元魔王様と浮島の超高難易度ダンジョン 3

 ジルとタイプDの足元には残骸が転がっている。

ボスの成れの果てである部品の数々だ。

それらは徐々に煙に変わっていく。


「はぁ、期待外れでしたね。」


 倒れたボスの残骸を見ながらタイプDが溜め息を吐く。

異世界の敵と言う事で楽しみにしていたのにあっさりと勝負が終わってしまったのだ。


「そう落ち込むな。面白い敵だったではないか。」


 五階層のボスはこの世界には存在しない機械で作られたアンドロイドだった。

自動的に動いてダンジョンの敵を迎撃するみたいだったが魔法の力に呆気なく倒された。


「確かに予想外の相手でしたけど物足りないですね。」


「それはタイプDだからと言うのもあるだろう。それに他のダンジョンとは全く違うと言うのがボスからも分かって興味を集めそうではないか。ドロップアイテムも変わっているしな。」


 通常であれば倒したダンジョンの魔物からは魔石や素材が手に入る。

しかしこのロボットのドロップアイテムは普通とはかなり違っていた。


「ん?何ですかこれ?」


「異世界のお菓子みたいだな。簡単に珍しいお菓子や甘味が手に入ると知れれば貴族にも人気が出るかもしれない。」


 この世界では手に入らない美味しい食べ物が手に入る。

その噂が広がれば直ぐに人は集まりそうだ。

金持ちの貴族達であればドロップアイテムを大金で購入してくれるかもしれない。


「成る程、人族に喜ばれるドロップアイテムなんですね。でも私の事も喜ばせてほしかったです。」


「それは階層を降れば叶うだろう。」


「そうですね、次に期待です!」


 ダンジョンは降りる程に魔物の強さが上がっていく。

まだ上層なので魔物の強さはこんなものだろう。

次のボスに期待しつつ六階層へと二人は降りる。


「またもや迷路みたいですけどどうしますか?」


「我らには空間把握があるからな。普通に挑んでも迷路はそこまで苦にならない。迷路階層は突破してもいいんじゃないか?」


「ではそうしましょう!レールガン!」


 タイプDも早く強いボスと戦いたいので賛成して床をぶち抜いていく。

先程の様に十階層にまたボス部屋があった。


「次のは魔物みたいですよ!」


「ゾンビか?」


「ボス部屋なんですからただのゾンビな訳がありません!いざ出撃!」


 ボス部屋の扉にはゾンビらしき絵が書かれている様に見えたが仮にもボスだ。

そんな弱い訳が無いとタイプDが勢い良く扉を開いて中に入る。

壁の松明に明かりが灯って魔法陣からゾンビが現れる。


「普通のゾンビみたいだな。」


「また期待外れですか!許せません!燃え尽きなさい、ファイアボール!」


 タイプDは怒りながら初級火魔法を使って火球を放つ。

初級火魔法と言ってもタイプDの高い適性があるのでジルと同じくとんでもない火力だ。

しかしゾンビとは思えない速い動きにより火球が回避される。


「なっ!?」


「ゾンビに避けられただと?」


 二人がそれを見て驚く。

低ランクの魔物に回避されるのも驚きだが、そんな低ランクの中でも動きが遅いゾンビに避けられる訳が無かった。


「あり得ません!私の魔法を避けるゾンビがいるなんて!今度は外しませんよ、ファイアボール!」


 先程よりもよく狙いを定めて魔法を放つ。

しかし結果は先程と変わらない。


「どうなってるんですか!?」


「どうやら普通のゾンビでは無いらしいな。」


 訳が分からないと叫ぶタイプDを置いておいて、ジルは万能鑑定を使用してゾンビを視る。

すると状態の欄が強化となっている事に気付く。

やはりボス仕様の普通のゾンビではないらしい。


「状態が強化となっている。何らかの方法でゾンビが強くなっている様だぞ。普通のゾンビとは性能が段違いだろう。」


「見た目通りでは無いと言う事ですか!それなら楽しめそうです!」


 それを聞いてタイプDがやる気になる。

見掛けによらず目の前のゾンビは強いので張り切って相手をする事にした。


「我らの様に見た目に騙されると痛い目に遭いそうだな。強化した魔物か、面白い事を考える。」


 魔物の強化と言えば邪神教の使う呪いの短剣が思い浮かぶがあれとは全く違う方法だ。

魔物の姿形を変えずに能力だけを純粋に高めている様である。


 ジルがそんな事を考えている間にタイプDは次々に魔法を撃ち込んでいく。

詠唱が必要無いのでゾンビに魔法が雨の様に降り注ぐ。


「なっ!?上級魔法を耐えるゾンビなんていていいんですか!?」


 使用した魔法の中には上級魔法もあり、ゾンビは多少の傷を負いながらも耐えて立っていた。

見た目通りの強さでは無いと分かったがゾンビに耐えられるのは中々衝撃的である。


「タイプD、加勢してやろうか?」


「こんなのでマスターに加勢してもらったら笑い者ですよ!私だけで倒します!」


 その後もタイプDは魔法を使用してゾンビと戦う。

かなり強化されているゾンビに翻弄されながらも10分程で決着が付いた。


「うおー!勝ちました!」


 ゾンビが煙となりドロップアイテムに変わっていく前でタイプDが勝鬨を上げている。


「ゾンビ一体を前にこの喜び様なのは側から見ると中々面白いな。」


 まるで初心者冒険者がソロでゾンビに勝利した様な喜び様である。


「マスターは普通のゾンビでは無いって知ってるんですから、それは言わないお約束ですよ!」


「悪い悪い、ドロップアイテムは魔石か。」


「大きいですね!」


 ゾンビから出る様な大きさの魔石では無い。

高ランクの魔物に匹敵するくらい強化されていた証拠だ。


「普通のゾンビでは無いと言うのを魔石が物語っているな。」


「これはこの後も期待出来ます!ガンガン攻略していきましょう!」


 強い魔物と戦えると分かってタイプDのテンションが一層高まっていた。

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