魔法生命体達と浮島防衛戦 4

 何度も何度も槍による攻撃を続けるがタイプDに致命傷を与える事が出来無い。

そもそも当たっている筈なのに傷すらも負っている様子が無い。


「はぁはぁ。」


「もう息切れですか?もっと楽しみましょうよ!」


 息の上がっているゲイエルと違ってタイプDは全く疲れている様子が無い。

そもそも最初の位置から殆ど動いていない。


「な、何故当たらない。お、俺の攻撃が外れているとでも言うのか?」


 絶対に当たったと確信を持てる攻撃ばかりなのにタイプDに傷を負わせる事が出来無い。

何がどうなっているのか訳が分からなかった。


「そう言えば種明かししていませんでしたね。ゲイエルさんは幻惑魔法と言う魔法をご存知ですか?」


 幻惑魔法とは特殊魔法の一つだ。

相手の五感を惑わしたり、自分の幻覚を作ったりする事が出来る魔法だ。


「それくらい知っている…ってまさか!?」


「はい、ゲイエルさんが攻撃していたのは私が幻惑魔法で作り出した幻です!幻にいくら攻撃しても効果はありません!」


 今こうして会話しているタイプDは幻惑魔法によって作り出された幻だった。

本物のタイプDは幻惑魔法を使って近くに潜んでいる。


 魔法使いである自分の弱点くらい理解しているので、槍を持った近接特化のゲイエルを見た瞬間から幻惑魔法を使用して対策していたのだ。


「馬鹿な!俺を嵌める幻惑魔法だと!あれは低ランクの雑魚を惑わすのがせいぜいの雑魚魔法だろうが!」


 幻惑魔法は特殊魔法の中でもとても使い勝手が悪い事で知られている。

低ランクの魔物を惑わすのがせいぜいであり、人種に対して効果は薄い。


 例え五感の一つである視覚を惑わせる事が出来ても、他の五感に引っ掛かってバレてしまう事が多い。

特に獣人族なんかは本物の呼吸音や臭いで直ぐに気付いてしまったりするし、そもそも注意深い者には効きにくい。


「ふっ、その程度の認識とはあまいですね!幻惑魔法は極めればとても厄介な魔法に化けるのですよ!と言っても私くらい高い適性とこの杖クラスの魔法武具が必要なので真似するのは難しいでしょうけどね!」


 タイプDが得意気に語る。

幻惑魔法を得意とする種族であってもこのレベルの幻を作り出すのは難しい。

それは同じくらい高い適性を持っているタイプD例外ではない。


 そんな幻惑魔法を実戦レベルに引き上げているのがジルが魔王時代に作った魔杖の力と言える。

タイプDの適性に神器クラスの杖があるからこそ出来る事なのだ。


「本当に俺が幻惑に掛かっていただと?ふざけやがって!」


 ゲイエルの聖痕が輝き出す。

まんまと騙されていた自分に腹が立っている様子だ。


「だから無駄ですよ!幻に攻撃しても本体の私は無傷です!」


「俺の見ているお前が幻なのは理解した。だが本体も近くにいる筈だ。見えなくても攻撃を当てて場所を特定すればいいだけの話し!中級風魔法、ウインドエッジ!」


 聖痕の力を使って頭上に持ち上げた槍を超高速回転させる。

その槍の先端から魔法による風の刃が全方向に放たれる。


「当たったが最後一瞬で貫いてやる!」


 本体の場所さえ分かれば見えていなくても一瞬で貫ける。

その自信がゲイエルにはあった。


「やれやれ、脳筋戦法ですか?」


 本体の場所がバレそうだと言うのにタイプDは余裕の表情だ。


「お前の様な小細工は必要無い!敵をただ貫く!それが俺の戦い方だ!」


「では貫いてみて下さいよ!」


「言われなくとも…っ!そこか!」


 ゲイエルは風の刃が空中で弾かれる不自然な場所を見逃さなかった。

その場所目掛けて槍を突き出すと潜んでいた本物のタイプDが杖で受け止めて姿を現す。


「はっ!やっと見つけたぜ!これでお前を…。」


「杖に触れてしまいましたね?」


「なっ!?」


 続いて身体を貫いてやろうと思ったが、その槍がドロドロと溶け出してしまった。


「て、てめえ俺の槍に何をしやがった!」


 ゲイエルの使う槍は希少金属によって作られた特別性だ。

そう簡単に溶けたりする物では無い。


「槍だけではありませんよ?手足はどうなっていますか?」


「お、俺の手足が!?」


 槍だけで無く、今度は手足の先からドロドロと身体が溶け出してしまった。

徐々に四肢から胴体へと伝わっていく。


「と、止まれ!止まりやがれ!」


「そのまま胴体に達して頭まで全てドロドロに崩れ去ります!如何ですか?私の魔法は?」


 にっこりと微笑みながら覗き込んでくるタイプD。

しかし四肢が無くなって胴体も溶け始めている今、そんな事を気にしている余裕は無い。


「こんな魔法があるなんて聞いて無いぞ!くそがー!」


「楽しかったですよゲイエルさん!」


 ゲイエルの叫びとタイプDの言葉を最後にゲイエルの頭まで全てが溶けて無くなった。

と言う幻覚をゲイエルは見せられているだけで、そんなグロテスクな事にはなっていない。


「おーい、ゲイエルさーん?」


 五体満足なゲイエルの前でタイプDが手を振ってみる。

しかし反応は返ってこない。


「私の魔法が凄すぎて完全に魂が壊れてしまいましたね!幻惑魔法で見せた幻だったのですが刺激が強過ぎた様です!」


 身体は無事だが心は壊れてしまった。

幻惑魔法に囚われた途中から自分で飛ぶ事も出来無くなってしまったので重力魔法で支えてあげていた。

だがゲイエルは死んでしまった様なものなので魔法を解除すると、落下していき大竜巻に飲み込まれていった。


「この一帯のお掃除も終わりましたし次にいきますか!今度はゲイエルさんよりも強い13位以上の方だと嬉しいですね!」


 タイプDは新たな強敵を求めて他の天使の下へと向かった。

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