いっしょうぶん
お題:死にぞこないのギャグ 制限時間:30分
いや、人生は最後には喜劇に仕上がるように出来ているんだよ。
それが彼の口癖だった。
某府、某公園のホームレスのテントが並ぶ区域。
ホームレスのホーム。確かに喜劇かもしれない。
「最近、ジュウさん見ないなぁ」
ドラム缶の焚き火を囲むホームレスの一人が言った。
「ジュウさん、先週死んだよ」
「そうか……」
さして驚く様子でもなく、どちらかと言えば懐かしむように言った。
「ジュウさん、いつも何か書き物してたなぁ、熱心にノートに何かいっつも書いてた」
「ジュウさん、タコ部屋には行ってなかったもんな」
「ジュウさんは書き物で稼いでたらしい」
「本当はこんな場所居なくてもいいくらい、真っ当に、十分に稼いでたみたいだな」
口々に彼の話をする。
「そういえば、ジュウさん、俺たちに何かあるたびにこのボトルくれたよな」
「ああ、俺も貰った」
「いい奴だった」
特大サイズのペットボトル入り焼酎。
「あんないいもの時たまくれる、変わった奴だったな」
「なんだったんだろうな」
「炊き出しにも行って、俺たちとは違っていつも身奇麗にして」
「よく銭湯にも行ってた」
「あいつ、薬もやらなかった」
「どうしてここにいたんだろうな」
「最後まで何も聞かなかった」
「なあ、お前ジュウさんとよくつるんでたじゃないか」
突然話を振られる。
「なにか聞いたことなかったか」
分からない。
「たしか、物書き目指して、何かしてた話は聞いたかなぁ」
それだけだ。
「わかんねぇなぁ」
「俺、暫くジュウさんに食わしてもらってたこともあったなぁ」
「俺もだ」
「ジュウさん、ずっと物書きしてたよな」
「たまにスーツ着てたしな」
「似合ってなかったな」
「そうだな」
「するってぇと、ジュウさんのテント、空けちまわないとなぁ」
「皆で見に行くか」
「そうしよう」
皆でゾロゾロと彼のテントに向かう。
彼のテントは、いつもと変わらないように見えた。
「なんだ、この箱」
そこには、私の片づけを頼む、と書かれ、ガムテープで閉じられた大きなダンボールが置いてあった。
中には、酒の缶と、服、それぞれの名前が書かれた十二枚の封筒と、みんなに、と書かれた封筒が入っていた。
それぞれの封筒の中には現金と、手紙が入っていた。
彼の身の上話、それぞれに向けての手紙、そして、この箱の中のもので私の弔いをして欲しい、というものだった。
酒と缶詰で、皆で弔いをした。
箱の底に、紙縒りで留めた、紙の束が入っていた。
その短編集は、どれもなかなかに読ませるものだった。
それを皆で読みまわして、現金をどう使うか夢ような話をして、弔った。
短編集の最後に、こう書いてあった。
『人生は最後には喜劇に仕上がるように出来ているんだよ。』
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