第5話


 広い天蓋付きのベッドのカーテンが、寄り添い寝転がる私たちを隠してくれているが、暖かい体温にずっとドキドキしっぱなしだ。


 シディルはそのことに気づいているのか、落ち着かせるように髪や背中をすいてくれている。


「緊張してる?」


 こくこくと首を縦に振っていると、ふふっと笑われて、胸元へと額を擦り付けると、シディルの手のひらが私の身体のラインを優しく撫でおりていく。



 不埒な手は私の太腿を持ち上げシディルの腰に乗せ、お尻の方へと移動してきた。


 シディルはゆっくりと、私を囲うように頭の横へ肘をつき、脚の間へ身体を滑り込ませて、唇を食んでくる。

 柔らかい感触に身を固くしていると、閉じた唇の隙間を舐められ、肩が震えた。


 なんだか内側から火照るような、くすぐったいような…初めての感覚に、どうしていいのかわからない。


「シ、シディル? 私、どうしたら」


 間近で見つめられて目を合わせられず、自分の胸元できつく手を握っていると、下唇にシディルの親指が沿う。


「口、開けて」


 口を、開ける…?


 言われた通りおずおずと開くと吐息ごと食べられるのではと思うほどかぶりつかれ、舌が入り込んできて、目を丸くする。


 息ができない…っ。噛まないように、しないと。


 シディルに傷をつけたくない一心で口を開いて、口内を余すことなく嬲る舌を受け入れるが、やはり息が続かない。


「…っふ、ぅんんっ! んー!!」


 窒息死する!


 シディルの背をバンバンと叩いてようやっと離れてくれた合間に息を整えていると、わずかに溢れた唾液を拭われて、全身がカッと熱くなる気がした。


 今の何!? キスって、あんなに深いものなの!?


 シディルを直接見れなくて、口元を押さえ腰から上を横向きにして固まっていると、シャツワンピースの裾から彼の手が素肌に触れ、太腿から脇腹、胸の方まで上がってきて、ふにゅと包み揉まれた。


 大袈裟なほど身体が跳ねるのに、彼は私を仰向けに戻して、再び唇を重ねてくる。


 お腹へと降りていく手のひらがくすぐったい。


「痛かったら、教えて」


「い、痛いこと、するの?」


「できるだけ痛くないようにはするけど、フィンは初めてみたいだから…」


 確かに、男の人に肌を直接触れられるようなことは初めてだけど…痛いことってなんだろ。


 頭の周りにはてなを浮かべていると、シディルは私の太腿の裏を持って脚を広げさせた。

 のは、いいんだけど…私、下着履いてた? スースーするような。


 ジッとそこを見つめるシディルの瞳は赤くキラキラと輝いて──いや、ギラギラ…してる?


 下着を履いてないと確信して隠そうと手を伸ばしたが、彼の指が股の間をなぞる方が早かった。


「ひぁ!?」


 それだけで目の前に星が散って腰が一瞬浮いたのに、つぷっと指が中へと入り込んできて、異物感と濡れた感覚に、混乱する。


「痛くない?」


 痛みはないからこくこくと頷くが、探るように動くシディルの手首を慌てて掴む。全く力が入らなかった。


「シディル、何を…っあ、や」


 なんだかよくわからないけど、押し込まれるとダメなところがあるような。

 時折、思わず締め付けてしまって指が増えていくのがわかった。


 いつの間にか汗びっしょりで、息も絶え絶え。そうなってやっと抜かれた指に、ホッとしたのも束の間。


 頬を撫でてくれる手のひらに擦り寄ったら、もっと大きな硬くて熱いものが私を破り開いて、逃げるように腰を引いたが、骨盤を掴まれ、みっちりとお腹の奥まで入り込んできた。


 熱い。


「シディル? なに、これ、なに? や、まって…っ、あ…?、?」


 何度も引いては押し込まれ、苦しい。身体はビクビクと震えていて、自分で制御できないのが怖い。


「フィン、かわいい。痛くなさそうで良かった」


「…っは。いた、くないけど……これ、こわ、い…ぅん、あ、やぁ」


 撫でてくれる手や額に落とされるキスはひどく優しいのに、下からの刺激は強すぎて、ほろほろと涙が止まらない。


 シディルが私の中にいる? どうして。何してるの?


 ずっと訳がわからないまま揺さぶられ、抱きしめられて、その背に縋ることしかできなかった。






 身体のだるさとわずかに感じる頭痛。


 朝日の眩しさにゆっくりと瞼を上げると、昨夜の温もりはすでに無く、ひとり冷たい布団にくるまっていた。


 微熱があるし、下半身の違和感がすごい。


 のそのそと上体を起こすが、それ以上動く気力が起きない。


 昨日のは、なんだったんだろ。


 ガンドールとその取り巻きに襲われた時にも何か硬いものを押し付けられたような…もしかして、シディル以外に、身体の中に入られてたかもしれないってこと?


 今更そんなことに気づいて、吐き気に襲われる。


 大丈夫。昨日はシディルだったし、気持ち悪くなかった…むしろ──


 思い出したら恥ずかしくなって全身がブワッと赤く染まり、布団を頭まで被ってうずくまる。

 こもる熱気にくらりと眩暈がして、プハっと顔だけを出すと、外気の冷たさが熱い頬を冷やしてくれる。


 この軽い体調の悪さは、昨夜の行為のせいだろうか。うぅ、頭痛い。

 あんなことしたくせに、起きたら横にいてくれないなんて…なんでよっ。


 自分でもよくわからない理不尽な怒りが沸いてきたので、だるい身体を無理やり起こし深呼吸してみると、少し落ち着いた気がする。


 そのおかげか、喉が渇いていることに気づいて水差しに手を伸ばすが届かない。

 倦怠感も相まって面倒くさくて、プルプルと伸ばしていると指先に魔力をこめてしまったのか、水差しが浮いてこちらへと寄ってきた。


 私、ほんとに魔女になってたんだ。


 驚いた瞬間、ズキっと頭が痛んで熱がさらに上がって、急激に悪くなった体調に嘔吐してしまう。


「ぅ、げほっ…なんで……誰か」


 普段はベッドサイドにあるはずの呼鈴が、何故か枕元にあることに気づいて力なく叩くと、小さな音だというのに、メイドさんがパッと現れた。


 すぐに背中をさすってくれて、他のメイドさんたちが新しい飲水や着替えを用意し、濡れたタオルで全身を拭ってくれる。

 シーツも早業なのか魔法なのか、あっという間に綺麗になった。


「私、こんなことしてもらえるような身分ではないのに。ごめんなさい…また、みなさんに迷惑を」


「シディル坊ちゃん奥様なのですから、当たり前です。存分に私共に甘えてください、フィンお嬢様」


 にっこりと笑いかけてくれる表情はどこか艶やかなのに、優しげだ。そのことにほっとしながら身を任せていると、シディルが慌てた様子でどこからともなく現れる。


 メイドさんたちはサッと私から距離をとってしまい、支えを失ってベッドへ倒れそうになった私をシディルが抱きとめてくれた。


「フィン、ごめんね。昨日、僕が無理させたから」


「昨日のは微熱くらいで済んでたんだけど、魔法使ったら、気持ち悪くなっちゃって…シディルのせいじゃないよ」


 今にも泣き出しそうに、犬耳がシュンと垂れているように見えて、シディルの頭を撫でてしまう。柔らかくてサラサラ、ふわふわだ。


「フィンが魔法使ったの、なんとなく感じて急いで来たんだ。フィンは身体弱くて魔力に耐えられないから」


 ゆったりと寝かせてくれるのが、壊れ物を扱うかのようで、胸の奥がくすぐったい。



「嘔吐と頭痛、発熱がございました」


 メイドさんの1人に報告されてしまって、縮こまる。シディルに余計な心配をかけたくないのに。


 シディルはそのメイドさんに礼を言って退がらせ、私の額に冷却魔法で触れてくれる。冷たくて気持ちいい。


「もう楽になってきてるから、すぐ良くなると思う。私、平気だよ」


「ほんとに?」


 魔法を使ったのが一瞬だったおかげか、すでにかなり楽になっているのは本当だ。だけど、心配そうに揺れるルビーに、つい甘えたくなってしまった。


「ほんとだけど…少しぎゅってしてていい?」


 もちろんと抱きしめてくれるシディルに縋り付くと、腕に力を込められて苦しいのに心地よくて、頭痛が和らいだ。


 胸元に顔を擦り付けると、シディルの香りが胸をいっぱいにして、昨夜のことを思い出した。

 そういえば──


「昨日の、なんだったの? お腹の中、シディルでいっぱいだった」


 ぱちくりと瞬くシディルを見上げて、首を傾げる。私、変なこと言った?


「フィン、子供の作り方知らないの? フィンを愛でながら、お腹に僕の子種を出したんだよ」


 子供を、作る……?

 触られたところから愛されてるなぁとは感じてたけど。


 するりと下腹を愛おしげに撫でられて、ぴくりと反応してしまい、顔が熱くなってくる。


「ま、まだ早いのでは」


 恥ずかしくて視線が合わせられず、目が回る。


 実感は全くないけど、私はもう妊娠してしまったの!? どうしよう、心の準備もできてないのに。


「フィンは初めてだったから妊娠しにくいし、したからって必ず身籠る訳じゃないよ」


 安堵したのは一瞬で、あれを何度もしなければいけないという事実に衝撃を受ける。


 あ、あんな脚を開いて、シディルを…何度もっ!?


 じわっとお腹の奥が疼いて、身を捩った。


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