元魔王様とフォルトゥナとの再会 2
フォルトゥナ探しはミネルヴァが引き受けてくれたので、少しの間ジル達はテルイゾラを楽しむ事にする。
「我らはオークションでも行くか?」
「そうですね、開催予定のオークションはこの様になっています。」
砂漠船で渡されたオークション予定表の紙を受け取って見てみる。
今日テルイゾラで行われるオークションの予定がずらりと載っている。
「まだ時間はありそうだな。」
「ではジル様、私達行ってみたいところがあるんですけど。」
「も、もしお時間があればでいいのですが。」
テスラがジルの発言を聞いて提案し、レイアも緊張しながら付け加える。
「ああ、構わないぞ。我の用事だけに付き合わせるのも悪いからな。」
ジルが許可すると二人は満面の笑みを浮かべて道案内してくれた。
二人に連れられてきたのは一軒の飲食店だ。
客足も多く人気店の様である。
「ここはテルイゾラで最も人気の食事処、世界料理店です。」
「世界中の料理が食べられる事で有名らしいですよ。ジル様はお食事が好きですからここがいいかなって二人で話してたんです。」
「ほう、それは楽しみだ。」
魔王時代は食事を取る必要が無い身体だった事もあり、食に対する興味が薄かった。
なのでその反動なのか人族に転生してからは毎日の食事が楽しみになっている。
それなのに転生後は殆どセダンの街から動く事が無く、ジャミール王国から外に出る事も稀だ。
人族の一地域の食事しか堪能出来ていないジルにとっては最高の食事処である。
「見た事の無い料理名ばかりだな。」
早速中に入ってメニューを確認するととんでもない数の料理名が並んでいる。
まるで異世界通販で別世界の料理を見ているかの様だ。
「遥か東方の料理、一部の民族料理、希少食材を使った地域料理等もありますからね。」
「せっかくですから色々と注文してみませんか?」
「そうするか。」
ジルは見た目は細いが燃費の悪い身体なので沢山食べられる。
少し頼み過ぎなくらいが丁度良いので、三人で気になった料理をどんどん注文してテーブルを埋めていく。
「美味いな。さすがは人気店だ。」
「スープも絶品ですよ。」
「うーん、このソースと肉の相性ばっちりね。」
運ばれてきた料理を堪能するジル達。
二人も砂賊や魔物と戦って魔力を消費したので見た目以上に食べれている。
食事での魔力回復は効率が悪いが、ジルが気に入っているので二人も付き合う内に今では自然な事となっていた。
「お前達のも美味そうだな。」
全員違う料理を食べているので目移りしてしまう。
「良かったらジル様も食べますか?」
「なっ!?」
テスラがフォークで刺した一切れの肉をジルの方に向けながら尋ねる。
そしてそれを見たレイアが顔を赤くして驚いている。
「そうか?ならば一口貰おう。」
「では失礼して、あーん。」
テスラによって口に運ばれた肉を咀嚼する。
味わった事の無い味が口の中に広がるが美味しい。
「成る程、面白い味付けだが我も好きだぞ。」
「美味しいですよね。うーん、更に美味しくなった気がします。」
その後に直ぐ別の肉を刺してテスラが自分で食べる。
そして蕩けた様な表情で呟く。
先程までより何倍も美味しそうに食べている。
「かかか間接…。」
「レイアもジル様に差し上げたら?」
「えっ?」
テスラが助け舟を出してやるとレイアが固まってしまう。
奥手のレイアは自分からこう言った行動はしない為、こうしてテスラがアシストしてあげる事が多い。
「いいのか?そのスープも気になっていたんだ。」
「は、はい!ど、どうぞ!」
レイアが顔を赤くしながらスプーンで救ったスープをジルの方に差し出す。
緊張からかプルプルと震えてスープが溢れそうになっていたのでジルは直ぐに口に入れる。
「このスープは海鮮の良い出汁が出ているな。食欲を唆られる。」
「そそそそうですね。」
二人の食べている料理も味わえたのでジルは自分の料理に戻る。
しかしレイアはスプーンを見ながら食事の手が止まる。
「レイア、食べないの?」
それを見てニヤニヤしながらテスラが尋ねる。
「っ!食べますよ!美味しい…です。」
「良かったわね。」
真っ赤な顔になったレイアを見てテスラも満足気に頷く。
同じ人を好きになってしまったライバルではあるが、共に長い間苦楽を共にしてきた唯一無二の親友でもあるので抜け駆けしたりはしないのだ。
「せっかくだから我のも何か分けてやろう。」
「そ、そんな恐れ多い事です!?」
「はーい!私は食べます!あーんして下さい!」
「て、テスラ!?」
遠慮したレイアと違ってテスラは嬉々として手を上げている。
「断るのも悪いでしょ?」
「そ、それは。」
と言う建前は置いておいてこんなチャンスを逃すテスラでは無い。
「ほら、口を開けろ。」
「あーん。んんん、ジル様に食べさせてもらえて格別に美味しい気がします。」
両頬を押さえながら満面の笑みでテスラが呟く。
その幸せそうな表情にレイアも羨ましそうな視線を向けている。
「これくらいで喜んでくれるならお安い御用だ。お前達には前世から世話になっているから礼になったなら良かったぞ。」
転生した今でも仕えてくれている二人には感謝しかない。
随分と迷惑を掛けてきたので恩返しもしていきたいと思っていたのだ。
「あの頃のジル様も種族を救おうと一生懸命で素晴らしかったですけど、今のジル様はあの頃には無い行動が多くて魅力的ですね。」
「そうか?まあ、昔と今では環境が違い過ぎるからな。」
前世ではこんな機会は無かった。
滅びる寸前だった魔族を持ち直す為に常に戦いの日々だったのだ。
「ほら、レイアも食べるだろう?」
「い、頂きます。」
テスラだけでは無く当然レイアにもしてあげる。
顔を赤くしながら小さく開けている口の中に料理を運んであげると、その表情がより一層赤くなった。
「あははっ、顔真っ赤じゃない。」
「美味かったか?」
「お、美味しいでしゅ。」
食事の味が分からなくなるくらい顔を赤くしながらも幸せな気持ちが溢れているレイアだった。
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