第53話 帰還
慌てて王都へと戻ってきた俺たち。
道中でジャグラとイグナーツがにらみ合っており、なかなか落ち着かない空気だった。
リナもそわそわしながら、どちらを止めたらいいのかわからずに、二人の間を行ったり来たりして、最後には泣きそうな目を俺に向けてくる。
「そ、その……、喧嘩はよくないと思います……」
「まぁ、ほっといてやれ。これは喧嘩じゃなくて、仲がいいからじゃれ合ってるだけだ」
「そうなのですか……? なんだか、本気で喧嘩しているように見えますけど……」
「見た目だけはな。でも、二人ともほとんど怪我をしていないだろう?」
「ふ、普通に血を流していますよ……?」
「でも、痛そうではないだろう?」
「えっと……、楽しそうに笑ってます……」
ジャグラとイグナーツが殴り合っていたが、二人ともその表情は笑みを浮かべていた。
「で、でも、どうして……?」
「よく言うだろう? 喧嘩をするほど仲がいいって」
「そういうことなのですね。お二人ともとっても仲良しさんなのですね」
リナが嬉しそうに微笑むとジャグラが大足でこちらに向かってくる。
「そんな訳あるはずないだろう! あんな筋肉だるまと一緒にするな!!」
怒りの表情のまま、声を荒げたのでリナが驚いて体を震わせていた。
「そ、その……」
「あっ、す、すまない。驚かせてしまったか?」
「いえ、大丈夫です……」
なんとも言えない空気になっていると、俺の隣にはイグナーツがやってくる。
「がははっ、魔族はなかなかいい特訓相手になりますな」
いつの間にかイグナーツは上半身が裸になっていたが、これもよくあることなので、俺はそれ以上反応しなかった。
ただ、リナにとっては驚きの出来事だったようで、すぐに顔を背けていた。
「そ、その……、ど、どうして裸に?」
「んっ? そういえば気がついたら吹き飛んでいますな。がははっ……」
「がははじゃねーよ! 何、リナの教育に悪いものを見せているんだ!!」
ジャグラが思いっきりイグナーツの頭を殴りかかる。
そして、喧嘩の第二弾が始まっていたが、もう止めるのも面倒なので、リナを促して先に王都の方へ向かって歩き出していた。
◇
王都に帰ってきたが、まだブライトの兵は来ていないのか、いつも通り静かな光景がそこに広がっていた。
「ふぅ……、間に合ったか……」
「間に合った?」
隣でリナが首をかしげる。
そういえば、彼女にはここに来た理由は特に話していなかった。
まぁ、話す必要がなかったというのが正しいかもしれないが。
「まぁ、気にするな。それよりも冒険者ギルドを覗きに行くぞ。一応依頼の達成も報告しないといけないからな」
「依頼……?」
「あぁ、リナが浄化してくれたドブの件だ。しっかり働いてくれたから、その分の金は払うからな」
「い、いいのですか?」
「働いてくれたからな。その分を金で払うのは当然だろう?」
「が、頑張りますね……」
「まぁ、リナにしか出来ない仕事はたくさんあるからな。頑張ってくれ……」
「ちょ、ちょっと待て! さすがにリナを一人にするのは危ないだろ! 俺が一緒に行く」
ジャグラが慌ててリナの隣に来る。
すると、リナが嬉しそうな表情を見せてくる。
「まぁ、そのあたりはジャグラに任せるよ」
ジャグラの様子に苦笑を浮かべながら、俺は冒険者ギルドへと入っていく。
すると、ギルド内はいつも以上に騒々しい様子で、人も多くなかなかシャロがいる受付カウンターまで進むことが出来なかった。
「す、すごいところですね……」
リナは苦笑を浮かべている。
ただ、小さなリナの体はこの中を歩くには不便で、近くを歩いていた人にぶつかって倒れてしまう。
「きゃっ!?」
「す、すまない。大丈夫か、嬢ちゃん」
リナとぶつかった男が手を伸ばして彼女を起こそうとする。
すると、その間を割って入るようにジャグラがその男をにらみつける。
「おいっ、てめぇ。一体何のつもりだ!?」
ジャグラがその男の胸ぐらをつかむ。
すると、男の方も驚愕の表情を見せていた。
「ま、魔族!? ど、どうしてここに?」
男は腰にある剣を抜こうとする。
すると、その瞬間にジャグラの前にマリナスが。男の前にはハーグが。
気がついたら懐に入って、いつでも攻撃できる態勢をとっていた。
「そこまでだ。このギルドで暴れるなら容赦しないぞ」
「そういうことね。いくら顔見知りでもシャロちゃんの迷惑になるなら容赦しないわよ」
二人が現れたことで、ジャグラと男はその動きを止め、額から冷や汗を流していた。
「ま、待ってください! そんなことをしたらだめですよ!!」
店の奥から声が聞こえたかと思うと、シャロが慌ててやってくる。
その両手にはたくさんの料理を抱え、それでいて、たくさんいる人をうまくかわしながら向かってくる。
その身軽な姿を見ると、かなりここでの仕事に慣れたんだなと思わず感心してしまう。
「まぁ、そういうことだ。二人とも引いてくれないか。ジャグラは後から叱っておく」
「ちょ、ちょっと待て! 元はといえばこいつが……」
「よく見ろ! その人はリナを助けようとしてくれたんだぞ!」
「うぐっ……」
ジャグラが唇をかみしめる。
しかし、男の方はジャグラをにらみつけたまま、その視線を離さなかった。
「やはり、ブライト様の仰っていたことは本当だったのか。この国に魔族が……」
その言葉を聞いて、俺も思わず息をのんでしまう。
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