元魔王様とテルイゾラの地下空間 6

 暫くして娼館からジルとフォルトゥナが出てくる。

いつ出てくるのかとそわそわしながら待っていたレイアとテスラは姿を確認すると急ぎ足で近付いてくる。


「じ、ジル様。随分と遅かったですね。」


「もしかして、やっちゃいました?」


 不安そうに尋ねてくる二人。

娼館にいた時間が長かったので気になっていた様だ。

言葉は濁しているがテスラの発言にレイアが顔を赤くしているのでそう言う事なのだろう。


「やっちゃってはいないから安心しろ。娼婦と話し込んで長くなっただけだ。」


 それを聞いて二人は一安心する。

娼館に入っていったので不安だったがジルの貞操は守られた様だ。


「まさか娼館に入って本当に何もしないで出てくるなんて…。これは冒涜ですよ…。」


 ジルの後に続いて娼館から出てきたフォルトゥナが溜め息を吐きつつ肩を落としている。

娼館に入る前からとても楽しみにしていたので、あまり楽しめなかった事を残念がっている。


「何が冒涜ですか。ジル様を貴方と一緒にしないで下さい。」


「そうよ、あんたと違ってモテモテのジル様が女好きになったらどうしてくれるの。」


「ぐはっ!?うっ、胸が…苦しい…。」


 レイアとテスラに言葉のナイフでグサグサと刺されたフォルトゥナがよろめいている。

好きな人を想うばかりに言葉が辛辣だ。


「はぁはぁ、ぼ、僕だってさっきまではモテモテだったんですから。分かる女性には分かるんです!」


 つい先程まではジルで無く自分が二人の娼婦に囲まれて幸せ気分を味わっていた。

その事を言っているのだろう。


「それはベタ惚れ薬を使ったからでしょう?何を自分の力の様に言っているのですか?」


「同じ魅了魔法が得意な種として恥ずかしいわね。」


「ぐぶはっ!?」


 フォルトゥナが何とか反論しようとしたがレイアとテスラによる正論ナイフで再び刺されてその場にバタリと倒れる。

相当なダメージを受けて立っている事も出来無い様子だ。


 二人が言う様に娼婦に囲まれていたのはベタ惚れ薬を使用したからだ。

その効果は凄まじく、娼婦達が目をハートマークにしてフォルトゥナの虜となり、尋ねれば何でも教えてくれる程だった。

なので話しを聞き終えて帰ろうとした時は大変だった。


 娼婦がフォルトゥナを離そうとせず、フォルトゥナも娼婦を離そうとしなかったからだ。

なので状態異常を治すポーションを振り掛けてやったら直ぐに娼婦達は正気に戻って手を離して帰っていき、それを見たフォルトゥナは唖然としていた。


「その辺にしてやれ二人共。一応ベタ惚れ薬のおかげで有力な情報は聞けたのだからな。」


「有力な情報ですか?」


「ああ、この時間帯の女主人は地下の娼館の方へ行っているらしい。あと数時間もすれば戻ってくると聞いた。」


 そもそも今はこの娼館にいなかった。

時間帯で地上と地下の娼館を行き来していると娼婦達が教えてくれたのだ。


「では戻ってきた時に接触しますか?」


「それでもいいが女主人には行き付けの酒場があるらしくてな。娼館間の移動をする時に立ち寄って食事をしているらしいぞ。」


 娼館に戻ってくるまで待っていても一見さんの指名がお断りと言うルールであれば話す機会も無いかもしれない。

それならば酒場で食事中を狙った方がしっかり接触出来そうだ。


「その酒場の場所も聞けたのですか?」


「ああ、場所もフォルトゥナが知っているらしい。表通りでは無い場所だから人もあまり寄り付かないそうだ。」


「接触するには絶好の場所かもしれませんね。」


 ベタ惚れ薬を使って惚れさせようとしているのだから、あまり人目には付かない方がいいだろう。

また治安維持組織に目を付けられるのは面倒だ。


「それなら早めに向かって待機しませんか?すれ違いは面倒ですから。」


「だな、フォルトゥナ案内を頼めるか?」


 そう言ってフォルトゥナを見るとまだ地面に倒れている。

先程の言葉のナイフを受けて何かをぶつぶつと呟いている。


「自分の力じゃない…。仕方無いんですよ…。インキュバスなのに魅力魔法の適性が低いんですから…。僕だって本当なら…。」


 そうやって悔しそうな表情で嘆いている。

陣形魔法では無く魅了魔法の適性が欲しいと言うのは魔王時代から何百回聞かされたか分からない。


 確かに魅了魔法が低いのはフォルトゥナにとっては残念な事だと思うが、その陣形魔法に多くの同族達が救われてきたのも紛れも無い事実だ。

非常に役に立ってくれている魔法なのだからそこまで卑下しないで元気を出してもらいたい。


「いつまでもぐちぐち言ってないでさっさと案内しなさい。だからあんたはモテないのよ。」


「うぐおはっ!?」


 立ち上がりかけていたフォルトゥナは再びテスラの言葉に地面に倒れる。

テスラの性格もあるかもしれないがサキュバス種とインキュバス種は魔族の中でも能力的に似通っているので、昔からフォルトゥナだけには容赦が無かった。


「テスラ、前から思っていたがお前結構楽しんでいないか?」


「気のせいじゃないですか?」


 テスラにはあまり自覚が無いらしく、キョトンとした顔で首を傾げていた。

そしてテスラの言葉の暴力によってダウンしたフォルトゥナが立ち直るのには数十分近くも掛かった。

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