第5話 銀星の役目
「前から思っていたんだが、何故、茜にだけあのような態度を取る? 兄の
これは七年ほど傍で茜を見てきた俺にとって、大きな疑問だった。
茜の父である
「銀星だって、茜が
天狐が俺の問いを返してよこす。俺はため息交じりに答えた。
「それは母に言いつけられたからだ」
今から約七年前、母から唐突に茜を鍛えるように命じられたのだ。
彼女が鷹山に来なければならなくなった大体の
半分人間の血が入った妖怪や鬼は、どうやっても体は人間に近づく。人間に近づくということはその分弱くなるということだ。妖怪や鬼は何故か人間にはない強い体や回復力、そして攻撃性を持っていて、戦うことを好む。そして弱い妖怪ほど、自分よりも弱いと思う妖怪を痛めつけようとするところがあって、半妖や半鬼というのはそういう対象になりやすいのだ。
だから
もちろん、彼らのなかにも妖怪の血が流れているので、一緒にいて争いにならないわけではないが、それでも外にいるよりずっといい。薬屋も
だが、鷹山で守られるということは、「鷹山から出られない」ということでもある。自分が強くならないからだ。
一生
故に、俺の母は茜を「強くしろ」と言ったのである。俺も母をはじめ、母が懇意にしていた妖怪たちに「戦い方」を仕込まれた。お陰で今がある。
今思うと、これまでも他の半妖たちも同じように鍛えてやれれば良かったのかもしれないが、それは後の祭り。考えても詮無いことだと思うようにしている。
「赤鬼の血を半分継いで頑丈な体をしているとはいえ、酷く痛めつけることが多かったから優しく接するなんてできないだろう。実践を考えて不意打ちもよくやったし……それで仲良くしろと言うのは無理な話だ」
「お陰で強くなったみたいだが?」
「……そうだとは思うが」
実際、茜は随分と強くなった。自分がどれくらいで限界が来るのかもよく分かっている。無理な戦いも挑まなくなったが、その分
「俺と同じように、天狐が冷たい態度を取る必要はないだろうと言っているんだが……」
すると、天狐が諦めたようにぽつりと呟いた。
「誰かが厳しく言ってやらねばならぬだろう」
「え?」
思っていなかった言葉だったので聞き返すと、「茜のことだ。聞いたのは銀星だろう?」と言われる。そして彼は言葉を続けた。
「父親を人間に奪われる、母親とは別に生活することを余儀なくされた。絳祐が
「……」
「本当は暁が茜のために鷹山に残ってやればよかったのだ。その方がこちらも都合が良かった」
「どういうことだ?」
「
天狐の声は冷たく凛としていた。
「邪道が茜たちを放っておかないと? まさか、あの子たちまで鬼墨にするとでもいうのか?」
俺は冗談だと思って聞き返したが、天狐は静かに答えた。
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