読み終えて

 参加された高校生のみなさんお疲れ様です。

 受賞されたみなさん、おめでとうございます。

 活字が読めなくなったことをきっかけに、荒療治として読んでは感想を書いてきました。おかげさまで、今年はもう読めるようになっていましたので、補助的に音声読み上げソフトを活用しながら、やる気に満ちた高校生のみなさんの作品を、楽しんで味わおうと読んできました。


 二〇二三年の今年のカクヨム甲子園の応募総数二千二作品の内、第一次選考を通過した中間選考作品は、ショートとロングあわせて二百七作品(うち、ロングストーリーは七十九作品。ショートストーリーは百二十八作品)。

 最終選考作品に残ったのは、二十九作品。(ロングストーリーは十五作品。ショートストーリーは十四作品)から、受賞作品が発表されました。

 私は、応募作品の六分の一くらい、三百二十三作品を読んで感想を書かせてもらいました。

 昨年は二百四十一作品を読んでは感想を書き、大変な思いをした記憶があります。今年はそれを上回るほど、心身ともに苦しい思いをしました。発表に間に合いましたし、みなさんとともに発表を待つことが出来たことを嬉しく思います。


 一般的に、一次選考は応募作品の一割ほどに絞ります。

 応募規定どおり字数は守られているか。

 レーベルにあった作品が応募されているか。

 カテゴリーエラーがないか。

 流行りの中にあって目新しいものはあるか。

 タイトルは格好良く、面白いか。

 冒頭は面白いところからはじまっているか。

 終わりは盛り上がっているか。

 文法は正しいか、読みにくくないか。

 作者のエゴが強すぎないか、強すぎると落とされるなどなど。

 カクヨム甲子園なら、「完結済み」にするも含まれるでしょう。

 中間選考作品に選ばれなかった人は、小説の出来が悪かった人もいるかも知れませんが、文章の出来がよかったとしても、求められている条件に何かが足らなかった作品もあったと思います。ほかのレベールの募集なら通る場合もあるでしょう。何が足らなかったのか、見直してみるといいと思います。


 一般的に、短編と長編の長さをお魚で喩えると、短編は魚の切り身。長編は頭から尻尾までまるまる一匹の尾頭付きです。

 カクヨム甲子園の文章量は、一般的にはどちらも短編ですが、ショートストーリーは魚の切り身、ロングストーリーは尾頭付きと当てはめてもいいと思います。

 中間選考作品に選ばれた作品を読むと、ショートはショートの、ロングはロングに合った内容の長さで作品が描かれていました。

 こういうところも、判断基準の一つになっていると思います。 


 昨年は今年よりも応募作品数が多かったにも関わらず、一次選考を通過した中間選考作品の数は二百作に届きませんでした。

 今年の中間選考作品は一割でした。

 そこだけみても、今年のカクヨム甲子園に応募された作品のレベルの高さがわかります。おそらくこれまでで一番、出来のいい作品が応募されていた証拠だと思います。

 一次選考を通過した作品は、商業レベルで見て最低限の出来だということです。中間選考作品に残った作品は、決して出来が悪かったわけではないということです。

 一般的に二次選考以降は、売りやすいか、売りたいと思えるかどうかをみます。

 売れるための何か。

 読者が作品に興味を持つ理由が足りているかどうか。

 時代性や新奇性、キャッチーさはあるか。

 自分が編集なら、売りたいと思える作品かの視点で考えます。

 カクヨム甲子園なら、高校生である今にしか書けないものを求めているでしょうし、いままで読んだことのない作品を欲しているでしょう。

 そんな作品が最終選考作品に選ばれたと思います。

 どんな賞にでもいえるのですが、前年に受賞した作品と似たテイストの作品は、たとえ出来が良かったとしても選ばれません。選ぶ側としても、二年連続似たような作品は選び辛いものです。

 昨年の最終選考にノミネートされた作品と似た作品は、どんなに小説のできが良くても残れないと考えます。

 

 最終選考作品から受賞作を選ぶのは、箔付けです。

 こればかりは、めぐり合わせです。

 自分が書きたいものを書いているのか、なぜそのジャンルが好きなのを突き止め、追求し、どうしてもこれを書きたいとこだわったものが選ばれます。

 一次選考ではエゴが強い作品はよくないですが、最後に残るためには作者のこだわり、好きなものかどうかが大事になります。

 カクヨム甲子園で受賞される作品は、いわゆる尖った作品です。

 他の作品とは何かが違う、そう思えるものが選ばれています。



■ロングストーリー部門

 大賞

『一夏の驚愕』著者・楠 夏目

 現代ドラマ。

 ひと夏の経験を経て、少年がちょっと大人になった感じが描けていたところが、いい作品を読んだなと思えました。なんだか胸がきゅっと締め付けられるような、夏の体験を経て大人になっていくジャンルはあまり書かれていないので、こだわって書かれたところが良かったのだと思います。


 読売新聞社賞

『僕は男の子だけど王子様に愛されたい』著者・雨乃よるる 

 現代ドラマ。LGBT恋愛作品。

 時代性、新奇性を感じられる作品であり、難しいことに挑みながら、繊細さを描いているところが良かったです。ラストを迎えた後、どうなるのかが気になるし、いろいろ考えてしまいます。そういうところがまた、作品の良さでもあると思います。


 AKRacing賞 

『グリッサンド』著者・還リ咲

 現代ドラマ。

 恋愛ではないけれども、恋愛もののような感じが作品に感じます。タイトルにしろ、読みやすさや、情景描写で心理描写を表しているところも本当に良かったです。


 奨励賞 

『春の標に、朧月。』著者・朝霧に唄う。

 時代もの。 

 史実を背景に、世界観をうまく表現されていて、構成など全体的にできが良かったです。

『きっと繋がる』著者・亜里沙

 体験談。

 エッセイだけれども、読み手を意識した小説と同じ構成で書かれており、AYA世代が罹る希少がんの中でも前例の少ない腎臓がんの体験を作者の明るい性格で描かれていたところが良かったと思います。

『破壊衝動』著者・虹鳥

 現代ドラマ。ホラー要素がある。

 時代性があり、現代を生きる人達が抱える閉塞感が描かれているところがよかったです。

『火星と月と万有引力』著者・坂口青

 現代ドラマ。

 人間ドラマがよく書けていて、高校で物理を教えている先生には、こういう人がいるんじゃないかと思わせてくれるほど素晴らしかった。

『生きていてほしかった』著者・夏希纏

 現代ドラマ。

 表現や構成も良かったし、身近にある題材であり、時代性や社会性を感じるところが良かったです。



 ロングストーリー部門をみると、時代性や社会性、現実にある問題といった現代ドラマの作品が選ばれたといえるでしょう。


 全体的にいえるのは、主人公の心情に重きをおいた描き方をしながら、自分が好きなもの、こだわりを貫いたものが受賞した感じです。

 今回は、各選考過程で議論が絶えない、本当に素晴らしい作品ばかりだったといいます。

 それでも受賞できなかったと思う人には、最終選考委員をされた暁佳奈先生の言葉を送ります。

「書いた貴方や、貴方の作品が悪いのではなく、ラブレターが合致しなかったからです。たくさんチャレンジしてください。チャレンジした分だけ、貴方のラブレターを受け取ってくれる人が見つかります」

 今年二年生以下の人は、来年チャレンジしてください。

 三年生だった人は、数多ある賞に応募してください。カクヨム甲子園がすべてではありません。

 受賞された人たちも、さらなる高みを目指してください。

 発想や着想、構成など、今年応募された高校生の皆さんの作品は、過去最高で読み応えのあるものでした。

 至らない点を一つずつ直していって、あなたの好きとこだわりを、受け取ってもらえるよう相手に届けてください。


 作品を読ませていただきまして、ありがとうございました。

 泣いたし、笑ったし、すごいと感服もしました。

 もう少し読む時間があれば、作品をもっと深く読めたと思います。至らない点も多々あったと思いますが、高校生のみなさんの、出来の良い作品をたくさん読めて楽しかったです。

 重ねて、ありがとうございました。

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