やがて枯れゆく花たちは
やがて枯れゆく花たちは
作者 筆入優
https://kakuyomu.jp/works/16817330660311101655
現実逃避の箱庭に逃げないかとヒスイの欲望から誘われたスミレは、理想像のぬいぐるみたちと人であるツバキと出会い、欲望はへし折れて箱庭世界は現実に侵食されてしまう話。
文章は良く、読みやすい。
理想を具現化した箱庭世界の発想が面白い。
主人公は学生のスミレ、一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。人物や風景の描写などはそれほど描かれていないため、映像として浮かびにくい。全体的にふわっとした印象。
箱庭世界という非現実世界が主な物語の舞台なため、気になりにくい感はある。
日常から非日常へ入り、日常へと帰還する作りになっている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
お互いに小学生以来唯一の友達であるヒスイがスミレを自身に箱庭に誘い、ぬいぐるみしかいない街や理想像第一号のツバキに会わせるのは、ヒスイ自身の欲望のため。
やがてツバキと話したスミレは、自分の未完成エリアで理想を鮮明化、具現化して学校を生み出していく。
ツバキは、理想は固く強く結ばれているが欲望は弱く、すぐにへし折れると話し、スミレは理想と欲望は紙一重であり、ヒスイが箱庭に連れてきたのは欲望だったと気づくと、葉に怖世界は崩壊しはじめる。
箱庭の均衡が崩れ、理想像であるぬいぐるみ同士が喧嘩をしていく。ヒスイは現実逃避し、欲望を叶えるための道具として理想郷である箱庭を作った。スミレを招く欲望を叶えたが、叶えたがゆえにへし折れてしまった。
目がさめたとき、理想を語り合う自分なんかないなくなっていればいいと思うスミレだった。
作品の世界観、発想がいい。
人は誰しも、他人の心に理想郷を抱く。
自分の理想を他人に押し付け、そうであらねばならないと強いていく。でも他人は、自分の思惑どおり決して自由になるものではない。
ヒスイは、ままならない現実から逃避するために、箱庭世界を作り、欲望を叶えるために、ぬいぐるみの理想像をつくっていく。
ヒスイは理想像と呼んでいる。
どうしてぬいぐるみなのか。
理想の形を追求すれば、やはり人の形に近くなる。
だから、作り物であるぬいぐるみの形をしているのだろう。
最初の理想像は人間だった。が、自我がある。
自我を抜くと、ぬいぐるみになるのかしらん。
オズの魔法使いに出てくる、勇気のないカカシみたいなものだろうか。
それでも理想像第一号のツバキは、ぬいぐるみではない。
ショートヘアーの女の子。
ヒスイの欲望からつくられた理想像は、もしかすると主人公であるスミレがモデルかもしれない。
つまりヒスイは、唯一の友達のスミレが女の子だったら良かったのにと思っているのかもしれない。
ツバキを作ってみたが、やはりスミレではない。
自我を持ったゆえに、よくわかったのかもしれない。
だからスミレ自身を箱庭世界へ招いた。仲良く過ごすために。
ツバキはスミレを快く思っていない。
同族嫌悪だけでなく、欲望より生まれた箱庭世界を守るため。 箱庭世界を作ったヒスイ以上に、世界の存続を心配するのは、理想像は現実世界では生きられないからだろう。
それでも初めは「君の理想が、ここで生きるにふさわしかったら、私は君を歓迎する」と譲歩している。にもかかわらず、皮肉でやり返したスミレ。
しかもヒスイは「せめていがみ合いだけはやめようよ。それに、ここは私の箱庭。ツバキがあれこれ言う筋合いはないよ」とスミレの肩を持たれてしまい、ツバキは可哀想。
スミレは学校を創造する際、猫も作っている。
猫はぬいぐるみなのかしらん。
それとも、猫は猫として作られたのだろうか。
猫が何かしらのキーワードをもっているような気がする。自由でいたい、癒やされたい、そんな欲望が潜んでいるのかしらん。
読後、タイトルを読み直す。
やがて枯れゆく花たちとは、登場人物たちであり、若者すべてを指しているのだろう。理想を達観して語っていたら、あっという間に枯れて老け込んだ年寄りになってしまう。語るのではなく、今すぐにでも掴み取れ、と本作は叫んでいるのかもしれない。
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