元魔王様とオークション島テルイゾラ 6

 奴隷商人達が大人数の奴隷契約を終えるのに1時間近く掛かった。

あの人数全員と契約した事を考えるとかなり早い方だろう。


 全員が奴隷契約したタイミングでテスラが魅了魔法を解除すると一斉に起きて騒ぎ出したが、既に奴隷契約が終わって奴隷の首輪を嵌められた後だったので何を言っても手遅れだ。


 あまりにも言う事を聞かない者は首を締め付けられていたので早々に全員諦めるだろう。

その後魔物を売る為にギルドに向かう予定だったが、先に町長へと会いに向かった。

入行許可証を今日中に貰う為である。


「駄目だ。」


 入行許可証を貰いたい旨を伝えると町長がそう口にして首を横に振ってきた。


「お前達が優秀な冒険者だと言うのは聞いた。しかし外からやってきた者に簡単に許可証をくれてやっていては無法者を大勢招き入れる事態になりかねない。」


 ジル達の報告を既に受けているみたいだが、それでもテルイゾラへの入行許可証を今日発行するつもりは無いらしい。

入行許可証を渡す為の町での仕事は、デスザードの利益の他にも人柄を見る意味もありそうだ。

テルイゾラへ入れる前に無法者を弾いているのだろう。


「どうしても渡す気は無いと?」


「無い。」


 ジルが尋ねると町長が大きく頷く。

発行する為の正規の手順を踏んでほしそうだ。


「ジル様どうします?この町長に剣でも突き付けて無理矢理発行させますか?」


「それよりも私の魔法の方がいいんじゃない?」


「お二方のお手を煩わせずとも、ここは私が。」


 レイアは腰の剣の柄に手を置き、テスラはにっこりと微笑みながら言い、ミネルヴァは手の関節をパキポキと鳴らしている。

そして当然それは町長の目の前で行われている。


「お前達…。」


 入行許可証が欲しいのに発行出来る町長からの印象が悪くなる様な事をする三人にジルが額を抑える。


「こそこそしないのは好感が持てるがいかんせん堂々とし過ぎだ。危険思想を持つ者もテルイゾラへは入れたくは無いな。」


 案の定それを見た町長が渋い顔をしている。

自分が入行許可証を発行した人物が騒ぎを起こすのは後々面倒なのだ。


「町長さんが首を縦に降っていただけたらそんな事は考えもしませんよ?」


「そうそう、脅したくて脅してる訳じゃ無いんだからさ。」


「そうは見えんな。」


 レイアとテスラの反省が見えない態度に町長が呆れている。

このままでは確実に交渉が決裂しそうだと思ったジルが前に出る。


「お前達は下がっていろ。それで町長、何か手段は無いのか?一応大量の魔物も狩ってきたから町に貢献はしているぞ。」


「何?砂賊だけで無く魔物もか?むぅ。」


 ジルの言葉を聞いて町長は思案顔になる。

元々デスザードの利益と言う面では申し分無い成果を持ってきている。

それが更に増えたと聞けば町長も一蹴するのはどうなのかと考えてしまう。


「ならば難易度は高いが新たにこちらの条件を達成してもらえれば、その礼に入行許可証を発行すると言う条件でどうだろうか?」


 暫く考えた町長がジル達の腕を見込んで新たな条件を提示したいと言ってくる。

その対価として入行許可証を渡してくれるらしい。


「面倒事は嫌いなのでな。条件次第だ。」


 ジルとしては日数をあまり掛けたくないので良い条件であれば受けてもいいと思っている。

しかしそれ以上に自分達にとって面倒事だと感じれば受けるつもりは無い。


「凄腕の冒険者なのだろう?とある魔物を狩ってもらいたいだけだ。空の悪魔を倒してくれれば許可証くらい幾らでもくれてやる。」


「空の悪魔?」


 何やら物騒な名前が町長の口から出る。

そんな名前の魔物はいないので冒険者の二つ名の様な異名か何かだろう。


「最近この町の近くに住み始めた魔物です。町の中までは入ってきませんが、砂漠にいる魔物や町周辺の人を襲って空腹を満たしていて我々も手を焼いているのです。」


 今まで黙って様子を伺っていたここまで案内してくれた警備兵が説明してくれる。

その魔物による被害が大きく本当に困り果てた様な表情だ。


「町の外で狙われる者が増えている。今回の砂賊でかなり人員は補充出来たが町人が襲われ続ける現状は解決したい。」


 町長として民が襲われ続ける現状をこのままにはしておきたくない。

危険な外の仕事には今回補充した砂賊の奴隷を使うつもりだが、このままでは奴隷も際限無く魔物に食われてしまうだろう。


「ちなみに空の悪魔ってどんな魔物なんだ?」


「空を飛ぶ巨大な鳥の魔物だ。名前はデザートタイタンバードと言う。」


 深刻そうな表情で町長が告げる。

暫く自分達を苦しめ続けてきた魔物の名前に警備兵も顔を顰める。


「だが砂賊とは強さのレベルが違う。いくらお前達が強かろうとこんな化け物を狩れる冒険者は中々…。」


「あのデカい鳥であれば丁度我が倒しているぞ。」


「…何だと?」


 さすがに無茶な討伐依頼かと思いながら話していた町長は、ジルが既に倒していると言ってきたので耳を疑う。

ジルはあの大きな魔物を倒した時に万能鑑定を使用していたので間違いは無い。

町長が口にした魔物の名前を聞いて少し驚いたくらいだ。


「あれが許可証を貰う為の交渉材料になるのなら直接見せてやろう。」


 思わぬ交渉材料を既に入手していた様でジルは町長を引き連れて町の外へと向かっていった。

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