1章 無職を脱却して生計をたてる元勇者
001話 15年前は勇者だった……
俺の名前は『ルノア・オルティー』
現在30歳。男性。転生者。
かつては勇者と呼ばれた存在だったが、今では誇れる肩書きなど無くした無職のニート。
少し昔の話をしたい。
軽く自己紹介を含めてね。
俺『宍戸 奏汰』は前世で20歳の時に不慮の交通事故で急死した。
大学生2年生。1番人生を舐めきってる時だな。って、そこは別にいいか。
過去のことだし。
掘り下げる必要もない。
そしてまぁ、理由はわからないが気が付くと赤ん坊になっており、この剣と魔法のファンタジー異世界に転生したというわけだ。
もちろん最初は驚いたが日本は異世界転生系のアニメ文化が根強いので、状況を理解して順応はすぐに出来た。
この世界は人族と魔族が対立している世界だった。
人族同士のいざこざもあるが、さらに強大な敵の前では手を取りあうのが人間だ。
それはどこの世界でも変わらないらしい。
魔族には彼等を統べる者。『魔王』の存在がしていた。人族側からすれば大悪党である。
魔王によって人々は苦しめられていた。
人族と魔族は、殺し合い、領地を奪い合い、常に争ってきた歴史があるのだ。
転生した俺の実父は魔族との争いで、俺が生まれて3年後に亡くなった。
もちろん死様は知らない。
でも優しい父だったし。
転生者とはいえ俺は魔族が憎らしいと思った。
だから俺は魔族と闘うために3歳から自分を鍛え始めた。
運動神経と同様に魔力も若い頃に鍛えれば、急激に伸びるようだ。
俺は10歳を超える頃には既に、銀級(中級)の剣士や魔法使いを凌駕しており、13歳を超える頃には『最年少の天才魔法剣士』などと巷で騒がれた。
そして国からの呼び掛けにより、対立している魔族との抗争に参加していると、いつの日か人々から『勇者』と呼ばれ、俺を中心に歴戦の仲間たちが集った。
そこから2年。
ついに仲間たちと共に魔王に挑み、俺は見事に魔王を討伐したのだ。
俺は幸せだった。
人々から賞賛され、仲間たちから尊敬された。
実父の仇討ちの感情は、この頃はすでに薄れていたように思う。
自分の名声や力に酔いしれていたのだ。
俺は魔王討伐の功績として、王国から莫大な資産を得た。
一生遊んで暮らせるほどの金。
日本円でいえば20億くらいかな?
前世の夢であるFIRE生活が余裕でできる。
もう有頂天さ。
だがここから俺は間違っていく。
自分の力を過信し。
態度は横暴になり。
金を散財し。
美女をはべらせ。
酒を浴びるように飲み。
毎日が贅沢三昧。
人々を見下し。
仲間たちの期待を裏切った。
俺は。
怠惰に。
傲慢に。
強欲に。
色欲に。
暴食に。
やりたい放題やり続け。
性格は歪み。
身体は肥え太り。
心身ともに醜い人間へと成り果てた。
その結果、俺はすべてを失った。人々からの尊敬は消え、仲間たちからの信頼は完全に崩れた。
俺はいつの間にか孤独になり、無一文のただの貧乏人になっていた。
あと最後の砦でもあった強さも失った。
勇者にとって1番のアイデンティティーだろう。
技や魔法って1度身につければずっと使えると思ってる?
それはゲームの世界の話だ。
肉体が衰えれば、身体能力は落ちる。
ウサ○ン・ボルトだって100kg超えの贅肉で9秒を走るのは絶対無理だろ?
この世界もそれと同じなのだ。
こうして本当にすべてを失った俺は、誰からも相手にされなくなり、王都に居場所を無くし、母のいる故郷の村へと帰った。
人々が俺を嘲笑いながら「家畜」「豚野郎」「偽物勇者」だの、陰口を叩いているのを素知らぬふりをして。
惨めに。
卑屈に。
逃げ帰ったのさ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます