電線の上を歩く猫

流雪

全1話

 なんだろこれ…体の中になんか変なエネルギーみたいのを感じる。


 俺は今日で1歳になった猫。

 朝起きたら体に違和感があった。

 だけど体調が悪ってわけじゃないので、いつものように飼い主のおばあちゃんから朝ご飯をもらう。

 ご飯も美味しい。

 食べた後、俺は外に出た。


 外を歩いていると、なんだか体が軽くなっていく気がする。

 4本の足の裏の肉球にどっしり体重を乗せている感じじゃなく、そっと触っている感じ。

 あの木に登ってみよう。

 ん!駆け登ると体が軽い!ものすごく軽いぞ!

 乗った木の枝も全然しなりがない。

 枝の先まで行ってみる。

 うわぁ…前足より細い枝まで行っても枝がしならない。

 さらに葉っぱの上に乗ってみる。

 あっ…乗れた!すごーーい!


 しばらく木の上を歩きまわり、軽くなった体を楽しんだ。

 地面に降り、家に戻ろうとしたら…あれ?

 なんだか体が重くなった。

 エネルギーが切れた感じだ。

 はぁ、ちょっと疲れたかな?

 あぁ、怠いし眠い。このままここで日向ぼっこするか。



 あれから一週間過ぎた。

 この体の変化も分かってきたぞ。

 意識して体の重さを変化できるようになった。

 この力を使い続けられるのは三十分ぐらいで、その後は反動で怠くなって眠くなる事。


 今日は電線に乗ってみる。

 まずは普通の力で屋根の上に登る。そして自分の体を軽くする。

 すーーっとする感じになった。

 そして電線乗った。

 体が軽いから普通に歩くだけだと風やちょっとの振動で落ちてしまいそう。

 なのでちゃんと指で電線を挟みながら電線の上を歩く。

 おぉ、歩ける歩ける♪

 そして電柱の上まで歩いた。

 

 うーん。上の方まで来ると少し風があるなぁ。

 家や木を見下ろしてる。

 電柱の上からだとこんな風に見えるんだ。

 すごいなぁ。いい眺め。


 近くにハトが1羽飛んできた。

 俺から挨拶をしてみる


「こんにちは」

「あぁ…こんにちは…さっき、電線の上を歩いてココに来たの見ていたけど…アンタすごいなぁ」


 へへへへへっ


「まさかアンタ空飛んだりも出来るのかい?」

「いやいや、さすがにそれは無理ですよ」


 その返事にハトは少しホッとしたみたい。

 ハトはすごく俺を見ていたが、しばらくして他所に行った。


 隣の電柱に行ってみよう。

 カササギの巣があるからね。

 カササギは九州の佐賀平野を中心に生息する鳥。

 木だけじゃなく電柱の上にも巣を作ったりするからね。

 電線の上を歩いて巣の近くまで来たら、2羽のカササギが飛んで来た。たぶん番いだな。

 

「あなた何!猫なのに電線の上も歩けるの!…ちょっとウチらの巣には来ないでよ!」


 親鳥が叫んだせいか、巣から雛鳥の声が聞こえる。


「こんにちは。俺なんだか電線の上も歩けるようになったんですよ。なのでカササギさんの巣を近くで見てみたいなぁと思って」

「ダメよ!巣には近づかないで!それ以上来るんなら突いて叩き落とすわよ!あんた追っ払って!」

「おぃ、ウチらの巣に来るんじゃねぇ!」


 親鳥がすごく警戒したからか、雛鳥が大きな声で鳴き出した。


「えーっ。雛鳥を見たかったなぁ。はいはい。分かりました。じゃ戻りますよ」


 俺はそのまま後退りして最初の電柱に戻った。怖い怖い。

 そろそろ時間だし、下に降りて日向ぼっこするか。



 翌日、電線を歩いて電柱の上に登った。

 勿論カササギの巣じゃない。

 しばらくすると、カラスが近くに止まった。


「なんだオメェ、猫なのにこんな所まで来やがって」

「こんにちは。最近ここまで登れるようになったんだ」

「電柱や電線は俺達カラスの縄張りだ。勝手に来るな」


 カラスは突然くちばしで攻撃してきた。

 俺はバランスを崩し、地面に落下した。

 勿論、これぐらいの高さで着地は失敗しないのでケガはない。

 まいったなぁ。

 あのカラス、電線の上からこっちを見ているよ。

 ケンカになるのもイヤだし、このまま帰るか。



 今日は地面の上を歩いている。

 毎回体を軽くする力を使っていたら、後で体が怠くなって眠くなるからね。

 カササギの巣がある電柱の近くに来たら、上の方が騒がしい。

 カササギ2羽とカラス1羽がケンカしている。

 カササギの巣にカラスがちょっかいを出しているみたいだな。

 知らんぷりして通り過ぎていたら、ぱたっと何かが落ちた音。

 振り向いて見たらカササギの雛鳥が落ちていた。


「あー!ウチの子がーー‼︎」

「この野郎!なんてことしやがる!」


 カササギのお母さんが雛の近くに来て、カササギのお父さんは一回り大きいカラスを猛烈に攻撃し、カラスを追い払った。


「あぁ、ウチの子が…」


 雛鳥は地面は這いずりながら鳴いているけど、カササギのお母さんはオロオロするだけで何も出来ない。

 うわぁ…大変だ。

 カラスを追っ払ったカササギのお父さんも雛鳥のそばに来たけど、やっぱり見るだけで何も出来ない。

 その光景を見かねた俺はカササギさん達に言った。


「俺が雛鳥をくわえて巣まで戻してあげましょうか?」

「えっ⁉︎アンタはこの前電線を歩いていた猫だよね…出来るのかい?」

「はい。出来ますよ」


 カササギ夫婦は戸惑っていたが、雛鳥のことを考えたら断れない。


「すまないけど、お願いできるかい?」

「はい。いいですよ」

  

 鳴く雛鳥をそっとくわえて、軽やかに電柱を登った。

 雛鳥を巣に戻してあげたら、落ち着いたのか鳴くのを止めた。

 カササギ夫婦も巣のそばにやってきて、雛鳥の体に異常がないか見るのだった。


「猫さん、ありがとう。助かったよ。どうやらはウチの子の体におかしな所はないみたいだ」

「もうこの子が落ちた時はダメじゃないかと思ったけどよかった。猫さんホントありがとう」

「いえいえ。どういたしまして」



 翌日、昨日の雛鳥がどうなったか巣のある電柱の根元に来た。

 カササギ夫婦が巣の近くの電線にいる。


「カササギさん達、こんにちは。お子さんはどうですか?」

「やぁ、猫さん。昨日はありがとう。あぁ、元気だよ」

「こんにちは。よかったら上がってきて近くで見ない?」


 昨日の一件でお子さんどうなったか気になっていた。


「え?いいの?」

「あぁ、いいよ」

「おいで、おいで」

「じゃ、お言葉に甘えて」


 電柱をすーっと登って巣の近くに来た。


「あらためて見ると可愛いな」

「お前もこの猫さんにお礼を言いなさい」

「…ありがとう…」


 あっ、喋った。かわいい。


 猫の俺は嬉しくなって電線の上を軽やかに歩くのだった。

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