演劇部を作ろう! ~陰キャで本の虫なわたしが、陽キャのクラスメイトに誘われまして~
うつせみ
序章 小学校時代の千秋
第1話 同調圧力
五月中旬の、よく晴れた暖かい日の昼休みのことだった。
「
五年一組の教室、その窓際後方に位置する自分の席で児童文学を読みふけっていたわたしに、担任の先生がそう声をかけてきたのは。
その瞬間、先程まではまったく聞こえていなかった、校庭で遊ぶ児童たちの喧騒が耳に入ってくるようになる。
「…………」
先生の問いに、わたしは答えない。
せっかく小説の世界に心地よく浸っていたのに、邪魔をされて気分が悪いからだ。
「本なんか、うちでも好きなだけ読めるでしょ? せっかく学校に来てるんだから、外でみんなと遊ばなくっちゃ」
と言って、先生はわたしから本を取り上げた。
「あっ……か、返してください……!」
わたしは一瞬、呆気に取られるものの、すぐさま我に返ってそう要求する。
「ダメよ。健全な精神は、健全な肉体に宿るって言うでしょ? 本ばっかり読んでたって、心は豊かにならないのよ。外で遊んできたら、帰りの会の後に返してあげるから。ほーら!」
と、先生はわたしが座っている椅子を強引に引いた。
(先生はいいことをしてるつもりなのかもしれないけど、余計なお世話だよ……)
そう感じつつも、抵抗する気力を失ったわたしは、黙って席を立つ。
大人の言うことに逆らって、いいことなんて何もない。
たとえそれが理不尽な要求だとしたって、無力な子供は従うしかないんだ。
彼ら、彼女らには何を言っても、「人生経験の浅い
(帰りたい……)
重たい足取りで廊下を歩きながら、わたしは思う。
本を読むのが好きで、運動が苦手なわたしだけど、別に一人でいるのが好きなわけじゃない。むしろ寂しがりで、誰かに必要とされたいって気持ちは強いほうだ。
でも――わたしはいわゆる、「グループ」に、いつも一緒に行動している特定の集団に所属しているわけじゃないから、クラスのみんなと一緒にいても、どう身を振ったらいいのか、誰の味方をしていいのかわからなくって、居心地の悪さを感じてしまう。
だから、同級生との会話がまったくできないってわけじゃないんだけど、誰かと一緒に登下校したことや、誰かの家へ遊びに行ったことはほとんどない。
要するに、友達って呼べるほど仲のいいクラスメイトがいない。
(友達って、どうやったらできるんだろう……)
階段の踊り場にある窓から、ドロケイで遊ぶ同級生たちの姿を見て、わたしは考える。
けど、十一年近くも生きてきた結果として今、こうなっているんだから、そう簡単に良いアイディアが浮かぶはずもなかった。
× × ×
わたしの書いた作文がコンクールで佳作をもらったのはそれから一年半後、小学六年生の時のことだった。
全校生徒の前で校長先生から賞状を渡されて、これでわたしも人気者になれるかもしれない、たくさんの友達ができるかもしれない、と思った。
でも、現実はわたしが想像していたよりも、はるかに厳しいものだった。
人気者どころか、クラスの誰も褒めてくれなかったし、話題にすらしてくれなかったのだ。
絵を描くのが上手い
作文で賞をもらうのだって大変な、誰にでもできることじゃないのに。
こんなの、不公平じゃないか――
そういうモヤモヤした気持ちを抱えたまま、わたしは小学校を卒業し、中学生になってしまった。
そして、進学からしばらく経ったある日――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます