったでしょ。私だって好きでこの仕事をしてる訳じゃないって」にこり微笑む。脳裏に焼き付く美しく清楚な彼女の横顔にチリンと揺れる、赤い涙のような形のピアス。彼女の魅力に、耳まで響く大きな鼓動は鳴り止むことはなかった。


 風紀委員長の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎とが関わり合いながら、ドキッと瞬間を描いているところに魅了される。

 書き出しからは、季節はいつで、どんな感じなのか、主人公は誰で、何をして、どのように、どうしたのかを伝えては校則検査の日の朝の登校風景を、主人公目線で客観的に説明されていく。

 導入の客観的な状況説明を経て、本編である主人公の主観へと入っていく。


 主人公と友人の他愛もない会話が面白い。

 男子高校生の会話らしくて、現実味を感じられる。

「……お前、仁王像ならもう一人必要になるぞ」のツッコミがよかった。また古事記ネタも。主人公は勉強もできて校則違反もしない、真面目な性格なことが伺える。

 そういうところに、風紀委員長の彼女も惹かれたのかもしれない。


 主人公がみた風紀委員長の描写が面白い。

「サラサラと流水のように綺麗な黒髪にくりっとした目、整った鼻筋という綺麗で可愛い見た目も相まってか迫力が増して、さながら鬼のように感じてるのは俺だけでは無いはず」

 きれいな顔をしている子が強い口調で注意する、差を描くことでより彼女の魅力を強調している。

 そのあと、「ふと目があった気がした」とある。

 仕事で生徒たちを見ているのだから、目が合うこともあるかもしれない。けれども、後半以降の彼女のやり取りを見ると、彼女は主人公に対して、なんとなく好意的にみているのが伺える。


 そもそも、「彼女は俺の口元に『しーっ』と人差し指を当ててくる。そして、その指を今度は自分の口元へと持って行く」ことをしている。

 普通、しーっと人差し指を持っていくときは、自分の口元にする。

 だけど彼女は主人公の口元へ、そのあと自分の口元へ持って行っている。

 簡単に言えば、間接キス的な行為である。

 母親が子供を黙らせるときの仕草を連想させられもするけれども、ここは、彼女が主人公のことが好きな気持ちの現われだと取りたい。


 風紀委員長だから仕事と割り切っているけれども、青春真っ盛りの女子高生の一人には変わらない。

 お洒落もしたい、可愛く見せたい、恋もしたい。

 彼女の本音が、髪で隠されている向こうにある耳の赤いピアスなのだ。

「美しく清楚な彼女の横顔にチリンと揺れる、赤い涙のような形のピアス」

 チリンと揺れるという表現が素敵。

 小さな鈴がなるように、ついていることをピアスが主張しているのだ。

 赤い涙のようとあり、血を連想させられる。血は体内に流れていて、表には現れない。心と同じである。

 だから、このピアスに、鬼や仁王様といわれ、周囲からは煙たがられる風紀委員長をしている彼女の気持ちが潜んでいるのだ。

 彼女の本音に気づいたから、主人公自身の気持ちにも築いたので、「耳まで響く鼓動は当分鳴り止むことは無かった」のだ。


 読後、タイトルを見ながら、きっと主人公だけが彼女の本当の素顔に気づけたのだろう。席が近くだからもあるけれども、だからこそお互いに意識して見ていたにちがいない。

 だから彼女の視線や横顔、ピアスにも気づけたのだ。

 ひょっとすると、彼女も自分のことに気づいてくれるかなと期待しつつ日々の高校生活を過ごしていたのかもしれない。




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