第3話 男は見栄を張る生き物


『頭の上に浮かぶ数字は、その人の経験人数を指している』


 この仮説を立証するため、俺は行動を開始する。




「学食組の男子諸君、今日はみんなで食べようぜ!」


 お昼休みになると同時に俺は声を張り上げた。

 完全な陽キャムーブ。ガラじゃないが、今日は特別だ。

 まだ入学して1か月と少し。

 昼食を食べるグループもあらかた出来上がっていたが、まだ介入するスキがある。

 思い切って誘ってみると、あちらこちらから賛同の声が上がった。


「お、いいじゃん。いこうぜ」

「おっけー、いくべ」

「んじゃあオレもー」

「先に行って席取っとくよ」

「さんきゅー」


 昼食は弁当組と学食組に別れる。比率はだいたい半々。

 その中でを誘う。

 既に他の人と約束があった者を除き、多くの男子が誘いに乗ってくれた。


「本堂君、私たちも一緒した~い」

「一度しゃべってみたかったんだよね~」

「うんうん。一緒に食べよ」


「「「うおおお~!」」」


 クラスの女子から声が掛かる。

 女子からの申し出に、学食組の男子が色めき立った。


 クラスの女子とお近づきになるチャンス到来!?


 ―――だが、断る。


「悪いな。今日は女人禁制だ」

「「「ほえっ!?」」」


 誘ってきた女子も、色めき立っていた男子も、皆一様に「えっ」という顔をする。

 シンと静まり返る教室。

 遠くにいたカレンだけがなぜか笑っていた。ちなみにカレンは弁当組。


「よし、じゃあ行こうぜ!」


 場の空気を無視して、俺は先頭に立って食堂へと向かう。

 その後ろを、男子がトボトボと付いてきていた。




 ――――――――――――――――――――




 学食にある4人掛けのテーブルを2個くっ付けて8人掛けにする。

 参加者は俺を含めて7人。データとしては十分な人数だ。

 まだ話したことがない奴もいたので、交流するきっかけとしても良かった。


 あっ、離れた所にさっき誘ってきた女子グループがいる。

 なんかこっちを睨んでいるような……。まあ、気のせいか。



 食事が進み、既に食べ終わる者も出てきたところで、本題に入る。


「ところでさ、みんなに聞きたいことがあるんだけど―――」


 一斉にこちらを見るのを確認して、単刀直入に尋ねる。


「ぶっちゃけ、お前らの経験人数って何人?」


 隣に座ってた奴が「ぶっ」とき出した。きたねえ。

 一瞬の静寂の後、次々と反発の声が上がる。


「おい、なんだよやぶから棒に」

「そうだそうだ」

「プライバシー考えろよな」


 まあ、即答してくれるとは思っていない。

 とりあえず、が必要か。

 俺は一人のクラスメイトを選ぶ。浮かんでいる数字は0。


「お前、童貞だよな?」


 そいつは即座に反応した。


「どどど童貞ちゃうわ」


 間違いないな。こいつは童貞、つまり経験人数0。

 頭の上に浮かんでいる数字と一致している。


 今度は別のクラスメイトに標的を変える。こいつの数字は1。


「たしか彼女いるんだっけ?」

「ああ、いるぞ。他校の子だけどな」

「その子とはしたか?」

「―――まあな」

「それ以外の子とは?」

「無いよ。初めての彼女だし」


 なるほど。これも一致しているな。

 次は、本人から数字を言ってもらおう。


「そっちは何人?」

「…………」

「頼む。一生のお願いだ、教えてくれ」

「……3人かな」


 あれっ、数字は1だけどな……。


「1人じゃなくて?」

「えっ、お、おまっ……。い、いや、3人だよ、3人」

「本当か?」

「…………」

「1人だろ?」

「…………」

「そうか、本当に3人なのか」

「いや、すまん。本当は1人だ」


 やっぱりサバを読んでたか。

 最後にカミングアウトしてくれてよかった。今回も一致しているな。


 ―――もう、ほぼ間違いないとみていいか。

『頭の上に浮かぶ数字=その人の経験人数』証明完了、QED。


 一応、まだ聞いていないのが3人いるから念のために確認しておくか。


「そっちの3人は? 何人?」


「4人だ」―――うん、合ってる。こいつの家、金持ちだしな。

「7人だよ」―――これも合ってる。こいつイケメンだしな。

「……内緒だ」―――やっぱり合ってる。こいつ童貞だしな。



 確信を得たところで解散となった。


「んじゃあ、昼飯に付き合ってくれてありがとう。またな~」


 モヤモヤが解消されてスッキリした俺を、他の6人が待ったをかける。


「ちょ、待てよ」

「本堂も言えよ」

「そうだぞ、お前が聞いてきたんだろ」


 ああ、そういうことか。

 たしかに俺だけ言わないのはフェアじゃないよな。


「そうだった。俺はな―――0だ。童貞だぞ」


 胸を張って答える。

 童貞は恥じゃない。伸びしろしかないからな。


 そう、俺はセックスをしたことが無い。

 だから童貞。


「そ、そうか」

「なるほど、すまんな」

「堂々と言うとは……お前すげーな」

「逆にな」

「彼女できるといいな」

「いや、いるだろ。ほら、毎日一緒に登校している―――」


「カレンのことか? あいつは幼馴染だ。彼女じゃない」


 カレンとは付き合っていない。

 ただの幼馴染。これまでも、そしておそらくこれからも。

 まあ昔から恋人と噂されていたし、恋人どころか夫婦とも言われていた。

 だけど、この関係が変わることは今後無いだろう。


 正直に言うと、俺はカレンに好意がある。

 勘違いじゃなければ、たぶんカレンも俺のことを―――。


 でも、あまりにも近くに居すぎて、この好意が恋愛感情なのかがイマイチ分からない。家族愛みたいなもの、かもしれないからな。



 それに、俺とカレンは過去に色々とあった。そのせいで、な。


 今でも後悔している。あの時、俺が自棄ヤケにならずにきちんと―――――。






 ―――――


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