夕凪の帰り道 怪異と古川祥一郎

Koyura

第1話 怪異と古川祥一郎

如月夕凪きさらぎゆうなは中学1年生になったばかりだった。

部活も入らなければならないが、まだ体験入部も始まっていない。早く帰れるならそうしたい。まだ学校生活に慣れなくて疲れている。

小学校より遠くなった通学路だが、片道徒歩20分くらいの道のりを普段通り歩いて帰っていた。


途中神社の前を通る。

それは小学校の通学路とも重なっていた。

少し色の剥げた赤い鳥居が道路から少し入った所に立っており、そこから百数十段あがると白木の鳥居があって、奥に本殿があったはず。


その百数十段の階段がネックで登った事は今までで数回ほど。小学生の時、友達と駆け上がり競争をした。

思ったより急勾配の階段で途中でやめときゃよかったと後悔した。登って降りたら二人とも膝がガクガクしていて、お互いを見て笑い合った。


神主も常駐していない寂れた神社だが、初詣の時と不定期にお参りする為か登っていく人を見ることがある。


いつも通り、鳥居の前を通り過ぎようとした時、何か違和感を感じた。

ふと立ち止まってみると、鳥居の真下に黒い水溜りのようなものができている。


灯りもない薄暗い所なので、水溜まりが黒く見えるのだと彼女は思い、そのまま行こうとした。

やはり、何故か気になって、水溜りの淵まで近付いてみた。


水溜まりは縦横50センチほどの大きさで、暗く見えるのでは無く、墨汁のような黒い液体の様だった。

不謹慎にも誰かが捨てたのだろう。


夕凪は信仰心が厚いわけではないが、神様に敬意は払っている。

鳥居の真ん中だし、参拝する人が踏んでしまったらと思うと、取り敢えずそのままにして置けなかった。

水溜りの周りの土を足で集めて被せてみた。ちょっと行儀が悪かったが単純に土で埋めようと思ったのだ。


だが、端っこさえ埋まらないし、黒いので覗いても深さがわからない。

夕凪は諦めて、最後に集めた土を水溜りの中目掛けて払った。


その時勢いが良すぎたのか、足を戻そうとして水溜りの端に浸かってしまった。


底が無かった。


身体のバランスを失い片足から沈み、もう片方も浸かってしまい、そのまま沈みそうになるのを水溜りの外側に両腕を伸ばして突っぱり、上半身は何とか沈まずに済んだ。


夕凪は冷や汗をかきつつ、誰もいないが文句を言った。

「誰よ!こんなとこに落とし穴掘って!悪質にもほどがある!」


黒かったのは底が深かったからだと思った。

夕凪はぶつぶつ悪態をつきながら、ようやく外へ出た。

出る時に頼ったので胸から下と袖口が土で汚れてしまった。

「あー、お母さんに怒られるだろうな、上は土まみれで、下はこんなに濡れたら?」


立ち上がってスカートを見て驚いた。スカートはもちろん、下着も足も何もかもが、ちっとも濡れてない。

「水、だったよね?」

スカートを振ってみたが何も付いてなさそうだ。


しかし、寒気がして夕凪の足がムズムズしてきた。

なんだろう?

かゆいのとは違うけど違和感があって落ち着かない。


足を見下ろして愕然とした。

立ってる地面が爪先越しに見えるのだ。そして段々と足首まで進んでいく。


「うそ、私の、私の足が、無くなってく!」

震えが止まらない。足が透明になっていってる!

「どうしよう?お母さん!」

思わず叫んで家の方へ向いた。

足元は怖くてもう見れず、泣きながら取り敢えず思い切り走りだそうと―

「待って」


後ろから呼び止められた。


振り返ると薄茶色の髪と透き通った茶色の目が印象的な細っそりとした若い男が、片手を夕凪の方へ向けて立っている。

「何⁈」ほとんど叫んでいた。

「ちょっと尋ねたいことがある」

男はにっこり笑って、更にその手を上げて彼の後ろを指差した。

「あれ、君の何か?」


「何かって?!!!!」悲鳴にならなかった。


優しげな風貌で微笑む男の頭上に、人間の頭の10倍位の大きさで、平たくて丸く、周りに房の付いた真っ黒なものが浮かんでいる。


「わた、わたし、関係、ない」身体が動かないしブルブル震えてちゃんと喋れない。

男は怪訝な顔をした。

「でも、君は下半身食われたでしょ?」

「ひぃー」

下を見ると臍の下まで透明になっている。


「何で、何で⁈」

「こいつが呑み込んでいる。呑まれて気が付かなかった?」


「そんなの、気付くわけ無い?」

夕凪はさっきの水溜りを思い出した。

「さっき鳥居の下にあった黒い水溜りみたいなのにハマった!」

「なるほど」

男は静かにふむふむと納得していた。

「どうしたら返してもらえるの?」夕凪は泣きながら男に尋ねた。

男はキョトンとして

「何言ってるんだい?」と両手を上げた。


「これは、残りを食おうと君を追いかけてきたんだよ」

両手を勢いよく下ろした。

「キャーッ、早く言ってよ!」再び逃げようとして夕凪は気付いた。

「足が動かない!」正確には足のある場所に足が無い。

「食べられたもんな」

男は事実を冷静に言うと頷いた。

「何呑気なこと言ってるんですか!あなたも食べられちゃう!」


「僕より、君が危ないね。味を知られてるから」


「味って、そんなー、神聖な神社の鳥居の下に、そんなのいるって普通思わないわよー」

夕凪は大泣きした。


「それは間違ってるよ。神社ってね、悪いやつを出さないように建てられてるんだよ」

と男は「そんな事も知らないの?」と不思議そうに言う。 


不思議なのはこの男だ。真後ろに化け物がいるのに平然として全く緊張感がない。

「鳥居の下だから、近寄らなければギリギリセーフだったのに」


泣いている場合では無い!夕凪は必死で言い寄った。

「あなた、本当はアイツやっつけられるんじゃないの?」

男は少し困った顔をした。

「ああ、できない事は、ないかな」

「やっぱり。なんで」


今度は、うっそりと笑った。

「ただ、このまま消すと、君の下半身は永遠に消えたままになってしまうけど、いいかい?」

夕凪の喉がヒュッと鳴った。


「良いわけないでしょ!これじゃ動けないし、足も無いんじゃ、幽霊と変わんない。

もしかして、あなた、あれの仲間なの⁈」


「まさか!単にたまたま通りかかった人間だよ」

「それ嘘でしょ〜」

とてもそうとは思えない。


この瞬間、夕凪は男の表情が、柔和な笑顔じゃなくて胡散臭い笑顔に思えてきた。


「じゃ、何であなたの後ろにいるままなの?」

彼は後ろをチラッと見た。

「見えない?」

「え?」

「そうか、普通の人には見えないのか、いや、今の君なら見える筈だけど?」

ふふっと笑った。


その言葉に夕凪は怖いながらも目を凝らした。


男の後ろと黒色化け物の間に茶色の半透明な壁が薄くできている。

「壁?」

「うん、見えたようだね。今それで足止めしてるんだ。ただ長くは持たない」

「じゃあ、それが壊れたら」

「パクリと、君の上半身、僕の順番で食べられる」

男は人差し指から小指まで揃えると人差し指と親指を何度か合わせた。パクパクと食べるジェスチャーだ。

「ひぃー」

ゾッとして夕凪は自分の身体を抱きしめた。


「なんで、そんな冷静にいられるの?」また涙が出てきた。

「このままじゃ、食べられるのに?」

「それについてなんだけど、もう一つ別の提案があるんだ」

男は首を傾げた。「何?それで私達助かるの?」

「多分ね。あれ?」


言った途端、ピシッと音がして壁に亀裂が入った。

「ねえ!ヒビが!割れそう!」

男はのんびりとゆっくり言った。

「それ、君に、多大な負担が、かかるんだ」


ピシピシッ。ひびの入った所から破片がポロポロ溢れてくる。

「壁やばいよっ」夕凪は気が気でない。


一気にヒビが大きくなる。後ろの化け物は激しく回転し始めた。


「それでも、承知して、もらえる?」

よく見れば男の表情は笑顔のままだが、両腕が細かく震えてきている。

「え、もうダメなの?」


「ちょっと怖いかもしれないけど、いいかな?」


夕凪は耐えきれなくなって叫んだ。

「いいから早く何とかしてー!」


「引き受けた。早速だけど、お願いが」


パリンッ

壁が割れた。


「先に食われて」


にっこり笑う男を黒い化け物が飛び越えて夕凪の所にやって来た。

「え?」


黒く丸い中心が夕凪を頭から飲み込んだ。


目の前が真っ暗になって身体が回転して上下左右が分からなくなる。

『何なのあの男!結局食べられちゃったじゃない。このまま死んじゃうんだ私…』

ぼうっとなって意識が遠のいた。


「何やってるんだ!早く探して!」

遠くから声がする。

「君の半身はどこ?」


夕凪ははっと我に帰り、取り敢えず辺りを見回した。

周りは相変わらず真っ暗な中、目を凝らすと僅かに白く光る2本の棒が見えた。


足だ!

夕凪は必死になって無い足をバタバタ動かして両手を伸ばせば、向こうも彼女の方へ近付いてきて、ついにそれを掴んだ。


「あった!掴んだ!」無我夢中で叫んだ。


「よし、出ようか」

目の前に男が現れた。全身が薄く光っていて髪も目も金色に見える。

「よく頑張ったね」グッと抱きしめられると、辺りが眩しくなって目を閉じた。


「大丈夫?」

声をかけられて目を開けると横に男が立っていた。

「えっと?」夕凪は道の端に寝かされていた。

彼は腰を折り、上から覗き込んでいた。

「足だよ、感覚ある?」

「あし?足!」

夕凪はやっと目が覚めて上半身を起こした。下半身を見る。

「あったー!」震える手でそっと爪先から触っていく。

「ありました!感覚も!質感も!」

夕凪はついスカートをめくって太腿も確認した。


そこににゅっと男の手が伸びてきて、おもむろに夕凪の太腿を軽く掴んで、そこからふくらはぎまで揉んだ。

「うん、やっぱり、良かった」

男は手を離すとそう言ってにっこり笑った。


夕凪はスカートを勢いよく下ろした。

「何触ってるんですか!」

「え、あるかどうか確認して欲しかったのでは?」

男は平然として、しれっと言った。

「違います!やっぱり良かったって何が?」

男はすすすと後退していく。その先は神社だ。


「そりゃ、足を取り戻せた事だよ」

夕凪は立ち上がった。男はくるっと向きを変えると鳥居を潜って階段を登り始めた。

「そっちはダメなんじゃ」


男は振り返ると夕凪をじっと見下ろした。


夕日が神社の上から差し込み、男の顔は陰っていたが、目は金色で髪の毛は赤茶色に光って見えた。その様子は幻想的であり、この世のものでは無い感じがした。儚く消えてしまいそうな。


「今日からここに住むんだ」

「え、でもそこは、悪いものがいるんでしょ?」

「そうだね、いっぱい居た」

夕凪は目を見開いた。


男は悪い笑顔になった。

「それでしてたらさ、その時、一つ下に落っことしてしまって」

夕凪はようやく、あの時、男がすぐ現れたことに気付いた。道路には誰もいなかった。


「そのままにしといても良かったんだけど、拾いに来たら」

「もしかして」

黒沼くろぬまに片足突っ込んで沈んでいく君が上から見えたんだ」

「黒沼って名前なんだ。え?見てたんですか⁈」

「うん、僕が名付けたんだけど。本当に綺麗な足してるよね、きみ。遠くからでもわかったよ」

夕凪はカアっと顔を赤くして鳥居の前まで来た。


「つまり、あなたのせいで私はあの化け物に食べられるとこだった⁈そして、良かったのは見てた私の足の触り具合?」

男はその言葉を考えて満足そうに言った。

「概ねあってるな。綺麗な足だから触りたくなって、助けようと思った」

「ちょっと、少しは否定しなさいよ!!」


男はまた数段登った。

「でも、君が下半身取られるから、黒沼は大きくなってしまったんだよ。君は持っている力が元々強いのかな?あんな早く壁壊されるとは思わなかった」

「不可抗力です!壁はあなたがチンタラ喋っているから!」


「退治するかしないかは最終的に自分で決めなきゃダメなんだ。憑かれた本人の意志が必要で、その後なら僕は手伝える。でも」

男はブフッと吹き出した。

「もっと怖がらせてからと思ってたのに。最後笑いを抑えるのに必死で、手が震えてきてさ。壁維持するのに集中力が途切れそうで大変だったんだ」


夕凪の顔は最大限赤くなったが、逆に頭の中は真っ白だ。

男は階段を登り始めた。

「全部わざとやってたのね!!めちゃくちゃ怖かったのにっ!!あなたの思った通りに!死ぬかと思った!!」


すぐにでも後を追いたかったが、さっきの事と男のも雑なのがわかったのもあり、中に入れず鳥居の前で地団駄を踏んだ。

「ちゃんと助けたでしょ?」

「今思えば悪意しか感じられない!」


「じゃあ、神社の掃除を今日中に全部済ますから、遊びにおいでよ。助けたお礼にお茶とお菓子持参してね」

トントンと軽く階段を登っていく。

「行かないわよ!」


また、男が振り返った。

「そんなこと言わないで、如月夕凪ちゃん?」

「え、どうして名前?」

「通学カバン置きっぱなし」カバンのことはすっかり頭から抜けていた。

「中身見たんですか!」

「鳥居に立てかけといた」


夕凪は慌ててカバンを取ったが、蓋のベルトさえ開けた形跡が無い。


「黒沼はどうなったの?」

「小さくなったから消した」即答した。


ぞわぞわと得体の知れない寒気が浮かび上がってきた。

この意地悪なニヤケ男と早く離れなければ。

仏のような柔和な顔でさっきの怪異を手玉に取っていた、この男こそが一番恐れる相手だと!


「僕は古川祥一郎。よろしくね。またなんかあったら助けてあげてもいいよ。

そうそう、帰りは特に寄り道はよくない。本人の意識が家に向いちゃって、隙が出やすいから。

一旦帰宅してからおいでね」

「寄り道はもうしないし、二度と頼みません!!」

堪えきれず夕凪は叫ぶとダッシュで帰っていった。


「あらら、まだ、話あるんだけどなあ」


男は時々何かを踏み潰しながら、階段を軽快に登っていく。

「僕の経験から言うと、一度でも怪異に関わったら、ずっと関わらざるを得なくなるんだよ、夕凪ちゃん!」


それより、住むことになった家と周りの掃除は今日中に終わらせて、結界を張らなければ落ちついて眠れやしない。

今日は予定外に、余計な事に力を使ってしまったので、結界が家の周り位しか張れなくなってしまった。


前住んでいた世界から強制的に転移されて新しい世界に来る度、同じ事をしているので慣れたものだが、毎回面倒くさい。


「でも、今回は面白そう。いい暇つぶしになるかも」


家に戻った夕凪は、案の定土で汚れた制服を見られて、しかられた。

「まだ、そんなに日にち経ってないのに、もう汚して!土や泥は落とすの大変なのに!」


しかも、必死で黒沼と意地悪でHな退魔師の話をしたのに、やっぱり信じてもらえなかった。


「遅く帰ってきて、そんな言い訳するなんて!でもゆうちゃん、もしかして文才あるかも!その話小説にでもしてみたら?」

冗談じゃない。早く忘れたいのに人の気も知らないで。こっちは、そんなあなたに助けを求めようとしたのに!


「そんで、その人今日からあの神社に住むんだって。お化けとか退治してもらえるから、誰かそんな人がいたら教えてあげて」

どんだけ意地悪な人か広めたい。私も悪よのう?そんな事無いよね。真実だもの!


「まあ、あんな階段のあるところに?大変ね」

母親は後半をスルーした。

「制服、乾かして、泥を叩いてから洗うから、外に干しといて頂戴」

「お手間かけます、スミマセン」

どろのついた制服を見てため息をついた。


その晩、早めに寝ようと明日の用意をする為にカバンの蓋を開けた。

「ん?」サイドポケットに何か入ってる。

四つに折り畳まれた習字に使うような和紙だった。

「いつの間に」

名前を知られたくらいだからこんなの紛れ込ませるのなんてお茶の子さいさいなのか?本当に古川について考えたく無い!


広げてみると真ん中にデカデカと『古川祥一郎』と墨で書かれている。意外に達筆だ。

名前の周りには草書体を更に崩したような文字が朱色で書かれているが、それは読めない。


「何これ、ここまでして名前覚えさしたいの?」

紙をひっくり返すと隅に鉛筆書きで

『窓かドア、来たら貼る事』

と小さく記されていた。


気味が悪くなって捨てたかったが、黒沼を思い出したら怖くなって、一応枕元に置いといて寝た。


寝たが夜中過ぎから寝られなくなった。

窓をコンコン叩いて「入れて」と呟くモノや、ドアをガチャガチャ回すモノのせいだ。

その度に貰った和紙を貼るのだが、ドアに貼ると窓から、窓に貼るとドアから、ときりが無い。一方だけにすると貼ってない方が一層激しくなる。 

攻防は明け方近くまで続いた。


朝睡眠不足でふらふらになっていて、休みたかったが許されない。しかも怪異が起こっていたのは自分の部屋だけで誰も気付いていなかった。


なんとか家を出て通学路を歩いていると、遠巻きにして何かが着いてくる。

嫌な予感がして紙をカバンに入れといてよかった。


神社の前を通りかかって驚いた。

昨日の怪しい薄暗さは消え、朝日が差して、清浄ささえ感じられる。

目を凝らすと、鳥居から階段の上まで白い何かが覆っている。

『本当に掃除終わったんだ』

悔しいけど、古川の力は本物だと認めざるを得なかった。

自分の身体が元に戻っているのに、何故結界が見えるのか、その不自然さは全く気付いていない。

会いたくないので小走りで通り過ぎた。


学校へ行っても落ち着く暇がなかった。

授業中は外から窓越しに、目だけはっきり見える黒い影が見える。トイレは上から覗かれる。

クラスの子達何人かに憑いてるモノが、こっちをじっと見ているのがわかる。


これは、駄目だ。絶対古川が仕掛けているに違いない。

分かっていても何もできない。

家に帰って夕飯も食べずに寝てしまったが、やはり夜中から騒ぎだし、そこから眠れなかった。


もう一晩がんばったが、紙を見ると字が消えかけているではないか!

古川が仕掛けたのなら、これであの現象は収まるはずだが、違うなら確実に入ってくる。

腹が立つけど、もう、我慢できなかった。



お茶と菓子を持った夕凪が、階段を汗水垂らして死にそうな顔で登って来るのは、3日後だった。


夕凪の気配に気付いた古川は、ニヤニヤしながら階段の上に現れて、遥か下にいる彼女に「頑張れー」と声をかけてやった。ムッとしてるのが分かった。


夕凪の後ろに何か憑いているのが分かったが、下の鳥居に入ってすぐに、古川の結界で消えていった。

本人が必死でまだ気付いて無いので、あえて言わないでおく。


「せっかくお土産持って来て貰ってるのに、受け取らなきゃ悪いよね」


お茶あるなら、湯を沸かしとこうかな、と夕凪が上がってくるのにもう少し時間がかかりそうだったので踵を返した。




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