即興小説ログまとめ
りんたろう
プライスレス、とはいかない。
お題:高い口 制限時間:15分
「お兄さんは、何の仕事を?」
繁華街から一本通りを外れた、行きつけにしている落ち着いたバーにて私は一人の青年に話を切り出した。
「いえ……その、ほとんど無職の様な、ものです」
重たく返事を返す彼。しかし私はその返答がおよそうそに近いものであると知っていた。
話は30分ほど遡る。
「マスター、ここの常連さんで面白い人居ない? このところもう古い友人としか話してなくてさぁ」
日常に退屈しつつあった私はマスターに半ば絡み酒の様な形で話を振ったのだった。
「面白い人ねぇ、そうは言わはっても……あぁ、若い男性でね、一人居らはりますわ、紺に赤いドットのスーツ着てますわ」
奇抜すぎる格好の情報に、俄然興味がわく。
「え、それどんな人?」
しかしマスターは壁の時計に目をやると、
「今日……木曜でしょ、もう来はるんとちゃうかな」
それだけを言い残すと、マスターは他の客に呼び止められて行ってしまった。
そして私の隣の席に座ったのがまさに紺に赤のドットのスーツ、ジャケットではなくセットアップのスーツ姿の青年だった。
「いやいや、そのスーツ、わざわざ仕立てたものでしょ?」
「はぁ、まぁ……」
口が重い。
「マスター、彼にモスコミュール! 一番いいウォッカで」
こうなれば金である。金額でプレッシャーをかけてみる。
すぐにモスコミュールは彼の前に置かれた。
「ありがとうございます、実は私、お笑い芸人で。舞台を中心に活動を。」
プロの口は高い、のだ。
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