世界を救ったその先に、

世界を救ったその先に、

作者 緋咲 汐織

https://kakuyomu.jp/works/16817330659240084907


 特別な祝福を得た勇者たちはみんなのために魔王を倒するも、精神が壊れながら死んでいき、最後に残った聖女も嘆きながら後を追う話。


 文章書き方云々は気にしない。

 選ばれし勇者一行が、どうして自己犠牲してまで世界の命運を背負わなければいけないのか。改めて考えさせられるお話だ。

 とても切なかった。


 三人称、聖女視点、神視点で書かれた文体。ナレーションのような設定語りに近い一面がある。

 男性神話と女性神話の中心移動に沿って書かれている。

 小さな村に住んでいた黒髪と黒い瞳の少年と金髪に空色の瞳を持つ少女は、互いに愛して、依存し、大事にしていた。

 十歳になったとき教会で洗礼を受け、少年は魔と混沌から救う勇者に、少女は勇者を支える聖女に選ばれる。魔法使いの少女と盾使いの少年とともに六年間つらい訓練を受け、魔王討伐の旅に出た。

 東の四天王と戦い、盾使いが負傷するも、聖女の癒やしの力で傷はあっという間に治った。南の四天王は魔法使いの一撃であっさり勝つも、巻を拾いに行ったきり戻らず、無惨に殺されてしまう。

 北の四天王は、ありえないくらいみんながぼろぼろになった。最後の一人、西の四天王の戦いで盾使いが死んだ。

 倒した後、そのまま魔王の部屋に強制転移させられ、戦うこととなる。戦いの中で、勇者は聖女と幸せや苦しみ、悲しみ楽しみを分けることもなくなっていた。聖女は気づいてほしかったが気づいてくれなかった。

 魔王とともに勇者が崩れおち、聖女は彼を抱きしめる。ゆ者の修復が消え、彼の死期がせまる。彼は「あいしてる」と告げ、聖女も「あなたのことを愛しているわ」と涙するも、手から彼の重みが消えてしまった。

 国民に魔王の死を知らせに戻った聖女は、英雄となった。死んでいっゆ者たちも英雄になったが、侮辱とも取れる褒め言葉や苦しい船上を思い出す質問にも必死に耐えて、聖女として微笑む。が、でっぷりと太った国王に呼ばれて謁見の間に連れて行かれた聖女は、「お前には褒賞として王太子と婚姻を結んでもらおう」拒否権もなく国王に命じられた。

 無言で頷くと、監禁されるかのように王城の奥深く、部屋から出られないように鎖で繋がれて滞在させられた。

 涙を流しながら聖女は笑い、魔王を倒さなくても世界は救えたのに、みんなを守るために戦った人は聖女以外死んでしまい、勇者たちは精神を壊して笑えなくなってしんでしまった。特別な祝福をもらったから人としての幸せになってはいけないのかと叫び、涙し、日記に絶望と憎しみ「私たち勇者パーティーの幸福と人生全てを奪った王家を、国を、世界を、絶対に許さない」と書きなぐり、「私たちも人間よ‼どうして! どうして私たちは、普通の幸せすらも許されないの‼」最期に幸せそうに笑いながら自らナイフで首を切って命を絶った。


 書き出しがいい。

 勇者と聖女が恋仲であり、そんな二人がどう恋仲なのかが、続けて書かれている。話が進むと、先に勇者に選ばれて、「自分のことのようにとても嬉しくて、でも、涙が溢れてしまうくらいに惨めだった」と、彼の側にいられないんだと寂しく思っていたら、数カ月後には自分が勇者を支え、多くの人を慈しだり寄り添ったりする聖女だと知り、一緒に入られると思って喜ぶ姿が目に浮かぶよう。

 ただ、その描写がないので、聖女の心情が綴られている感じ。

 

 おそらく、最後に、ずっと書いてきた日記がでてくるので、本作は聖女が書いてきた日記なのかもしれない。日記なら、一人称で書くのが一般的だろうけれども、本作は聖女の日記を元にして、第三者が書きまとめた形と邪推する。そう考えると、三人称で描かれていくのも、すんなり読める気がする。


 東の四天王との戦いの後、聖女の聖なる癒やしは良く効いている。

「この世界には魔王という存在がいて、彼の存在によって、彼の部下の存在によって、世界は常に平和を脅かされていた。勇者たちはそんな悲しき世界を救うために女神さまに選ばれた。世界を救い、みんなを笑顔にするために、みんなの命を守るために、女神さまによって、選ばれ、そして力を与えられた。祝福をされた」

 という具合に、このころは聖女もみんなも、希望に満ちていたから聖なる癒やしはよく効いたのだと思う。


 魔法使いが無惨に殺され、メンタルが悪くなっている中で北の四天王と戦い、盾使いの腕を治すことができなかった。

 聖女の聖なる癒やしの能力は、メンタルに左右されることがよくわかる。

 

「勇者パーティーってなんなんだろうね」と聖女のつぶやきに、誰も答えていない。

 十六歳くらいの子供四人に、世界を救ってこいと王様達が行かせたのだ。理不尽極まりない。

 女神様に選ばれ、特別な祝福を受けたから戦いにいくことになっているのだけれども、女神も実に酷い。

 女神も神様なのだから、なんとかしてもらいたいものである。

 神は理不尽な要求を勝手に押し付け、王様達も見習うように無理難題を仕向ける。


 教会の洗礼が十歳なのが、作為的な気がする。

 物事の分別が付き始めるのが十歳だという。

 そんなときに、「キミは選ばえた勇者だ」なんていわれたら、その気になってしまい、頑張って戦って魔王を倒そうと思ってしまうのも無理からぬこと。

 この世界の大人は、いたいけな少年少女の夢と希望を利用し、踏みにじって幸せを奪うなんて、本当にずるいと思う。


 魔王の「お前は世の中に善と悪があると信じて戦っている! この戦争も人間良い国と、魔族悪い国が戦っていると思っている‼ 勇者‼ お前はこの世に勧善懲悪が存在していると思っているのか?」「はははっ! そんなわけないだろう? 我が国でのお前は殺戮者だ‼ 仲間を殺し! 王を殺そうとする無作法者だ‼ 我らが何をした! お前たちを無差別に殺したか? そんなことはしていない‼ 我らは我が領地に勝手に入った侵入者を排除しただけだ‼ それなのに人間はどうだ! 魔物を見つけては全てを嬲り殺し! あまつさえ奴隷にする‼ 本当の悪はどちらなんだろうなぁ? どうなんだ! 勇者‼」このセリフから、親切だなと思う。

 もっと早く教えてあげればいいのに。

 魔王は、勇者たちが状況を知りもしないで戦いに来てることを知っているのだ。ひょっとすると、回避できたかもしれない。

 魔王が嘘をついている可能性もある。

 魔王の言い分が正しいなら、なぜ女神は特別な祝福を授けて勇者たちを選んだのか怪しい。

 女神など存在しておらず、とにかく魔族たちをやっつけようとする王様側と教会が手を組んで、洗礼という名の勇者選びをしては、定期的に戦をおこしていたのかもしれない。

 それだと、勇者たちは悲劇以外の何者でもない。


 大人たちの陰謀に純朴な子供たちが利用されたみたいで、実に切ない。

 あいしていると告げあえた勇者とは死に別れ、ただ一人生き残った聖女は、政略結婚させられ、監禁されるという。とてもじゃないけど、英雄の扱いではない。

「私たちも人間よ‼ どうして! どうして私たちは、普通の幸せすらも許されないの‼」

 このセリフは胸に迫る。

 やりきれない。


「あぁ、そこにいたのね。―――」

 と、幸せそうに聖女は笑う。

 勇者の幻影をみたのかしらん。

 それとも、恨みつらみを抱いている王様達の顔でもみえて、当てつけに死んでみせようと笑ったのか。

 どちらにしても、聖女を救うには死しか残っていないのは実に寂しくも悲しい。


 ラストに、タイトルのあとに続く言葉を書いていてくれている。「〜〜〜世界を救ったその先に、英雄たちを待っていたのは辛く救いようない現実だった〜〜〜」

 なくてもわかるのだけれども、親切に、ダメ押しのように書いてあるのは強調したかったのかもしれない。

 世の中には、特別な才能に恵まれた人がいる。

 特別が故に、他の人には体験できないような思いをすることもあるだろうけれども、他の人が手にできる囁かない幸せを手にできるかはわからない。とくに本人は、特別な才能よりもささやかな幸せを手にしたいと思っていたなら、本作のように不幸な目に遭うだろう。

 せめてあの世では、二人が幸せになれますように。




 

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