僕の仕事はカウンセラー
僕の仕事はカウンセラー
作者 Re:I-零-
https://kakuyomu.jp/works/16817330660569000575
患者と対話できる人工知能開発のためのデータ採取につかわれていた、暴飲で住み込みで働いていたカウンセラーの話。
SFっぽいホラー。
実験体にされている側の気持ちが、如実に伝わってくる。
主人公はカウンセラー。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。
病院で住み込みながら患者と対話するカウンセラーをしている主人公。患者からの話を聞き、土日はエージェントから「新しい刺激を受けてみないか」といわれて外出許可をもらい、様々なことに挑戦するのは、患者と対話できる人工知能の開発のためのデータを採取するため。
病院に変えるとエージェントは他の男達とともにデータを元に話し合い、面白い形をしたヘルメットを被せて記憶を消去し、様々な体験をさせては、その都度記憶を消去していく。
嫌だ、被りたくないと抵抗すると、「そうか。お前の深層意識の中に蓄えられた記憶が、少しずつ表に出てきているのだな。まぁ良い。いずれお前は役目を終える」といって記憶を消去される。
女の患者さんと博物館へ行き、体が熱くなり、また会いたいと思って電話番号の交換をするも、すでに登録済みだった。
記憶を消された後、患者さんとゲームをし、リセットするのを見てヘルメットを被ると消されるから拒むも、無理やり被せられた。
昨日はなにしていたのかエージェントやびょ員お人に聞いても答えてくれない、なにをしても忘れてしまうことに不安を覚え、カウンセリングの仕事も食べることも外出もしなくなる。一カ月ほどしたある日、「ご苦労だった。お前の用は済んだ」とエージェントに銃を向けられる。死にたかったのに撃たれるのが怖い。
僕は誰で、みんなはなんだったの?
震える中、爆発音が聞こえるのだった。
カウンセラーの仕事の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関わっていくのかが展開されて、最後衝撃的なラストを迎える。
代わり映えのしない日常に、些細な変化が加わりながらくり返されていくことで、主人公が何者なのかが断片的にかつ、少しずつ明らかにされていくことで、わからないことがわかっていき、読者に感動を与えていく書き方は思わず唸ってしまう。
早々とモヤッとしたのは、「住み込みで働いているということ。ちょっと不思議だよね。僕もどうしてなのかはよく分からない」という点。
主人公には、なにかある、と思わせてくれる。
なにかしらの病気を持っていて、治療しながらカウンセラーをしているのかもしれない、と想像できるけれども、この段階でラストの結末を想像するのは難しい。
ちょっとした違和感をはさみながら、物語が進んでいくことで、読み手も少しずつ興味が増していく。
こういう小出しにしつつ、記憶を消しては、似たような日々をくり返すといった、出し惜しみなく書いていくメリハリ感は実にいい。
どんどん、作品に引き込まれていく。
カウンセラーの仕事や、土日に外出許可が出て、どう過ごしたか、そのあとかぶらされるヘルメットなどの場面を、想像できるよう、起承転結で、主人公の心の声やセリフ、感情の言葉などが書いてあることで、状況が伝わってくる。
何かしらの状況説明があってから、主人公の感想が添えられているので、その都度どんなことを思い、考えていたのかが、読み取れるので、読み進めていくほどに入り込めてしまう。
「ある日エージェントさんが『患者さんの中で貴方と友達になりたいと言ってきた人がいる』と話してくれた」とある。
その後、博物館に一緒にもいっている。
そう考えると、この病院は、本当の病院ではなく、主人公からデータを採取するための、エージェント側の研究職員だと想像できる。
人工知能の開発のためのテータ採取だと仮定すると、主人公は、初期型の人工知能の実験体だったのだろう。
データを取り終わったので、お払い箱となり、破棄されたのだ。
読後、試作機やモルモットといったものを使って、様々な製品を開発している現実があることが浮かんでくる。実験体側からみたら、自分はなんだったのかといいたいに違いない。
また、記憶をなくしてしまうと、それまで生きてきた実感まで失ってしまうので、何度もくり返して記憶をなくし、自分が分からなくなれば生きていたくないと思ってしまうのも当然である。
主人公の彼が可哀想に思えた。
読後、タイトルを見ながら、主人公は仕事に誇りを持っていたと思う。その思いまでも消し去ってしまったのは不憫でならない。
データ採取後も、働いていける環境を与えてあげたら良かったのに。
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