話は廻り回帰する


【ギルド】

 それは、特定の目的を持った者達が長期的な活動を前提に組むチームの事だ。


 ギルドというコミュニティーへ加入する利点は多岐にわたり、知識や技術といったノウハウの共有から労働者の継続的な確保、アイテムの加工や装備の制作、卸売りの窓口、その他身分証明になったりもする。


 また、日本国政府としては勇者を一纏めに囲い込んで死亡率を下げるという狙いがあり、ギルドを結成すると、所属する勇者の強さ(勇者ランク)に応じて毎月補助金が振り込まれるというシステムがあった。



 では何故、リリィが一同にギルドの発足をお願いしているのか…?


「支部長さん少々話が飛躍し過ぎていませんか?まずは最近起こっている問題点や彼らにギルドを作ってほしい理由なんかを説明しませんと」


 橘がそう言うと、青髭は顔を赤くして手を振った。


「あらやだごめんなさいね?思わずガッツいちゃったわ……まず、最近になって突如協会の需要が危ぶまれて来たのは知っているかしら?」

「なんやニュースで見た事あります。業績とか利益が右肩下がりやとか言うとりましたわ」


「そうなのよ。勇者協会は国が積極的に進めようとしている「勇者とギルドの育成」に関する政策へ賛同はしているけれど、協会が行っているのは結局のところギルドの省略系でしかないから、大きくなったギルドは協会の保護を必要としないのよね」


「……ギルドが増えると協会の需要が落ちるのなら、協会が主体となって新たにギルドを発足させようという試みはおかしくありませんか?」


 自ら首を絞める様な行動をするリリィを、榊原は不審に思っていた。


「協会の業績について心配するのはお門違いですよ。彼らの仕事は勇者の育成と保護ですから、それが個人間で担保されようとしているなら喜ぶべき立場にあります」


「心配してくれてありがとうね?でも協会が気にしているのはその先、「国内で生産、消費される素材量の減少」なの……勇者協会に登録している人間なら誰でもギルドへ入る事が出来るのは知っていると思うけれど、そこには戦闘を得意としない生産職の人間も含まれているわ。もしもギルド内でモンスターの素材を欲しがっている人がいるなら、協会を介さずに譲ってあげようってなってもおかしくはないわよね?」


「協会はギルドに対抗して素材の買取価格を上げたから、業績が悪くなったっていうことか」


「えぇ、あまり効果は無かったけれどね。ギルド内での素材のやり取りが多くなったら、市へ出る素材量が減ってギルドに加入していない生産職の人間には満足な分量の素材が行き渡らなくなるのよ」


「『討伐したモンスターは一度、協会が買い取る』みたいなルールを作ったらだめなのかな?」

「国は金をばら撒いてまで勇者を囲い込んでるねんで?規制を強くして国外へ逃げられるようなヘマは許さへんやろ」


 事実、協会は国との契約で固定給を貰っており、業績が落ちたところで大した問題はなかった。むしろ協会はギルドが育つまでの宿り木として役割を果たしたと褒められるだろう。


「ギルドへ加入していく生産職が増加するに従って、ギルドとそれを率いてる者たちの力が強くなっていくのね」

「一部の人間に権力が集まると危険やな。日本の腐った政府だって三権分立してるんやから」


「……ギルドの偉い人たちは素材の独り占めでもしているのかな?」


 玲や鋼がそんな憶測をしてみるも、リリィは残念そうに首を振った。


「……いえ、海外へモンスター素材の輸出を行っているらしいの」


「それが本当なら由々しき事態と言わざるを得ないわね。国内で素材の絶対量が減るだけではなくて海外との所有素材量に差が出てしまうわ」


「それの何が問題なんだ?」


「海外に素材を売ると日本内で作られる素材を用いたアイテム、魔道具、武器なんかの生産量が落ちるでしょう?そうすると、一部のお金を持った勇者しか装備を整えられなくて、ダンジョンへ行ける人間が減ると同時に全国で素材の収集量が減るわよね。研究職へ回る素材も減って海外との技術力に差が生まれると、海外へ素材を売るのが一番効率よく金を生み出せるようになるの」


「それで海外に素材を売る。つまり最初の問題に戻れば最悪な悪循環が完成するな。技術力が自慢の日本様も、晴れて素材を輸出するだけの機関に成り下がる訳や」


 基本的に第一次産業よりも第二次産業、第二次よりも第三次産業の方が費用対効果が良いとされているが、現在のギルドが行っているのはもっぱら第一次産業である。


 目先の利益だけを求めて海外へ輸出しても儲かるのは自分達だけ。確かに苦労は少なく、生産職を挟まないことで短期的に見れば多くの利益を出しているかのようにも思えるが、長期に見れば大きな損をしているのだ。


「物理現象を無視した超常現象的な行為すら可能にしてしまうモンスター素材は、今やどんな金銀財宝よりも価値があるの。このまま放置していれば被害はさらに大きくなるでしょうけど……協会が何度ギルドへ警告を出しても効果はなかったわ」


「ギルドのバックには大国のパトロンが付いている様なもんやからなぁ。金じゃ靡かへんで」


「政府は対策に動いているのかしら?」


 その言葉を聞いたリリィは待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑う。


「動いていないわ」

「あかんやん」


「政府の腰は軽くありませんからね。だからこそフットワークの軽い勇者協会には先んじて行動して貰わないといけないのです」


 何時まで経っても言葉足らずなリリィの代わりに橘がそう補足した。


「実は最近日本中で失業者が急増しているの。なんとなく分かるかもしれないけど生産職の人達ね。最初はギルドも彼らの為に素材を回していたのに、それがいつの間にか海外への輸出を始めていた。今となってはギルドメンバーが自由に使える素材は微々たるものよね。狩りをして生計を立てていた勇者は潤ったけれど、彼らの素材を当てにしていた生産職はからっきしと言っていいわ。じゃあ困った生産職が次に扉をたたくのは……?」


「勇者協会か。でも、協会自体にも多くのモンスター素材があるわけじゃないんですよね?」


「えぇ、市場の価格を維持するためにはある程度の在庫が必要だもの」

「それなら勇者協会は何もしてあげ…」

「ほとんど全員起用したわよ」


 リリィが鋼の言葉を遮って結論を言うと、姫子松が悪い笑顔を浮かべながら口を開いた。


「ようやく話が見えてきたなぁ」

「毬、どういうこと?」


「素材はあるやろ?ギルドどころか勇者協会にすら属していないのに、大量のモンスター素材を手に入れる事を可能にした新進気鋭の学生パーティがおるんやから」


「あら、ばれちゃったわね」

「こっちが気付くように話していた癖に白々しいわ」


 リリィは橘に「例の物を」と伝えて紙切れを受け取ると、それを机の上に広げた。

 小切手の様にも見えるその紙切れには二千万円の文字が書かれている。


「もう一度問うわ。借金奴隷の勇者さん達はギルドを建てる気があるのかしら?」

「せやなぁ、見返りは?」


 すっかり敬語を使わなくなってしまった姫子松は、悪い顔で支部長に質問をした。 


「借金の免除でどうかしら?」


 立ち上がってリリィの手を取ろうとした鋼の背中を榊原がつかんで止める。まだ話は終わっていないらしい。


「ギルドの運営をするのには元手が無いと、直ぐに首が回らんくなるのは目に見えてるで?」


「ふふふ、じゃあその二千万円の小切手をあげてもいいわよ?」


「ついでに協会が起用したという生産職の人間も貸してくれれば有難いんやけど」

「勿論よ。何か作りたいモノでもあったかしら?」


「冗談が上手いなぁ?…あんたらの抱えとる生産職を全員うちのギルドに入れるって言うとるんやで?というか、元からそう提案するつもりやったんやろ?」


 姫子松の言葉にリリィは押し黙る。


「まぁ、提案するんはうち等がギルドを立てた後、ある程度お金が溜まってきてもっと強い装備が欲しくなった時やろうけどな。「自分達で作ってみないか?」とでもいって生産職を貸し出そうとしていたんやろ?現状殆どの生産職が別ギルドか、協会に囲われてるんや。大手のギルドは内部で完結してるから部外者が入る隙間はないし、寧ろ協会から借りる以外にウチ等が生産職を雇う方法が無いっていうのが正しいかもしれへん」


「でも、そんな事をしたら協会が恐れているモンスター素材の不足が再発するんじゃないの?それなら今までと同じじゃないか」


「生産職を貸し出しとるんは協会やで?そうならへんように派遣する人数は調整するに決まっとるやん」


「そんで最終目評としては、借金と生産職の利権でガチガチに固めたうちらのギルドを協会が裏で操作する。っていうところかなぁ?」


 どう?当たってるやろ?と目をキラキラさせた毬が鋼とリリィを交互に見やった。


「支部長さん。俺達を嵌めようったってそうはいかない!悪いがこの話はなかった事に……」


 させてもらう。その言葉を言い切る前に毬は鋼の頭をひっぱたいた。


「アホかッ!さっきも言うたやろ!支部長さんはウチ等がこの事に気付くように話をしていたんやで!?」


 そんな光景を微笑みつつ見守っていたリリィは困ったように笑う。


「……勘違いしないで欲しいのは、協会が貴方達を一方的に搾取しようとしている訳ではない。という事よ」

「市民の安全と市場のバランスを取る為には、持続的に狩りをして素材を卸す人間が必要だものね」


「…それらを踏まえたうえで、うちらはギルドを立てようと思うとる」

「俺達の意見は聞かないのかよ」

「でも、強くなるにはこれが一番効率ええねんで?」


 散々無下にされてきた鋼が口を尖らせるも、姫子松はあっけらかんと言い放った。


「否定はしないけどさ」


「因みに、ギルドマスターは誰がやるのかしら?」

「そんなもんコウにでもやらせとけばええやろ」

「おい、俺が海外へ素材を輸出し始めたらどうするつもりなんだよ」


「僕らは一応世界一強くなる予定だし……その時は力づくかな?」

「事実上の傀儡政権じゃねぇか。ここまで話を纏めた毬がやるべきだろ」


「えぇ……コウはウチが掲げた将来の夢覚えてる?」


 突然投げかけられた質問だったが、鋼からすれば忘れるはずもない。


「宮廷魔法使いになって楽をしたいだろ?……楽?おい、もしかして」

「ご明察、重要なのは「楽をしたい」という場所だけや。宮廷魔法使いっていうのも戦争のない現代において最も『楽』な仕事やからっていうだけ。そんな怠惰な人間がギルドマスターなんていう面倒くさい仕事をやるわけないやろ!!!」


「俺、今後のお前との付き合いをちょっと考え直そうと思うわ」


 逆切れした姫子松を横目に鋼はリリィから渡された小切手を受け取った。


 ◇◆◇


『 Lv.1 ―終― 』


【エピローグ】


 はい。ここまでの閲読お疲れさまでした。

 それと、前回のエピローグで言うのを忘れていましたが、途中で文章を三人称視点に変えてしまい申し訳ありません。


 説明がね。多いとね。一人称じゃ無理。


 ではおねだりおば……ここまでで面白いと思った方は星をお恵みください!!!!!!

 あとハートもください!!!!!


 ……押しましたか?本当ですか?それでは――― 


『Lv.2 配信者になって沢山バズってスパチャで生きて行きたい編』


 待て次章!!

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