欠品デスクヒーロー

欠品デスクヒーロー

作家 Tetotel

https://kakuyomu.jp/works/16817330663153754837


 本気で打ち込んだことがない優希は、FPS『ガンズ』をソロプレイで世界ランキングになるほどの実力者。和夫を助けて右腕が不自由になるも、チーム戦のFPS『バトルボンズ』に和夫と水谷の三人で本気になって打ち込み、大会出場する話。


 誤字脱字などは気にしない。

 現代ドラマ。青春作品。

 時代性や新奇性を感じる。


 主人公は、男子高校一年生の優希。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。シンデレラストーリーの型の、マイナスからスタート→失敗の連続→出会いと学び→小さな成功→大きな成功の流れに準じている。


 男性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 夏。主人公の優希は男子高校一年の部活に入らず、ファーストパーソン・シューティングゲーム、通称FPSの中でも人気の『ガンズ』をソロプレイで世界ランキングに入り込むほどの実力者である。

 銃を相手に狙って打つ単純なゲームで、正確な狙いを定める『エイム』と、戦況を有利に進めるための『立ち回り』が重要になる奥が深いゲームである。

 進路希望調査がでていないと進路指導室に呼び出される。本気で打ち込んだ経験はあるのか聞かれ、あまりないと返事。自分お偏差値に見合う大学を書いて出しなさい、勉強もしろと言われる。

 友達の和夫と帰宅途中、突っ込んできた車から友達をかばって事故にあってしまう。右手は車にひかれ粉砕骨折し、右指が自由に動かせなくなる。

 三カ月ほどのブランクと右手のハンデを背負いながらゲームするも、やりたい動きができず、投げ出してしまう。敵がアクロバティックに動き回る『ガンツ』では戦うことはできない。そんなとき新作FPS『バトルボンズ』先行プレイのお知らせの通知が届く。

「プレイヤーに求められるものはエイムスキルだけでなく戦術と読みあいなどがあり、戦略的な戦闘を味わうことができるでしょう」と書かれており、戦略でもう一度目指せるかもしれないと考える。

 バトルボンズとはタクティカルFPS。三対三で攻撃と防衛に分かれ戦うゲーム。攻撃側がサイトと呼ばれる場所に爆弾を設置、爆破時間まで守り、防衛側は逆に設置されない様に守り、設置されたら敵を倒して解除する流れ。これを十回制したチームが勝利となる。

 主人公がいままでやってきたのは「バトルロワイヤル」。百人がフィールドに降り立ち、一人で戦うゲームだった。

 相手との読み合いがメインであり、バリケードを設置して壁を作ったり、もろくて壊れやすい壁を補強できたり、味方にシールドをつけるなど、適切するだけでもチーム貢献できる。問題があるとすれば戦いに行けないという点。信頼できる仲間を探さなくてはいけなかった。

 翌日、和夫に「俺と一緒に世界を目指してくれ」とゲームの説明をして頼む。FPSの経験がないという彼に、戦略がメインだからある程度の知識で代用できるし、要領がいいからすぐに馴染めるといって、早速練習を始める。

 アプリを使ってゲームをしながら会話できるボイスチャットを利用し、和夫とバトルボンズについて説明する。

 和夫はとても要領がよく、「敵がいるかもしれないところを見ながら協力して阻止し攻撃。逆に防衛側はどこから来るか予測してエイムする」やり方を覚えていった。

 いざ実戦に挑むもまったく勝てない。戦略が大切とはいえ、打ち合いで勝敗が決まる。和夫のパソコンが古いため、動きが鈍くカクついてしまうという。主人公は、パソコンパーツを中古で買い揃えて組み立てる方法なら五万円と値段を押さえることができるし、アドバイスすることを申し出て二週間後、パーツを購入し、手伝いながらも和夫自身でパソコンを組み立てた。くい縦が楽しかったと目をキラキラさせ、早速練習していく。

 足音を消して敵に接近する場面、相手がいそうな場所に照準を置くプリエイム。説明していない部分まで、和夫は完ぺきにこなす。また、敵をはさみうちにする際、主人公の手がぶれてしまい、敵の頭部の狙いがズレて胴体に当たってしまい、逆激を受けてしまった。が、和夫がなれないながらも敵を倒し、初勝利をする。

 十二月。主人公は、腕だとどうしても銃を打つとき照準が難しいため、足を使うことを思いつく。意図した動きにある程度近づいたので、しばらく試すことにする。大会に出るか話す内に、三人目がどうしても必要になった。

 和夫が二組の水谷の名前を上げる。「あいつは確かゲームうまいって噂だし、たしかお前がやってたガンツもうまいんじゃなかったか。あいつならボンズもできるかもしれないぜ」面識がないと答えると、任せろと和夫は胸を叩く。

 あっさりと水谷は承諾。その右手で大丈夫か聞いてくると、「こいつの戦術があれば、腕なんて気にならないぐらいだぜ。なんてったって、足でゲームができるぐらいなんだから」和夫が答える。

 早速試合に出てみると、水谷は圧倒的なエイム力の持ち主で、フリックと呼ばれる高度なテクニックを用いて純粋なフィジカルで勝つプレイスタイルだった。

 まだチーム名を決めていなかったことを指摘されたとき、主人公のプレイヤーネームがデスクヒーローなことから、デスクヒーローズはどうかと水谷が提案する。「相手方もリーダーが誰か分かるし。それにデスクヒーローって前シーズンまでランキング常連で有名だったじゃん」

 有名だったことに驚く主人公。大会に向けて戦闘し、思いつく限りの戦略バリエーションを増やしていった。

 二年生に進級した四月。和夫は理系、主人公は文系。水谷は特別進学クラスに配属されたので同じ文系でも同じクラスではないが、ボンズがきっかけで話すことも多くなった。

 大会の予選はオンラインで行われる。ステージに立つためには、四回予選で勝ち上がる必要がある。初戦は勝つも次のラウンドでは負けてしまう。が、これだけの試合を勝ち抜けた誇りを持つことができた。

 翌日の昼下がり、大会予選の打ち上げを近所のファミレスで行う。

 悔しがる数をを水谷がなだめるも、二人ともいい笑顔だった。

「みんなで努力しながら進むのって悪くないよね。なんかこう全員が一体となって没入する感じかな。あの感覚があったからここまでやってこれたと思うんだ」主人公の言葉に和夫が、「確かにな。俺も優希と初めて本気で何かに打ち込めてなんだかんだ本気で楽しむことができたよ」という。

 手も戦術もエイムもまだまだ欠けている欠品デスクヒーローだが、三人でデスクヒーローなのだ。三人の笑いが共鳴し、このチームをもっと大事にしたいと思うのだった。


 FPSの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が絡み合いながら、直面した問題を乗り越えていきながら努力と友情を深めて、青春を描いていく姿が良かった。

 eスポーツではないけれども、FPSというオンランゲームを題材にし、大会に参加していく展開は、今の時代を描いているようで、現実味を感じられる。


 それぞれの場面、とくにFPSに関することが具体的に描かれているおかげで、打ち込んでいく主人公に感情移入できるところが良い。

 起承転結の流れの中で、季節がいつで、誰が、なにを、どのように、どうしたのかといったことを五感を意識して伝え、主人公の心の声や感情の言葉、表情や声の大きさなども入れて表現されているところは、イマドキの男子高校生の感じがよくわかった。


 和夫を助けるときの描写がすばらしかった。

「迫りくる車体にぶつかろうとしていた和夫の体を右手で力の限り引っ張った。和夫の体が僕を中心に半円を描くように宙を舞い、歩道に投げ飛ばされる。同時に、僕の体は車道側に傾き、自然の摂理にあらがえないまま倒れこんだ」

 この表現は具体的で、目に浮かんでくるよう。

 ゲームプレイの説明よりも、よくわかった。

 リアルとゲームの違いも、こういうところで現されているのかもしれない。


 パソコンを組み立てる際の、パーツの斡旋ができるということは、主人公のパソコンも自分で組み立てたのだろう。知らないところからはじめるのは難しいので、主人公の親もパソコンを組み立てることをしていたのかもしれない。

 

 右腕が不自由になって、「できることと言ったらエレベーターのボタンを押すか、何かを支えることぐらいしかできないだろう」や「手が不自然に脱力していて見ていて不気味なように感じる」ところの具体的な書き方が、生々しさを感じさせられる。

 本当に主人公の腕は思うように動かなくなってしまったんだな、と思える。


 足を使う発想も良かった。

 具体的には、どのように足を使ってプレイしていたのだろう。足の指を使うとあるが、クリック操作を足を用いたのか、それともカーソルキーを動かすのも全部足で行っていたのか。その辺りを想像できる描写があると、もっと良くなったのかもしれない。

 

 主人公は、世界ランキングに入り込むほど人気FPS「ガンズ」をプレイしている。しかも和夫に「おまえ宿題完璧にこなす癖に、俺に成績負けてるんだからな。ゲームはほどほどにして、ちゃんと勉強しろよぉ」と言われ、先生には「おまえ、今まで本気で勉強したこと、いや、本気で何かに打ち込んだ経験はあるか?」といわれてしまっている。

 勉強をしないほどゲームに夢中になっていることは、本気で打ち込んでいることではなかったのかしらん。

 適当にゲームしていたら、世界ランキグンに入り込めるのだろうか。


 好きこそのものの上手なれ、という言葉がある。

 彼は「ガンズ」が好きだから、おもしろかったからプレイしていたと思う。

「ゲームならいまも本気で打ち込んでますよ。なんて言えるわけもないか」とあるが、eスポーツで頑張っている人も世の中にはいることを考慮に入れると、先生にいってもよかったのではと考える。

 考えるけれども、先生がいいたかったのはゲームのことではなく、勉強のことだと主人公もわかっているから、口答えしなかったのだ。


 進学を考えて高校入学しているはずなので、なにしに高校に来たのかと先生は言いたいのだろう。

 水谷が特別進学クラスに二年から入っているので、主人公のいる高校は大学進学に力を入れているのが想像できる。

 だからといって本作は、主人公が勉強に本気で取り組んでいく流れにはならない。

 今回の経験で主人公は、「みんなで努力しながら進むのって悪くない」と持つことができた。けど、勉強は……。 

 和夫は工学部に入ることにし、主人公の手が完璧に動くようなサポートマシンを作りたいと目標を持ち、水谷は特別進学コースの文系を選んで、ちゃんと勉強している。

 チームの二人は勉強との両立ができているので、みんなで努力しながら進むのって悪くない」とわかったのならば、今後は勉強においても、おなじように励んでいってもらいたい。


 読後、不思議なタイトルだったので内容が予測つかなかったけれども、読み終わるとなるほどなと納得できて、いいタイトルだと感じた。みんなと協力して夢中になる姿はいいものである。

 

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