【番外編】人の子、赤鬼の心をつゆ知らず ~「ムラセ レイ」の手掛かり~

彩霞

「邪道」の成り立ち

 この世には、人間のほかに妖怪や鬼などの魑魅魍魎ちみもうりょうが存在している。


 人間は今より千年前、妖怪たちの存在が自分たちの身に危険が及ぶことを懸念し、「陰陽術おんみょうじゅつ」という力を手に入れた。陰陽術は妖怪らを封印する術のことを言う。

 人間は陰陽術を頼ることで妖怪たちにおびえぬ生活を手に入れたのだった。


 しかし時代が下るにつれ、術に対して妖怪や鬼たちの抵抗力が増すと、陰陽術を生業なりわいとする一族のなかで意見の対立が起きたのである。


 一方はこれまでと同じように妖怪たちを封印することを良しとし、もう一方は悪しき妖怪たちを全てめっすることを良しとした。これまでにも妖怪を滅することはあったが封印が主だった。それにもかかわらず後者の考えが台頭してきたのは、妖怪や鬼による人間への被害が広がっていたためである。


 幾度となく話し合いは重ねたが、お互いの主張は強く、もはや喧嘩になるのは時間の問題と思われるくらいに溝は深まるばかりだった。

 よって当時の当主は無駄な争いごとを避けるために、一族を二つに分けることを止む無く決めたのである。


 それ以来「陰陽術」は歴史のなかだけの名となり、新しく「陰術いんじゅつ」と「陽術ようじゅつ」という術の名が、人々のなかで聞こえるようになった。


「陰術」はこれまでと同様「封印」を、「陽術」は妖怪たちを「滅する」ことに重きを置いた活動をした。


 さらに時代が下ると、陰術と陽術のなかで考え方の多様化が進み、その度に組織は分裂し、新たな一派が生まれてきたのである。

 そのなかで、陰術から派生したと言われるのが「邪道じゃどう」だ。


 彼らが主に使う術に「操墨そうぼく」というものがある。

 元は陰術のときに作られたもので、その名の通り墨を使った術を用いるのだが、確立したてのころは大した力はなかった。


 しかし墨を用いた術は、変幻自在。己の想像力が働く限り、いかようにでも術を変化させることができるため、邪道のなかに熱心に研究した者がいた。

 そして操墨を強くするために導かれた結論が、「操墨に使われる墨に、強い妖怪や鬼の血肉を混ぜること」により、一層強い術が使えることが分かったのである。


 だが、強い妖怪や鬼を捕まえて墨を作るのは容易ではない。ただでさえ人間に害がある存在なのだ。術者といえども、近くに行けば怪我をする可能性もある。


 そんなとき、邪道の者たちは人間に心を許した赤鬼の存在を知った。

 そしてその赤鬼をこれまで使っていた操墨用の墨が張ってある池に沈め、墨のなかに取り込み、操墨を使うための術具として完成させてしまったのである。

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