めんどくさい彼女に今日も告白する

めんどくさい彼女に今日も告白する

作者 さんどっと。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657189368481


 中学時代いじめにあっていた満島真木は負けないために泣きも謝りも従いもしなかった。高校に入り愛を求めた彼は、中村圭に告白されて付き合うも自分のことが好きなのか知りたくて、浮気しては別れると脅し、無理やり彼女に愛情表現をさせてきたが、彼女から別れを告げらると彼女の存在に気づく。以来、別れては告白し、付き合い、また別れるを繰り返していた。クラスが違うため不安に思っていた彼女がキーホルダーのぬいぐるみに盗聴器を仕掛けていたことを知って尋ねると、嫌いにならないでと彼女が泣きながら謝ってきたとき、酷いことをしてきたのは自分だと泣きながら謝る話。


 誤字脱字、疑問符感嘆符の後はひとマスあける云々は気にしない。

 ちょっとミステリーなところがある。

 歪んだ相手を好きになって恋愛すると、二人の関係もギクシャクしやすいけれど、自分が悪いと気づけたことで仲が深まる展開が良かった。


 主人公は男子高校ニ年の満島真木。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 第六、七、九話は三人称、神視点で書かれた文体。

 前後編になっている。

 描写が少なく会話文が多い。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 中学時代の満島真木は、酷いいじめにあっていたが誰からも見て見ぬふりをされるも人間不信にはならず、かわりに愛を求めた。

 中村圭は真面目で明るく、志望校に合格。入学早々恋をし、一週間後に満島真木に告白して付き合うことになる。しばらくして愛情表現に恥じらいをおぼえ、彼と同じ時間を共有することを優先するも、彼の理解は得られなかった。

 満島真木は中宮圭に愛を求めるも、彼女からの愛情の言葉は減ってしまった。彼女が自分のことが好きなのか知りたくて、浮気しては別れると脅し、無理やり彼女に愛情表現をさせてきた。が、ある日、彼に必要されていないと感じた彼女から別れを告げらる。

 三日後、彼女がいないと意味がなく、自分にとって圭の存在がどれほど大きい物だったのか気づいたため告白した。以来、別れては告白し、付き合い、また別れるを繰り返している。

 一年後。朝のショートホームルームのとき、隣の席の女子が落とした消しゴムを拾ったことで別れたため、「もう一度俺と付き合って下さい」と告白して付き合うこととなるも、別の日に恋愛ゲーム『まちコイ』に登場する中宮によく似た黒髪ポニーテールの子が推していると知られると昼休み、屋上に呼び出されては「これ浮気よね? 許さないから、もう別れましょう。もう嫌い!」と言われてしまう。帰り道、彼女に追いつき、「もうゲームは消したし、俺が一番好きなのは圭だから。付き合ってくれ」といてよりを戻すことになる。

 半年後。彼女から半年前に、小さなくまのぬいぐるみのついたキーホルダーをもらい、気に入って持っている主人公。背中の縫い目がほつれているのを友達に教えられ、家で直すことに。すると、中から盗聴器が出てくる。彼女の言動を思い出し、自分はこれほど愛されていたことに気づく。

 放課後、主人公は彼女を呼び出し盗聴器のことを聞く。嫌いにならないでと泣く彼女を前に、なんと言葉をかけようかと迷っていると「ごめんなさい! クラスが違うと不安で……! 本当にごめんなさい! だから嫌いにならないで!」泣きながら抱きついてくる。

 いじめにあっていた頃、彼らに負けないために泣きも謝りも従いもしなかった。だが、彼女を泣かせ、性格を歪ませ、依存させてしまったことにどうしたらいいのか、なんと言葉をかければいいのかわからなかったが、「俺の方こそ、ごめん」涙する。

 ずっと自分が言いたかった言葉に気づき、「悪いのは全部俺だ。浮気をしたのも俺だし、その上謝りもせず圭を脅した。圭にたくさん辛い思いをさせといて、自分は悪くない振りをしていた。本当にごめん」と強く抱きしめる。

「いいんだよ」という彼女に「もうこんな酷い事は絶対にしない。だから、ずっと一緒にいてくれ。俺には、圭が必要だから」と伝える。彼女ももう別れるなんて言わない、と抱きしめあう二人。

 これまで酷いことをしてきたからなんでも言うことをきくと彼女に言うと、「じゃあ、まずは毎日好きって言うことでしょ? それから、お昼ご飯は絶対真木から呼びに来ること! あとは、一週間に二回はどっちかの家で遊ぶこと、それから、放課後は………………」と止まらなかった。

 半年後。三年になったら一緒にいられる時間が減るからと、彼女と街に着ていた。通り過ぎる女性をみていたと聞かれてみてないと答えた後、クレープ屋に立ち寄る。甘いのが嫌いな主人公はソーセージサラダを注文しようとするも、自分が選ぶといい出した彼女にチョコバナナクリームを注文されてしまう。

 甘いのが嫌いなのを知っているのに何故と聞けば、「いつもは他の女の人の事見てる人にはおしおきが必要かなーって思ってね!」

 次はないからねと渡されたクレープは無性に甘く感じるのだった。

 

 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場のはじまりは、隣席の女子の消しゴムを拾ったことで別れて復縁する満島真木。二場の主人公の目的では、よりを戻した中村圭と昼休み、仲良く一緒にお弁当を食べる。

 二幕三場の最初の課題では、昼休みに屋上へ呼び出されて恋愛ゲーム『まちコイ』の彼女に似ているポニーテールの子を推していると知られて浮気といわれて別れることになったので、ゲームを削除し、一番好きなのは君だと告げ、よりを戻す。

 四場の重い課題では、一年前の満島真木は彼女が自分のことが好きなのか知りたくては浮気し、愛情を確かめていた。が、彼女から別れを告げられて、彼女の存在の大切さに気づいて告白しては別れ、告白をくり返している。

 五場の状況の再整備と転換点では、彼女がくれたキーホルダーのぬいぐるみから盗聴器がでてきたことで、彼女に愛されていることに気づく。

 中学までいじめられていた満島は、誰からも助けられなかった。そんな彼は愛を求め、真面目で明るい中村圭から告白されて付き合うも、愛されていることがわからなくて彼女からの愛情表現を求めては傷つけたことがきっかけで、彼女からの愛に依存しきってしまう。彼に告白された中村は、自分が必要と認めてもらったことで救われるも、更に求めてしまうようになっていた。

 六場の最大の課題で、放課後に彼女を呼び出しては盗聴器のことを尋ねると、「ごめんなさい! クラスが違うと不安で…! 本当にごめんなさい! だから嫌いにならないで!」と泣かれてしまう。満島真木が中宮圭の愛に依存し、いじめられたことで舐められないよう謝ることをしなかったため、どうしていいのかわからなかった。

 三幕七場の最後の課題、どんでん返しでは「悪いのは全部俺だ。浮気をしたのも俺だし、その上謝りもせず圭を脅した。圭にたくさん辛い思いをさせといて、自分は悪くない振りをしていた。本当にごめん」泣いて謝り、互いに抱き合う二人。今まで迷惑かけたらかなんでも聞くというと「まずは毎日好きって言うことでしょ? それから、お昼ご飯は絶対真木から呼びに来ること! あとは、一週間に一回はどっちかの家で遊ぶこと、それから、放課後は」と彼女からの要求はつきなかった。

 八場のエピローグでは、半年後、他の女子に目が行く彼に対し、彼の苦手な甘いクレープを注文する彼女。次はないからねと渡され他クレームは無性に甘かった。

 一人称で書かれている途中で三人称になってはいるのだけれども、構成で見ると、面白い作品を描こうとしてのことだったのがわかる。


 前半はミステリー要素もあって主人公は受け身で展開さえ、一年前を回顧することで主人公が行動を起こすきっかけを得て、後半はドラマを動かしていく作りになっている。

 途中の三人称の書き方は、きっかけを描いており、人称を変えることで読み手にわかりやすくしているのではと邪推する。


 付き合っていた彼女と別れるところから物語がはじまっている。

 喪失した主人公が、かわりに何かを手にするのかと思いきや、別れた相手に告白してはよりを戻す。

 しかも「俺達は毎日復縁している」とあり、別れては寄りをもどし、振られては復縁しをくり返しているのだ。

 設定、書き出しが面白い。この二人はどうしてこんなことを繰り返しているのだろうと興味が持てる。


「今日別れた理由は朝のSHRの時に隣の席の女子が落とした消しゴムを俺が拾ったかららしい」とあり、はじめは同じクラスに彼女がいると思った。

 でも、お昼を食べるとき、七組にいる彼女へ会いに行っている場面を見て、どうやって彼女は知り得たのだろうと不思議だった。

 そのあとの、恋愛ゲーム『まちコイ』についても、主人公の様子を彼女へ報告している人物がいるのではと疑いの目を持って読み進めていたため、御影が裏で彼女に報告しているのかと邪推してしまった。

 御影は同じクラスになったばかりで、主人公と彼女との関係はまだ知らないとあったので、御影が教えているのはありえないのだ。

 だから盗聴器が出てきたときは、なるほどねと納得がいった。


 歪んでいたのは主人公の満島であって、彼女の中島はそうではないと思う。

 彼女は今も昔も至って真面目で、普通な子なのだ。

 お弁当を食べているときの「ねえねえ真木、この卵焼き甘いやつ?」「食べる! あーんして!」もそうだし、恋愛ゲームで自分と似ているキャラを推していると知って、「そうなんだ……へへ、本当に……似てるかも……」と小声でつぶやいたときも、彼が好きだから素直に喜んでいる。

 面倒くさい子ではなくて、ちょっとしたことがあってはすぐにキレて別れるのも、浮気していたときの彼を真似しているだけのことだろう。

 盗聴器を仕掛けていたのがバレたとき、「嫌いにならないで!」「ごめんなさい!クラスが違うと不安で……! 本当にごめんなさい! だから嫌いにならないで!」というのは、素が出たのだ。

 本当に彼女は主人公のことが好きなのだ。

 そもそも先に浮気をくり返していたのは主人公だったので、いまも彼女の中では他の女を好きになって捨てられるのではと、不安だったのだろう。だからこその、盗聴器だったに違いない。

 

 主人公の満島真木が中学時代、酷いいじめに遭っていたというのはわかるとして、「彼の友人も、先生も、親でさえ見て見ぬふりをしていた」は酷いと思った。

 ついでに、ここの書き方がいい。

 みんな見て見ぬふりをしていたと書くよりも、「AもBも、Cでさえ」とわけて書くことで、誰一人として味方がいなかった絶望感が、より伝わってくる。

 

「驚くべきことに、彼は人間不信になることはなかった」「真木はいじめに遭っていた頃、自分を保つために、いじめっ子達に負けないために、決して彼らに泣きも、謝りも、従いもしなかった」これらから、頑なに心を閉ざしつづけてきたことで、感覚や感情が麻痺し、感じなくなっていたのだと推測する。

 人間不信になる人は、相手をまだ信じるだけの心に余裕がある場合に陥ることができる。主人公は、そのレベルを遥かに超えてしまっていたのだ。

 だから、ただただ愛が欲しかったのだ。

 今の自分を無条件で受け入れてほしかった。

 そんな彼の前に現れたのは、中島圭。

 彼が望んでいたことだったけれども、彼の感情は麻痺していたため、愛されているのがわからなかった。

 つまり、見た目は高校生でも中身は赤ん坊とおなじ。

 赤ん坊は毎日愛が必要なように、彼にも毎日愛が必要だった。

 だけども、彼女は毎日そんなこと恥ずかしさをおぼえてしてくれなくなる。結果、飢えてしまい、歪んだ求め方をしてしまった。

 そんな自分自身に気づけていたから、彼はごめんなさいをいい、「悪いのは全部俺だ。浮気をしたのも俺だし、その上謝りもせず圭を脅した。圭にたくさん辛い思いをさせといて、自分は悪くない振りをしていた。本当にごめん」「もうこんな酷い事は絶対にしない。だから、ずっと一緒にいてくれ。俺には、圭が必要だから」抱きしめながら約束するのだ。

 主人公の満島真木を救ったのは、間違いなく中島圭である。


 ただ、エピローグで彼は、いつも他の女を見ていると彼女から指摘されている。他の女子を見るからといって、浮気しようと思っているわけではないだろうけれども、彼女と一緒にいるときは自分のことを見てほしいと思うのは人情である。

 

 最後の一文、「クレープが無性に甘く感じた」がいい。

 クレープを食べたから甘く感じると同時に、彼女の甘い愛を感じたのだろう。

 後、甘いものはちょっと重たく感じることもあるので、彼女の気持ちにちょっと重さを感じてもいるのではと邪推したくなる。


 読み終えて、彼女をめんどくさくしたのは主人公のせいなのだから、受け入れてほしいと思った。愛情表現を求めているのはどちらもだと思う。花に水をやるように、お互いがお互いの気持を伝え合うことを欠かさず続けていくことを願わずにはいられない。


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