地球を侵略しようとしたら恋愛を知りました
へいたろう
1話「難攻不落の星、『地球』」
我はその瞬間、人間で言う所の『恋』と言う物を。自覚した。
――――。
我の名前は『ラブ・レバルベリール』。
ラブと呼んでくれたまえ。
我は、地球侵略を目的としたスターテ星の侵略者である。
太古から我らは『地球』と呼ばれる惑星へ何度か侵略を目論んできた。
しかしながら結果は惨敗。
向かった先遣隊が、毎度の如く連絡が取れなくなり、謎の死亡が確認されている。
何とも不吉な失敗を、我々は何度も繰り返してきた。
「――――」
そんな事で派遣されたのが我だ。
我は機動士部隊、ゼロの隊長であり。
諜報、戦闘、家事と数々の分野のエキスパートである。
そんな我が王の命により。家族と別れを告げ、今こうして宇宙を彷徨っている。
現在我は、地球へ向かう片道切符である。小型宇宙船に乗り込んでいる。
故郷が見えなくなってはや二時間と二十と三分と三秒だが。
我は着実と、あの難攻不落の星、『地球』へと向かっている。
どんな試練が待ち構えているのか。
どんな世界が広がっているか。
どんな脅威が存在しているのか。
我には全くもって想像が出来ない。
今まで送られた先遣隊の数は三部隊、そのうちの二部隊は既に死亡が確認されている。
最後に送られたデータによると。
鉄と呼ばれる成分が固まった物体に引かれたか、大型生命体-INU-に捕食されたと聞いている。
ちなみに我々は小型故、消化には問題ないらしいぞ。
何なら栄養が豊富らしい。
これまでの調査や、先遣隊の犠牲で得た情報から。
我には新たな武装を使った新たな侵略をと命が下った。
そう、これは。
いかにして我が、あの難攻不落と呼ばれた星『地球』を侵略するのか。
これはそんな戦いの、物語である……。
――――。
我はその瞬間、人間で言う所の『恋』と言う物を。自覚した。
と言う事で、冒頭の文に戻る事になるのだが。
どうやら我は、さっそくある失敗したらしい。
まず、説明しなきゃいけないことが多いと思うが、黙って聞いてくれ。
我に与えられた新たな武装、その名を『人間擬態化装置』と言う。
その装置はこの地球に住んでいるという人間をスキャンし、外見データを採取。
その姿に我の姿を変えることが出来るという。
如何にも侵略者らしき装置なのだ。
この装置さえあれば、我は人間の姿でこの地球を歩くことが出来る。
こうして地球を歩き、地球のデータを送り、故郷にいる同胞へこの星の実態を知らせる。
それが我の使命だ。
しかし、ここで問題が起こった。
まず我らは小型故、この地球では文字通りの虫けらだ。
だからこその『人間擬態化装置』なのだが、この装置には重大な欠陥が存在する。
それは――最初に我が目撃した人間の外見データしか採取出来ないという事なのだ。
採取した外見データは、齢八歳の女児のデータであった。
我は意識を取り戻した時、既にその姿へなっていた。
なんて事だろうか。と我は絶望した。
「……弱そう」
そう弱そうなのだ。
我はこれでもプロフェッショナル、要は天才だ。
だからこそ、せめてこう、イケメンな筋骨隆々の男児が良かったのだが。
何だこの姿は。
なんだこの小さな手は。
なんだこのすぅすぅする服装は!!
「ふざけるなあああ!!!」
何だこの可愛い声はあああああ!!!!
「ガクッ……」
どうしてこうなった!?
どうして我はこんな、こんな小さな生命体になってしまったんだぁ!
くそう、こうなったら。こうなったら!!
「止められているが、こうなったら仕方がない。もう一度装置を使って」
『人間擬態化装置』は使用回数に制限がある。
なんせ人間の外見データが膨大なのだから、二人目の外見データを採取するとなると。
恐らく何らかのエラーが発生し、最悪の場合は死ぬだろう。
しかし、
「我が名誉の為、我がプライドを守る為、致し方ない!!」
我は全ての分野でエキスパートなのだ。
だから、だから我は、肉体を手に入れる!!
すると、ふと、目の前を通りすぎた人間がいた。
――女だ。
「……ふんっ」
女だが、彼女は何か苛立っている様子だ。
それにあれは、歩き方が女っぽくない。ガニまた? スカートなのに。
でもあの女、とても容姿が整ってやがる。
美人なのに、スタイルもいいのに、態度のせいで全部台無しだ。
……だが、いい。
見た目よし、性格も我好みで悪くなさそうだ。
「あいつになるか」
我は小さな機械を取り出し、それをその女に向けた。
そして我は――起動スイッチを押した。
機械の稼働音がする。
機械が振動を始める。
同時に、データが我の頭に流れ込んでくる。
これは外見データ。
これはあの女のスペックの統計。齢十七歳か、にしては見た目が出来過ぎているが。
そしてこれは……。
「…………」
ん?
「えっ……?」
ふと、心が、心臓が、沸騰しそうな違和感を感じた。
どんどん体が熱くなっていく。
どんどん息が荒くなっていく。
あの女のデータを読み取る度に、焼き付ける度に。
頬が……赤くなって……。
なんだ、この感覚は。
心臓がバクバクって、いっているぞ。
どういう事だ?
我は一体――。
「おい中村!」
「僕の名前は中村ともきだ」
ふと、横でそんな言葉が響く。
我は小さな体のまま、建物の隙間から声の方向へ視線を向けると。
「中村ともき!」
「そうだ、僕の名前は中村ともきだ。で、要件はなんだい?」
我が先ほど取った外見データの元の女が、ピリピリとしながら。
一人の男に声を掛けていた。
――バクバク。
ん?
「お前、今週の土曜日暇か!」
「……別に暇だけど、勉強はもう教えないよ」
女は怒ってるように、少し大きな声で言う。
それに対し、男は冷静と言葉を返し、メガネをクイッと上げた。
――バクバクバクバク。
……ん?
ん。
「水族館、いかねぇか!!!」
――バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク。
んんんんんん???????
「んんんんーーーー????」
これは、何だっ。
分からぬ、我には分からない。感情。感覚。振動。
どういう、どういう事なのだ!
これは、これは。まさか……。
「あの女、惚れているのか!? あの男に!」
そう。
二度目の使用によりデータのキャパシティーをオーバーした『人間擬態化装置』は。
熱暴走、データ破損、部品融解の末。辿り着いた結末は。
外見データ+αで、あの女の最も大きい激情を、採取してしまったのだ。
我はその瞬間、人間で言う所の『恋』と言う物を。初めて理解した。
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